1-5 愚者最強説
ギルドからMAILが来るまではと思い、町の外に出てみる。
ほとんどが草原だ。遠くのほうには森がちょこちょこと広がっている。はるかかなたには、山々が青くかすんでいる。
ズタ袋から白磁板を取り出す。ギルドに登録した途端、さまざまな情報が見れるようになった。
表面をスマホ操作のようにタッチ・スワイプする。文字列がページ送りされたりもする。
ギルドの公開情報のモンスターマップを元に、Lv1でも渡り合えそうなモンスターの生息地点に移動。
巨大な緑色のアメーバーが、モゾモゾと草原を這いずりまわっていた。
モンスターマップによれば、『グーイ』という。HP5、獲得経験値は1pt、獲得金は1G。世界最弱だ。
僕は『旅人のベルト』のホルスターにおさめている『旅人のナイフ』を取り出す。
モゾモゾと這いつくばっているグーイに慎重に歩み寄っていく。
気持ちわるい……。
すると、このアメーバ、突然、ピョーン、と、飛んでき、胸の辺りに体当たりしてきた。
世界最弱のくせに、すごい痛い。ベチャベチャしているくせにすごい硬い。あんまりにも痛いから、おかしいなと思って、ズタ袋から白磁板を取り出す。
現在HPが21になっていた。HPを1削られただけでこの痛さ……。よくできている……。
クソッタレ、と、思いつつ顔を上げると、僕のターンとかじゃないのだろうか、アメーバがまた再び、ピョーン、って体当たりしてきた。すっげえ、痛い。
さすがにカチンと来た。怒りが言葉になって口をついた。
「このクソアメーバ!」
すると―—。
グーイは急にブルブルとふるえ出した。形態もベチャアァってうすく広がっていった。
目を丸めていると、アメーバは固まって動かなくなる。
よくわからない。が、とりあえず、僕はグーイを足で5回踏む。踏みつぶし5回目で急にその形が煙になり、その煙もすぐに消えた。
僕の『旅人のブーツ』のわきには、小さい金貨が1枚落ちている。Gだ。
金貨をひろいズタ袋に放りこんだ。けれども、どうして急にアメーバーはおかしくなったんだろう。
まあいいや。経験値の確認のために白磁板をチェックする。たったの1ptしか上がってない。
てか――、スキルの欄に目がとまる。
ここに『怒号の罵り』がある。もしかして、怒鳴りつけたから、スキルが発動し、アメーバーはおかしくなってしまったのだろうか。
MPが減ってないのでよくわからない。スキルはMPを消費しないのか。
確証が取れないので、もう1度、怒鳴ろうと思い、グーイを探す。すぐにアメーバーは見つかった。モゾモゾと気持ち悪い動きだ。
とにかく、グーイに気づかれないうちに怒鳴り散らしてみる。罵りってあるから、それなりに悪口を言ってみないとな。
「おい! クソアメーバ野郎!」
グーイはぶるぶると震えながら薄く広がっていってしまい、やがて固まる。
ふむ――。
なんだか知らないけれども、精神的ダメージにより動けなくなってしまうらしい。
というか、このスキルがあれば、どんなモンスターでも動けなくなるんじゃ? こんな耳のないアメーバーでさえ悪口が聞こえている。
これさえあれば、なんでも倒せるんじゃないだろうか。
「フフッ」
思わず笑ってしまった。グーイを5回踏み潰し、経験値1ptアンド1Gゲット。
白磁板を確認すれば経験値2pt、所持金32Gだ。
よしよし。
こんなに楽勝にポイントとカネを稼げるのなら、今日のうちにLv2だ。
僕はグーイ狩りに没頭した。グーイと出くわせばバカだのカスだのと罵って、金縛りの刑に処し、ゴムマリみたいにキックで飛ばしたり、持ち上げて叩きつけたり、ジャンピングエルボーを食らわせていった――。
疲れた。グーイを10匹は撃破したというのに、レベルが上がらない。
それもそうだ。なにせ、世界最弱ばかりを狩っているのだから。
きっと『怒号の罵り』さえあれば、どんなモンスターでも征伐できる。このさい、上級者向けのモンスターをたおして、経験値を多めにいただこう。
モンスターマップを確認し、Lv7~10あたりが相手にするようなモンスターめがけ、森のほうへと移動していく。
平原から、鬱蒼とした森へ。
「ひいぃっ!」
森に入ってそうそう、叫び声が飛んできた。小走りに進んでみれば、誰かがモンスターと対峙している。
お星様模様の緑のナイトハット。ギルドで出くわした太った男性だ。
「フランマ!」
と、彼は叫び、右手から火の玉を飛ばした。
その火の玉が向かっていくのは、2足歩行で巨体を支えている、いわば熊――、しかし、手足と頭部が猪。
あれはどうやらイノシシグマだ。レベルアップのためにお目当てとしていた、猛獣系モンスターだ。
3匹もいる。
ナイトハットの男性がはなった火の玉は、1匹のイノシシグマに、ビシッ、と当たった。が、火は燃えもせず、モンスターは悶えもせず、むしろ、イノシシグマは不適に笑っているかのよう。
「あ…、あう……」
ナイトハットは震えながら、あとずさり。
3匹の巨体は、じりじりとナイトハットを追いつめていく。
どう見ても、彼に勝ち目はない。