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猫髪家の一族  作者: 真山砂糖
16/45

16 猫の着ぐるみ

係長、自分で傷の手当してましたね。

 傷の手当が終わって、係長はペットボトルのお茶を飲んでいた。

「このダンディーな俺に、茶は似合わないな」

 私も京子も完全スルーした。

「おう、マリアさんは大丈夫だったのか? ケガとかは?」

「大丈夫だったはずです」

「おう、そうか。さっき、娘のララさんと話してたんだけど、その時、マリアさんに文句言われたんだよ」

「何て言われたんですかー」

「おう、全然わからなかった」

「係長、ポルトガル語は得意ではないのですか?」

「おう、全く知らん」

「役立たずねー」


 権藤さんが、夕食の支度が整ったと言いに来たので、私たちは食堂へ向かった。


 海山刑事の指示の下、使用人も含めた全員で仕出し弁当を食べた。ペットボトルのお茶も。異様な緊張感が漂う中での夕食だった。大次郎さんはちょっと大人しくなっていた。

 食後、戌井さんは犬占いをしていた。不思議と、京子は怖がる素振りを見せなかった。


 客間へ戻ろうと廊下へ出ると、海山刑事に呼び止められた。

「村田さん、ちょっとよろしいでしょうか」

「ええ、いいですよ」

「弥二郎さんの件、トリカブトの毒でした。弥二郎さんのスープから検出されました」

「トリカブト!? なんか昭和の二時間ドラマみたいだな」

「やっかいなことに、トリカブトは、この近辺に生えてるんですよ」

「え!」

 私たちは驚いた。

「使用人の、宇都宮、竹葉、青田、赤羽、権藤の誰かが、トリカブトを摘んできてスープの中に入れた可能性が最も高いと思われます」

「えー、やっぱりー」

 海山刑事の調べでは、その五人しかスープに毒を入れる時間はなかったということだった。

「おう、あの美人メイドたちを疑いたくはないけどな……」

「係長、私情を挟まずに、理性的に考えましょう」

「おう、当たり前だろ」

 係長は普段のニヤケ顔から真剣な顔になった。

「おう、相続が絡んでるのかもな。竹葉さんは、豊さんの婚約者だ。豊さんの父である弥太郎さんが財産を相続することになる。だから弥二郎さんを殺す動機はない。青田さんと赤羽さんは、……俺がナンパした」

「あの、係長、それ関係ないですから」

「おう、そうだな」

 海山刑事は話しの流れに顔をしかめていた。

「おう、青田さんと赤羽さんは、確か、タツコ参りに選ばれたことがあるから、里見村の出身なんだよな」

「係長ー、出身地が関係あるんですかー」

「おう、あるかもしれんだろ。権藤さんと宇都宮さんは、どうなんだろ」

「あ、確認してありますよ。権藤さんはI県から集団就職で東京へ出てきた後に、“株式会社きっとキャット” に転職して、それからここの使用人として働くようになりました。それと、宇都宮さんは、4年前に、N県からこの屋敷に来たそうです」

 海山刑事がメモ帳を開いて言った。

「え、どうしてN県から、こんなとんでもない田舎に?」

「たまたま一人で旅行してたら、里見村に流れ着いたとかで」

「いやいや、そんなことあるのか?」

「女性が一人旅で、たまたまこんな山奥の村に来るなんて、ありえないと思います」

「そうねー、係長が一人でナンパしてー、たまたま美人がひっかかるなんてー、ありえませんよー」

「おう、何だよその例え……」

 係長はしかめっ面を京子に向けた。その係長の視線の向こう側から豊さんが何かを持って近づいてきた。

「あ、皆さん、これ、着ぐるみです。猫の着ぐるみ。村の人たちがもう祭りを始めてるはずです、“猫猫丸(びょびょまる)祭り”。もし行かれるんでしたら、着ぐるみ、どうぞ」

「あ、いえ、さすがに着ぐるみまでは……」

 私はやんわりと断ろうと思ったが、係長は目の色が変わっていた。

「おっ、この着ぐるみは! 頭の部分がウレタン製で、下は布ですか。中々()ですね」

「村田さん、着ぐるみにお詳しいのですね。祖父の会社の製品なんです。この家には、猫の着ぐるみが五十着以上ありますので、よければお好きなのを選んでいただければ」

「さすがは猫田一族ですね」 

 係長と豊さんは盛り上がっていた。

「マリアさんとララさんも、それから、大次郎さんと照子さんも借りて行きましたよ。香崎さんと磯田さんは、いかがですか?」

「祭りには行こうと思ってるんですが、着ぐるみは遠慮しておきます……」

「私もー、着ぐるみはいらないでーす」

「そうですか」

「おう、お前ら、せっかくのチャンスを無駄にしやがって。あ、私はお借りしますよ」

「では、部屋で選んで下さい」

 係長と豊さんは嬉しそうだった。

「あ、村田さん、私はこれで失礼します。また明日来ますので」

 海山刑事はオタクの精神を理解できなさそうに帰っていった。入れ替わりで、猫の被り物を被った着物姿の男が来た。

「あのー、豊さん、恵子はいますか?」

 その男は被り物の口の部分を開いて自分の顔をのぞかせた。駐在の竹葉さんだった。

「あ、誰かと思えば……恵子なら今、自室で準備していると思います」

「そうですか。この懐中電灯、渡してもらえますか? タツコ参りに必要だと思いまして」

「わかりました。渡しておきます」

 豊さんは小型の懐中電灯を受け取った。

「懐中電灯か、便利そうだなあ。豊さん、懐中電灯あれば私にも貸してもらえるとありがたいのですが」

「村田さん、私、もう一つ持ってます。お貸ししますよ」

 竹葉さんは係長にそう返答すると、屋敷から出ていった。

「あれ、まさか駐在所まで取りに行ったんじゃ……」

 係長は唖然としていた。

「小春ー、行こー」

「そうね」

 私と京子は二人で “猫猫丸祭り” が行われている “猫猫丸大明神神社” へ向かった。

猫の着ぐるみですか。

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