1-7 少年賢者
イノシシグマを倒していくうち、経験値が260ptとなった。
1日でLv5。悪くない。
ピンギさんもピンギさんで、イノシシグマを容易に倒せてしまうので、
「もうちょっと早くアニキと出会っていたら最高だったス!」
と、大喜び。
「そういや、オデ、アニキのことはなんも聞いてなかったッス。アニキはいつから冒険者になったんスか? てか、気になるのは、その愚者っていうジョブッス。どこの教会がそんなジョブを与えてくれるんス? てか、アニキってどこの出身なんス? プリマムなんス?」
「チッ……、うるさいな……」
「へっ?」
「えっ?」
「いや、アニキ、なんか言ったッスか?」
「え? 俺、なんか言いました?」
「は、はい。うるさいな、みたいな」
「そんなことより、イノシシグマ狩りをしてもLvがすぐに上がらなくなってきたんで、明日はもうちょっと強いモンスターと戦ってみます?」
「そ、そうッスね」
森の中はうす暗くなってきていた。今日はこのぐらいにして、町に戻ろう。
「そういやっ、アニキ、強いモンスターだったら、いい案があるッス」
ピンギさんは「ゴールドグーイ」なるモンスターの話を始めた。
「噂に聞けば、獲得経験値が10,000ptとかいう金色のグーイなんス」
ただし、逃げ足が速い。見つけたと思ったら、すぐにいなくなってしまうという。
「でも、アニキの罵りさえあればイケるッス。ゴールドグーイがシビれてしまえば、こっちのもんス」
「そのゴールドグーイってのはどこにいるんですか」
「噂で聞いただけなんで、知らないッス」
俺は無言でにらみつける。
いや、そんな情報は白磁板に掲載されているんじゃないだろうか。
ということで、白磁板を取り出したら、MAIL欄にメールが届いていた。
◇◇◇◇◇◇
MAIL:
From:プリマムギルド協会事務局
ヴァーバ殿のパーティーに参加希望者です。
下記、詳細になります。
参加応募者:メシス・セージ 性別:男
年齢:16歳 職業:賢者
Lv:1 Rank:H
募集者にひとこと
やる気と元気だけは人一倍負けないのでよろしくお願いします。
◇◇◇◇◇◇
人一倍負けない、か……。どうも、使い方がおかしいんじゃないだろうか。「人一倍あります」じゃないだろうか。賢者のわりにはどうも……。
ウワサ話だけの魔法使いがのぞいてくる。
「賢者ッスか? 絶対にパーティーに加えたほうがいいッス」
彼の言う通りだ。ひとまずの目標は仲間を作っていくことだ。
プリマムの町に戻ってきたのは、夕方。ギルド受付のオバさんに面接の手続きを取った。面接者にMAILを代行で送ってくれる。
すぐさまMAILの返信があり、すぐにギルドに来るという。
インテロさんをナンパしたいが、冒険者を相手に忙しそうにしている。
ギルドの裏手に回った。
夕日のさしかかる芝生の庭園には、白木の丸いテーブルが8卓置いてある。1卓は5人組が占領していた。クエストがどうの、報酬がどうの、と、大きな声だ。
男同士のむさ苦しいパーティーだな。
椅子に腰かけてあくびをかいていると、青い髪の少年が歩みよってきた。
とがった目で、じろじろとこちらを詮索してくる。
「そちらは、レシピット・ヴァーバさんですか? 僕はメシス・セージって言いますけど?」
「ええ。こちらの方は僕とパーティーを組んでいるピンギ・ショーグさんです」
「初めましてッス。て、言っても、さっきパーティーを組ませてもらったばかりなんスけどね」
「ふーん」
ピンギさんをうがった眼差しでながめながら、メシス・セージは椅子を引いて腰かける。
綺麗な青い髪に透き通るような色白の肌だ。けれども、それがもったいないほどに、陰気くさい。
「単刀直入に言います。ヴァーバさんの広告を見て、珍しい職業の人だった、ということで、話を聞きたいんです」
「話を聞きたい……?」
「ええ。愚者とは、どんなジョブです?」
「いや、あの……、ハハッ」
俺は思わず笑いをもらした。笑わずにはいられなかった。
16歳という年齢ばかりか、幼さの残る見た目からして、どうあがいてもおれよりガキだ。
そのくせ、えらっそうに足を組んじゃっている。
「メシスくんは、つまり、その、俺のパーティー志願者だよね?」
「あ、そういうアレですか。自分の情報の前に、相手の情報を得たい、と。それでも結構ですけどね。僕の白磁板を見てもらったほうが早いですね」
空気も読めずに、メシス・セージは自らのトートバッグから白磁板を取り出してきた。
◇◇◇◇◇◇
名前:メシス・セージ
Lv:1 性別:男 Rank:H
年齢:16 身長:170cm 体重:49kg
髪:ウルトラマリン 目:ラピスラズリ
職業:賢者
称号:おのぼりさん
経験値:0
最大HP:18 現在HP:18
最大MP:11 最大MP:11
攻撃力 :47 守備力:42
スピード:7 運:32
スキル:
賢者の語り
魔法:
レクペ
装備:
シルクのローブ 丈夫な白ズボン 賢者の高級マント
一流ブランドのブーツ ホワイトロッド
有名なブランドのトートバッグ 一流ブランドの財布
所持金:998G
預貯金:40,000G
MAIL:
From:プリマムギルド協会事務局
募集者が当ギルドの裏庭でお待ちです。
◇◇◇◇◇◇
俺は吹き出しそうな笑いをこらえた。
称号が「おのぼりさん」だった。
これだけ生意気な顔をしておいて、田舎者だ。もう、笑いをこらえるのに必死だ。他の内容なんて入ってこない。
「ごらんのとおり、Lvはいまだ1ですが、賢者というジョブについては、僕のセールスポイントだと自負しています。なにせ、賢者のジョブを与えてもらうため、地元の教会に30万Gも払いましから」
「30万っ!?」
飛びはねたのは、となりのピンギさん。
「30万Gもどうやって手に入れたんス?」
「まあ、父が農場主で、そういうのには困らなかった、と」
田舎の金持ちのボンボンってところか。
珍しいジョブを手に入れるために、金持ちの親に頼った。それについて、恥じるのでもなく、謙遜するのでもなく、むしろ、どこか自慢げにサラリと言う。
俺は白磁板を返し、腰を上げた。
「残念ながら、メシスさんとはソリが合わなそうなので、今回はなかったことに」
「えっ?」
たちまち、ボンボンは顔をこわばらせる。
「な、なんでですか。ハ? どこが不採用なんです? だって、僕は賢者ですよ? 滅多にいないはずじゃ? ギルドの掲示板にまったく見かけなかったでしょ?」
「そ、そうッスよ、アニキ」
ピンギさんが立ち去ろうとする俺の手を取って引き止めてくる。
「もったいないッスよ。こちらの方は数ある広告からアニキを選んでくれた、それって、ラッキーなことッスよ」
「気安くさわんな」
俺はピンギさんの汗みずくの手を振り払う。
「だったら、引く手あまた、俺にこだわる必要なんてない。さっさとどっか、別のところに行けばいい。それと、ひとつ、アドバイス。キミがこの町で真っ先にやることは、BANKにたんまりと預けているそのカネで、ボディガードを雇うことだ」
唖然としているメシス・セージを尻目に、俺はギルドの庭園から出ていった。