1-3 宿敵
なんだそりゃ。
ナイーブでデリケートなことをズケズケと言うってさ……。
前世のことなど、蒸し返されたくない。
ところが、彼女は、ホントにそういう空気の読めない人間なのだろう、僕がプイっと顔をそむけたというのに、
「ねえねえ、ちょっと」
と、小走りになって、さらに詰め寄ってくる。
「だから、あなたって転生者でしょ? 私も転生してきたときね、ここにいたの。だから、わかるんだからね?」
パープルヘアーは、口もとに、若干のゆがんだ笑みを見せている。
どこか得意げで、どこか勝ちほこっている。
僕は視線を合わせないまま、吐き捨てた。
「ええ、そうですよ。だからなんですか」
「やっぱりねえー」
上から目線。鼻で笑うような、あるいは、瞳であざ笑うような。
まず最初に話した女性が、こんなのだとはサイアクだ。
だが、こちらの不服な表情もドコフクカゼで、僕の頭の先から足の先までじろじろと眺めてくる。
「あのさ、もしかして、あなたって見かけたことがあるかも」
「はあっ? 僕は今ここに来たばかりですよ?」
「そういうことじゃなくって。だから、前世で見たって言うこと。私の前世、あなたの前世で」
「ハハ……。僕は前の世界で、あなたみたいな紫色なんて見かけてませんが」
「違う違うちが~う。だから、なんとなくってヤツ」
イラつくな……。
「会ったことあるでしょ?」
「てか、あなたは誰なんですか」
「私はアーモ・クラーレ。名前はアーモ。クラーレが苗字」
「じゃなくて、前の世界では誰だったのか、それを訊いているんですが」
「ヒ・ミ・ツ」
ウフフ、と、パープルヘアーは笑う。
……。
パープルヘアーは挑発の天才だろう、しかし、ここでトラブルを起こすわけにはいかない。
パープルヘアーは先にこちらの世界に来ている。間違いなく僕よりもLvが上だ。
だからこそ、この女は調子に乗っている。挑発してきている。
「で、あなたって何を選んだの? 職業」
「え?」
「いいじゃん、見せてよ。私のも見せるからさ」
魂胆は丸見えだ。Lv1の僕と比較して、優越感にひたるのだ。
彼女はセンスの悪い花がらのトートバッグから、白磁板を取り出してくる。僕に差し出してくる。
◇◇◇◇◇◇
名前:アーモ・クラーレ Rank:F
Lv:20
年齢:20 身長:160cm 体重:46kg
ジョブ:僧侶
称号:パーティーのマドンナ
スキル
優しいささやき なぐさみのぬくもり いたいけな抱擁
魔法
レクペ アルテ エイアス グラジオ
デレクペ デアルテ
装備:ミッドナイトベール シャドウコート ブラックパールのロッド 清潔なブーツ 夢見るネックレス
所持金:910G
預貯金:5,000G
◇◇◇◇◇◇
フン……。自信過剰のわりにLv20じゃないか。
ただし、彼女も彼女で、僕のホワイトボードを眺めながら失笑している。
「愚者って何?」
「ここに来たばっかりの僕が、知るはずもありません」
彼女はあざ笑いながら、ホワイトボードを返してくる。
「ま、とりあえずさ、このプリマムの町には、仕事紹介所のギルドがあるの。だから、そこに登録して、パーティーを組みたい人を募集して、それからだね、仕事を請け負うのは。モンスターをやっつけてレベル上げてさ」
アーモ・クラーレはホワイトボードをトートバッグにしまいこみ、肩でつるし直す。帰りじたくを整えている。
「あ、ごめん。私はもうすでにパーティー組んじゃっているから。それに、Lv1の人と組むのはね」
あきれた。
パーティーを組みたいだなんて、一言も言ってない。さすがは「パーティーのマドンナ」だ。勘違いもはなはだしい。
「プリマムの町のギルドは結構な人数が登録しているから、だから、すぐに見つかると思うよ。うん。またいずれ会うかもしれないけど、頑張ってね~」
アーモ・クラーレは僕に手を振りながら、町の中へと消えていった。