45 終わり
係長と小春と京子は、県警へと戻ります。
係長は、来た道とは別の道を運転していた。
「係長ー、今回もー、失恋でしたねー」
「やかましい、お前もだろ」
係長と京子は、いつものおバカな二人に戻りつつあった。
「豊さんとー、恵子さんはー、また猫の呪いにー、巻き込まれるのかなー」
京子はマジで心配しているような感じだった。
「おう、呪いか……今回みたいな事件が起こると、呪いって本当にあるのかなって考えちまうな」
係長がしんみりと言った。
「京子、豊さんと恵子さんは大丈夫よ。民俗学の本、全部読んだのよ。そしたら、猫の呪いは、21代目で終わるんだって。22代目の子孫は、猫みたいな髪型も遺伝しなくなって、一族に幸福が続くことになるんだって」
「マジでー?」
「何でも、“猫殺無情左衛門” に仕えていた祈祷師がそう占ったんだってさ」
「良かったー」
「えっと、確か……名前が……」
私は本を開いて、そう書かれたページを探した。
「あっ、あった。祈祷師の名前が、“戌亥” っていう名前なんです」
「おう、マジか?」
「はい、でも、戌井弁護士とは字が違いますね。“戌” は同じ漢字ですけど、“い” が干支に出てくる猪の “亥” ですね」
「おいおい、何か戌井弁護士と関係ありそうじゃねえか?」
「かもしれませんね……」
「22代目とか、歌舞伎の世界みたいでカッコいいよなあ」
「22かー、ニャンニャンねー」
「いや、京子、それは違うと思うんだけど」
「何だよ、磯田、俺とニャンニャン写真、撮りたいのか?」
「セクハラ相談窓口に通報しますねー」
完全にいつものおバカな会話が行われて、私は嬉しくて涙がこぼれそうになった。
県警に帰着した。刑事課へ行くと、山崎課長が出迎えてくれた。
「村田係長、お疲れさまです。香崎、磯田も、お疲れさん。とりあえず、ゆっくりして、疲れを癒して下さい。報告書は、いつでもいいです」
嶋村先輩はまだ公務災害で通院中だった。高木先輩はテンションが低く気落ちしているようで、昇進試験がうまくいかなかったであろうことが簡単に推測できた。
「係長、帝王ホテルの松阪牛のフルコース、忘れないでくださいよ」
「おう」
「係長ー、いつですかー」
「何がだ?」
「松阪牛ー」
「何だよ、磯田。俺は香崎と約束したんだ。お前は関係ないだろ」
「えー、私もー、松阪牛食べたいですよー」
「だから、お前を連れて行くなんて約束はしてねえ」
「あー、そういえばー、猿渡さんからー、聞いたんですけどー。係長がー、アーコちゃんっていうー、歌舞伎町のー、ふぅ――」
「待て! 待て! 待て! やめろ! わかった、磯田、お前も、松阪牛、連れて行ってやる。だから、それ以上言うな。黙ってろ。いいか、何も言うな」
係長はめちゃくちゃ焦りながら京子の話を遮って、松阪牛をオッケーした。おそらく、内緒で猿渡さんから係長の不始末を聞いたのだろう。合法的な脅迫が、ついに係長にも及んでしまった。それを見ていた山崎課長は今にも嗚咽しそうなくらいに顔が青くなっていたし、高木先輩は京子の恐ろしさに顔面蒼白状態だった。
私たちが猫髪村を去った当日、包丁と遺体の傷口が一致したことから、ようやく大次郎さんと照子さんの葬儀が、一太郎さんの時と同じ情念寺で営まれた。また同日、マリアさんとララさんの遺体がブラジルに送還されることになり、猫田家総出で見送りに出たそうだ。
八名、弥太郎さんを入れて九名が、無惨な殺され方で命を落とした。マスコミはこの一連の連続殺人事件のことを、京子と同じように、猫の呪いだとセンセーショナルに騒ぎ立てた。
後日、猿渡弁護士から聞いたところ、猫髪屋敷は取り壊されることになり、豊さんたちは別の場所で新居を構えることになったそうだ。権藤さんは無事に退院し、また使用人として猫田一族に仕えることになった。
戌井弁護士に祈祷師の “戌亥” のことを尋ねてみたが、初耳だったようで、関連については不明だと言われた。
帝王ホテルで松阪牛のフルコースを私と京子に奢った係長は、月給の33%が吹き飛んだ。
莫大な遺産が絡んだことで、復讐が復讐を呼び、血で血を洗う惨劇が一族内で起こってしまった。私は今回の複雑怪奇な事件を生涯忘れることはできないだろう。占い通りに、豊さんの子孫に幸福が続くように願いたい。
終わりました。
残酷でしたが、ゆる〜い怪奇事件でした。




