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猫髪家の一族  作者: 真山砂糖
4/45

4 先輩

猫田家へゴー!

 村の中へと車を走らせ、昔ながらの家々を数十件越えると、少し広い場所に出た。井戸が真ん中にあり、腐りかけた木製のベンチや錆びた鉄棒と滑り台が見えた。真正面には奥まで道らしきものが延びていた。そこを通って、奥の方まで走った。

 自然の草木から、手入れされた庭へと変わっているのに気がついた。すると、西洋の城のような大きな屋敷が目に入った。車が何台も駐車してある場所に、係長は車を停めた。

「おう、すげえでかい家だな。さすが大金持ちっていう感じだな」

 車から降りて、垣根に沿って歩いて行くと、立派な門が見えてきた。

「お待ちしておりました。猫髪屋敷へようこそ」

 そこでは和服姿の年配の女性が私たちを出迎えてくれていた。

「村田圭吾様ですね」

「はい、村田です」

「私、猫田家の使用人の宇都宮と申します。おや、お連れの方もご一緒ですか。これはまあかわいいお嬢さん方で」

「ありがとうー、お婆ちゃーん」

 宇都宮さんのお世辞を京子は真に受けていた。

「あの、どうして私の名前を?」

 係長が尋ねた。

「弁護士の戌井先生から聞いております」

「あ、なるほど」

「こちらへどうぞ」

 私たちは屋敷の中へ案内された。


「こちらの客間をお使い下さいませ」

 私たちは40畳くらいある広い和室へ通された。

「えー、三人で使うのー」

「おう、三人じゃ、広すぎるな」

「えー、そういう問題じゃなくてー。係長もー、ここ使うんですかー」

「おう、何だよ、俺がいちゃいけないのか」

「ふすまで仕切りができるようになっておりますので、ご安心下さいませ」

「えー、ふすまじゃ安心できないー」

 京子と同じく、私も安心できなかった。その時、言い争う大きな声が部屋の外から聞こえてきた。

「おう、何だ!」

 係長は真っ先に部屋から飛び出した。長い廊下で二人の男が口論をしているようだった。

「お前は身の程を知れ!」

「私はあんたに雇われとるんやない! 一太郎さんに雇われとるんや!」

「使用人の分際で、わしになめた口を利くな!」

 一人は身長が190センチはあろうかと思われる初老の大男だった。その大男を頭ごなしにしゃがれた声で怒鳴りつけているもう一人の男は、100歳近いのではないかと思われる小柄でよぼよぼしたライオンのたてがみのようなヘアスタイルの老人だった。

「おう、何だ? 威勢のいいチワワと分別のあるゴールデンレトリバーの戦いか?」

 係長の何となく当たっている例え方は、センスがあるなぁと私は思った。すると突然、小柄な老人のほうが持っている杖で殴る体勢を取った。

「おう、ヤバいな。止めないと」

 係長は急いで二人の間に割って入った。

「はいはい、やめましょうね」

「何だ、こら! わしの邪魔すんな!」

 その老人は係長の頭の上に杖を振り上げた。私はかなりヤバいと思った。とても係長では避けきれないと。

 しかし――

「おっと、大次郎さん、これは暴力ですよ。もう少しで警察官を殴ってしまうところでしたよ」

 中年の男性がスッと現れて、振り下ろされる杖を素手で掴んだのだ。係長は瞑った目を薄っすらと開けていた。

「ふん!」

 小柄な老人は怒りながらよぼよぼと足を引きずって去って行った。ムッとしながら初老の大男も去って行った。

「係長! 大丈夫ですか」

「あー、惜しかったー」

 京子の言葉に反応もせずに、係長はその男性を見て驚いていた。

「え、先輩!?」

「久しぶりだな、村田」

 この男性は係長を呼び捨てしていて、私は驚いた。

「村田、お前、まだ係長なのか」

「猿渡先生、もうお若くないのに無茶はやめて下さい。心配ですわよ。おっほっほっ」

 バブル期のキラキラな服装の戌井さんがやってきた。

「え、ではこちらの方が、係長の先輩の……」

「ああ、猿渡です。村田の元上司でした」

 猿渡さんは、色黒で、長身細身で、筋肉質だとわかるくらいに胸板が厚く、細身のスーツを着こなす爽やかなスポーツマンタイプの中年男性だった。

「えー、カッコいー」

「いやー、照れるなぁ」

「え、先輩、なぜここに……戌井さんは事務員と来るって……」

「ああ、まあ、んーと、そうだな、俺も遺言状を作成した一人だから、その責任を果たすために来たってとこかな」

 係長は驚いているというよりは、嫌そうな顔をしていた。

「こんな美人の部下を連れて来てるのか、相変わらずだな、村田」

「あ、はは……」

 係長は苦笑いして胃が痛そうだった。

おやまあ、猿渡弁護士がいましたねえ。

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