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3-8  狂走

 2日間のGG狩りによって、俺のLv45、ピンギはLv33、アスパラガスはLv37、アニーはLv23。


 28匹のゴールドグーイと遭遇し、倒した数は6匹、撃破率は21%という有り様。


 プリマムに戻ってくる。馬鹿の一つ覚えでラーハ屋だ。


 アニーはGG狩りにえらく満足。凹凸は終始俺に視線を突き刺すという生意気な態度。


「ププンデッタ村を守っていたパーティーはLv50ぐらいって言ってたッス。今のままじゃとてもじゃないけど勝てるはずないッス」


 他にも何か言いたげな目つきでデブがほざけば、隣で訳知り顔の賢者がこくこくとうなずく。


「このままのペースだと1ヶ月はかかります」


 こいつらは、気の短い俺をあおるような真似まで習得している。


 しかし、アニーがバナナフィッシュの白身をフォークで口に運びながら言った。


「1ヶ月ぐらい仕方ないかもね」


 本末転倒とはこのことだ……。


 そもそもが当初は、Rankを上げるためのププンデッタ討伐だった。そして、貴族や富豪の娘などとお近づきになるのだ。


 ところが、アニーとばったり知り合って、俺の目的はうやむやになりかけている。ましてや、アニーは俺に合わないとわかった。


 デブとガリはそんな俺の苛立ちがわかるんだろう。どうせレシピットの短気野郎は1ヶ月も我慢できない、として、怒号の罵りをやれと暗黙のうちにあおってきているのだ。


 そんなもん、下僕どもの手のひらにされているようで御免だ。


 アニーも俺には見向きもしねえ。もういい。


 俺のイケメンスキルがまったく通用しないこのオンナは、おそらく同性愛者だ。そうと決まっていやがる。マージャとかいうのがその相手なのだ。


 やめだやめ。


 一応ながらアニーもオンナなので、俺はいいところを見せといてやるが、さっさとププンデッタ村の問題を解決してそれでおしまい。


「明日からはどうするか、考えておく」


 俺はバカどもの意見を取りまとめることを約束し、ラーハ屋をあとにする。アビトレンヌの小さな一軒家に向かう。窓辺に灯火がこぼれている。木製のドアをノックする。


 ドアが開いて、俺は爽やかな笑みとともに敷居を跨ごうとするも、


挿絵(By みてみん)


 え……、誰? 


 間違えたと思って一歩下がって家を眺める。


「レシピットさん? 姉から聞いていますよ。レシピットさんがもうそろそろ来るだろうから、訪ねて来たら家に上げなさいって」


 さすが、俺のフレンド。そういえば、アビトレンヌには妹がいるという話だった。俺が前に来た時には旅行に出かけていたのだった。


 お言葉に甘えて家に上がらせてもらい、初対面のオンナと初顔合わせで一つ屋根の下。たまらないシチュエーションだ。やはり、俺の日々はこうでなくてはならない。


 食卓のテーブルになんとなく腰かけると、


「ご飯食べました? 果物とパンしかありませんけど、いかがですか」


「お構いなく、食べてきましたので。お姉さんの帰りは遅いんですか」


「きっと、お酒を飲みに行っています。遅くなるんじゃないかしら。姉はそういう友人が多いですから」


「お姉さんは確か市場で会計事務をされているそうですけど、妹さんは?」


「私は王国立法府の秘書室で働いています」


 どおりで言葉遣いがかしこまっている。仕事以外でも仕事の自分を抜かないという、ある意味でいう完璧主義者か。


 アビトレンヌ妹は俺の手元に空っぽのティーカップを置くと、そこにポットの中身を注いでいく。香草の匂いがほんのりと立ち込め、心身共に落ち着いていく。


「姉はレシピットさんをプリマム随一の美男子なんて言ってましたけど、あながち、大げさではないかもしれませんね」


 俺はティーカップに唇を寄せつつ、謙遜して手を振る。向かいに腰かけたアビトレンヌ妹は、フフ、と、ほほ笑みながら、ハーブティーを静かにすする。


 姉妹のフレンドをゲット。


「王国立法府ということは、監察官のような人とも接触するんですか?」


「そうですね。私たちは主に長官や副長官の秘書業務をしていますけれども、監察官の方ともお話はいたしますね」


「じゃあ、マントン伯爵ってご存知ですよね」


 アビトレンヌ妹は唇を柔らかくして笑み、うなずいた。しかし、何ら一言も語らない。再び、ティーカップに唇を寄せるだけ。さすが、立法府の秘書。ギルドの受付事務とは口の重さが違う。


「マントン伯爵の娘の友人が、ププンデッタ村に1人で乗り込んでいって、ならず者たちに殺されそうになった。その子が言うには、監察官のマントン伯爵が不正を追及しようとして、逆に陰謀に嵌められた、って言うんです。黒幕はその不正を犯している人物だと」


「そうですか」


 アビトレンヌ妹は腰を上げ、俺に背中を向けると、そのままキッチンで洗い物を始める。


「マントン伯爵のお嬢様の友人、その方はブラカンド侯の長女、アン様ですね。私がアン様にお話するのは恐れ多いので、レシピットさんが代わりに教えてあげてください。これ以上、足を踏み入れると、ご自身のみならず、ご家族までも悲しい思いにさせてしまうと」


 ティーカップとポットを洗う静かな水しぶきが、ちゃぷちゃぷと、黙した空間の中に沈鬱を打っていく。


 アビトレンヌ妹の彫刻のような背中は色気に満ちているが、真っ白な肌は完璧主義者の冷たさにも見える。


 ププンデッタ騒動は、王国機関の中では、知る人は知り、見て見ぬふりを貫かねばならない出来事なのか。

 

 俺はハーブティーを一息にし、腰を上げる。

 

「用事を思い出した。1時間後には戻ってくる」


「え?」


 俺はズタ袋を背負うと、ドアを開け、あわてて追いかけてきたアビトレンヌ妹には目もくれず、マジカエでプリマムの町から離れていく。


 初めて会って会話もろくに交わしていないが、アビトレンヌ妹は(オトコ)の殺気を察したのかもしれない。


 とはいえ、俺はもとからこうするつもりだった。アビトレンヌと同じベッドに入ったあと、夜中の0時頃にこうするつもりだった。それがアビトレンヌ妹というイレギュラーと遭遇し、アビトレンヌ妹の話に胸糞悪くなってしまったので居ても立っても居られなったのだった。


 そもそも、1ケ月もアニーのLvアップを待てるわけもない。本来の目的はRankアップだ。くだらない(いさか)いはさっさと解決して、アビトレンヌ妹のようなフレンド候補と気まずい会話にならない日常に戻るべきだ。


 一転、夜風に乗った田舎くせえ香りが鼻をつく。


 弥生時代式の高床式住居群の門前、テントが張られており、ランカーのオッサンパーティーの3人ばかりが、俺が出現するなり、すっくと腰を上げてきた。


「なんだ、お前――」


 夜陰に目を凝らしてみれば、いちばん偉そうな輪っかミドリガミであった。次いで、東洋人ふうのテカテカ坊主頭も身構えてきた。


「なんだお前じゃねえ! いい年こいて緑頭なんてどうかしてんじゃねえのか! ハゲ! ボンクラ! チンコもおっ勃たねえからって、こんなところで野宿なんてテメーらどうかしてんだろ!」


「ううっ!」


 いやはや、近頃の鬱憤が晴れていく、心地よい罵声であった。


 ましてや、当然ながら、あれだけ偉ぶっていた連中は、3人ともが胸を押さえて呻きやがっている。


 何がLv50だ。何がRank:Aのパーティーだ。両膝をついてヨダレを垂らしちゃっているじゃねえか!


「カスども覚えとけ! 俺が天下無敵てんかむてき国士無双(こくしむそう)のレシピット・ヴァーバ様だ!」


 サムライソードを抜き取った俺は、哀れに無防備なオッサンの首筋に刃を叩き落とす。おっと、返り血で服が汚れちまった。殴る蹴るに切り替える。


「何事ォッ?」


 と、テントの中からカマヒゲ野郎や他の連中も飛び出てくる。


「気持ち悪りいんだこのカマ野郎! カス! ボケ! 死ね!」


 麻痺ったカマヒゲ野郎の兜頭に向かって、ジャンピングドロップキック。左足でそのまま踏んづけて、喉ボトケを右足ブーツの爪先でトゥーキック。


 ボコボコにしたところで、マジカエを唱え、フィアダイル山にワープ。真っ暗な崖道に降り立ち、中年のオッサンどもの身ぐるみを剥がしていく。


 素っ裸の汚い肉体になったところで、崖に向かって足蹴にし、1人ずつ夜闇の深淵の底へ落としていく。


 最後に残ったのは、輪っかを嵌めている緑頭(グリーンヘアー)。俺をもっともナメていたので、選抜してやった。とりあえず、麻痺状態から解放されたときのために、手足の骨を粉砕しておく。


 センスのないグリーンオッサンは、胸の苦しみと、手足の激痛で、泣き叫ぶ。


「Lv50までアップするのにお前らは何年かかったんだろうな。俺はしょうみのところ1ケ月だ。そんな俺にお前らは殺された」


「か、勘弁してくれ……」


 喋るまでに回復してきたので、俺は鼻づらを蹴飛ばしてやった。


「俺の質問にすべて答えたら、勘弁してやる。お前らに警護の依頼をしたのはどこのどいつだ」


 グリーンオッサンは鼻血を吹き出した顔で泣き叫んでおり、俺の問いには答えない。日本刀を抜いてき、片耳に刃を当てる。


「痛がってねえで、とっとと吐けや。もたもたしているんなら、顔面のデコボコしているところを一個ずつ削いでいくぞ」


「ふ、ふ、ふいまへん! 言うんで、言うんで、かんべんひてふたたい!」


「詫びは聞き飽きたんだよ!」


 俺は刀を押し込み、わめき叫ぶグリーン野郎。


「さっさと言えば俺の魔法で回復させてやるぜ」


「ふ、ふぁい。ゾロストです。ゾロスト伯爵の依頼です」


「ププンデッタ殲滅も、ププンデッタの連中が告訴したのもか」


「そうでふ。ゾロストのしわざでふ」


「フォメント!」


 詠唱とともに右手から飛び出してきた白い粉を血だるまのグリーン野郎にぶっかける。粉を浴びたグリーン野郎は目の焦点が合わなくなっていき、口をパクパクとさせ始める。


「ごめん。回復魔法じゃなかったぜ。これはキマッたみたいにブッ飛んじまう魔法だった。まあ――」


 俺はアヘアへとキマッているグリーン野郎の裸体をブーツの裏で足蹴にしていき、


「死ぬ前に天国状態になれて良かったな」


 標高千m以上の闇の谷底へと蹴り落とした。

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