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猫髪家の一族  作者: 真山砂糖
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5 昔話

胃が痛そうな係長、どうなるんやら。

 私たちはひと悶着あった後に、使用人の宇都宮さんにシャンデリアのある豪華な洋室へ案内されて、お茶を振る舞われた。

「村田、俺が助けなかったら、お前大怪我してたぞ」

「はい、先輩」

 普段と違う係長が新鮮だった。

「宇都宮さん、さっきの方たちは?」

「あ、はい、杖を持ってらした方は、一太郎さんの弟の大次郎さんです。それと背の高い方は使用人の権藤さんです。それよりも村田さん、大丈夫ですか?」

「ええ、私はどこもケガしてませんので」

 宇都宮さんはとても品のある方で、係長のことも心配してくれるとても良い人に思えた。

「あー、猿渡さーん、係長の交番時代のことー、教えて下さいよー」

 係長は瞬時に顔色が青白くなった。

「え、村田の交番勤務時代のこと?」

「なんかー、キャバ嬢をナンパしてー、クビになりかけたとかー」

 係長はますます顔色が青白くなった。

「あっはっはっ、キャバ嬢どころじゃなくて、女子高生まで何人もナンパして大変だったんですよ。しかも勤務中に。学校と親から苦情がたくさんきて、一軒一軒訪問して、謝って謝って、そりゃもう大変でしたよ、あっはっは」

「うわー、最悪ー」

「女子高生をナンパしてたんですか……」

 私も最悪だと思った。係長は死人のように生気が消えていた。

「あ、あの、先輩、今日はもうこのへんでお開きに……」

 係長が小声でボソボソっと言った。さすがに気の毒にも思えた。

「そうだ、やることがあった。じゃ、準備しようかな」

 猿渡さんはさすがに空気を読んで爽やかに去って行った。京子はギャルっぽく猿渡さんに手を振ってから、細目で係長のことをじっと見た。

「何だよ、磯田」

「係長ー、キモいー」

 係長は競馬で100万円負けた人みたいな低いテンションだった。係長のことを少し可哀想に思えてきたので、私は話題を変えようと思った。

「あ、ところで、係長、猿渡さんって、弁護士に転身されたの、すごいですね」

「おう」

「係長とは違ってー、モテそうな人ですねー」

「ちょっと、京子」

「事実だしー」

「猿渡さんって、警察官時代はどういう感じだったんですか」

「おう、真面目で仕事熱心で、みんなから尊敬されてた。面倒見が良くて、俺も結構飯をおごってもらってた」

「へー」

「あの人から警察官としてのイロハを叩き込まれた。当時の先輩は、今でも俺が目標とする理想の警察官だ」

「へー」

「えっと、猿渡さんは何年先輩になるんでしょうか」

「たしか、7歳上だったかな」

「へー」

「辞められた時の階級は?」

「いや、わからん。たぶん巡査部長じゃないかな」

「え、係長は警部補だったんですよね」

「そうだ、俺は警部補スタートだ」

「なんかー、複雑ー」

「階級は俺のほうが上だったけど、そんなこと気兼ねせずに指導に当たってくれた。柔道の訓練の時は散々投げ飛ばされたよ」

「猿渡さん、武道のほうは?」

「柔道も剣道も、何でも強かった。先輩は元々ボクシングをされてたんだ。でも視力が悪くなって、引退して、それから警察官になったそうだ」

 係長はだんだんと精悍な顔つきになってきて、昔を懐かしんでいるようだった。

はい、係長、悲惨ですね。

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