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3-7  鬱屈

 翌朝、俺は飼い犬2匹&フレンドと合流し、マジカエの魔法でペトロサ村に移動する。


 昼メシ分として、村の乾物屋で畜生ちくしょうのジャーキーを買い、岩山の崖道へと出る。


 朝から縁起がいい。1発目からゴールドグーイだった。


 変態の賢者とデブの僧侶は、俺のスキルを期待して振り返ってくる。


「挟み撃ちにしよう」


 デブと変態を前方に忍び足で向かわせる。


「あれがゴールドグーイ?」


 金色のアメーバ―は切り立った崖をゆっくりと下ってくる。


「ああ。気が付かれるとものすごいスピードで逃げてしまうから」


 やがて、アメーバーが崖道に下りてき、俺は試しにキサイパの魔法を唱えてみる。


 ゴールドグーイの動体をつるりんとすべってしまう。


 で、アメーバーは風の素早さでズザザザザッと崖下に逃げていってしまった。


「ちょっ、アニキっ、何をやっているんスっ!」


「どうしてスキルを――」


「あっ!」


 と、俺は崖上に指を差した。


「ああ、ごめん。ゴールドグーイかと思ったら、イワヤマザルのウンコだった。いや、違うんだ、試しに魔法が効くかどうかやってみたくてね」


「ゴールドグーイには魔法は効かないッス――」


「そういうことなんだ、アニー。ああいうふうにゴールドグーイはすばしっこくて、倒すのがなかなか大変なんだ。アニーの会心の一撃がもしも通用するんだったらこれほど助かるものはないな」


「意外と大変ね」


 アニーは青グローブの両拳を腰に置いて、「うーん」と、可愛い唇を尖らせていたが、すぐに顔を上げてきて、にこっと笑う。


「でも、頑張ってみる。気を取り直して次に行こ」


 俺が笑顔でうなずくと、アニーはずんずんと先頭を歩いて行き、俺はデブとガリにボディブローを打ち付けて、小さい声で命じる。


「本当にわからねえ奴らだな。怒号の罵りのことは言うな。本気でマジで本当に崖から突き落とすぞ」


 どちらも不服そうなツラなので、もう1発ぶん殴る。


 ニンゲングイやイワヤマザルを倒していくうち、再び、ゴールドグーイに遭遇した。同じように挟み撃ちで待ち伏せする。


 金色のアメーバーが崖道に下りてきたところ、すかさずアニーが飛びかかり、右拳を打ち下ろす。するとゴールドグーイは煙になった。


挿絵(By みてみん)


「やった! 倒せた!」


 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶアニーのもとへ、変態とデブが満面の笑みで駆け寄っていく。


「すごいッス! アニーちゃんすごいッス!」


「今のが会心の一撃ですか!」


「うん! ダメもとでやってみたら急所を突けていたみたい!」


 運動会のお遊戯みたいにしてはしゃいでいる。俺はニコニコと笑いながら連中の輪に歩みよっていき、アニーの華奢な肩にさりげなく腕を回す。


「さすがじゃんか、アニー。これで俺たちのLv上げも楽になる」


「うん! ありがとう! それじゃ次行こ! 次!」


 アニーは俺の右腕をぐいっと肩で払うと、元気にずんずんと崖道を前進していく。


(スケ)コマシのアニキも、アニーちゃんには形無しッス」


「先生はやっぱり受付の女の子が」


 ボソボソとニヤついている下僕どもの頬を目いっぱいの力でビンタする。


 クソ……。なぜ、アニーは俺のフレンドに染まっていかない。


 奴が貴族の娘だからなのか? 上流の者どもは俺みたいな平民には見向きもしないのか? 掴めん。お転婆のように見えて、たまに難しいことも言う。訳がわからん。


 アニーのさきほどのパンチはラッキーパンチだったらしく、次にゴールドグーイと出くわしたさいには、アニーの青いグローブの拳はつるりとすべってしまった。


「ごめん。はずれちゃったみたい」


 ニンゲングイやイワヤマザルの群れなどは、チビとデブの攻撃魔法やアニーのパンチが瞬殺していくがゴールドグーイは取り逃してばかりだった。


 たまにラッキーパンチがヒットして経験値10,000ptをゲットするものの、この日のGG狩りは撃破率3/13というお粗末な結果だった。


 そう、俺が急速なLvアップを果たしたのは、フィアダイル山に来れたからだけの話じゃない。GG撃破率が100%だったからだ。


 日も暮れかかっており、岩山を取り囲む雲海は果てのない赤紫色の絨毯となっている。


「さすがに難しいのね。でも、今日だけでLv20にまで上がった」


 GGマスターの真実を知らないアニーは笑顔でいたが、ガリとデブは西日に顔を陰らせて俺をじいっと見つめてき、沈黙の反抗を示している。


「ゴールドグーイは夜明けから朝にかけてがいちばん活動しているんだ。だから、明日は夜明け前に来ることにして、今日はペトロサ村に泊まろうか」


「えっ? そうなんス? 今まで泊まった――」


「この前泊まったところはよく眠れたもんな、ピンギ?」


「そうだね。私も早くLvアップしたいし。代えの下着を持ってきてないからちょっとイヤだけど、そういうことなら仕方ない」


 ということで、俺たちはペトロサ村へ戻る。


 前回、俺は狂信者どもと同じ部屋に泊まらされて不愉快な思いだったが、今夜はアニーがいる。どうにかして、このメスガキを手中にしたい。ピンギとメシスは追い出して――。


 はっとして崖道に振り返れば、変態の賢者が瞳孔を大きくさせている。何かをぶつぶつと呟いてもいる。


「イネブ!」


 右手に出てきた紫色の煙玉を変態性癖野郎にぶつける。変態はぽっくりと倒れ、寝息を立て始める。「何?」と驚くアニーをよそに、ピンギにメシスを背負ってくるよう命じる。


「昨日みたいなつまらないジョークは聞きたくないから眠らせた」


「いいじゃない。つまらなくたって」


 アニーの擁護は無視。ピンギもここばかりは文句を言わず、変態を背中に担ぐ。


 日が暮れたころにペトロサ村に戻ってくる。半分カフェのようなダイニングバーで夕食を取る。青髪アスパラガスを床に捨て置いたまま、ハンバーグにナイフを入れていく。


「それにしてもさ――」


 グローブを外しているアニーがパンを引きちぎりながら言う。


「レイジーって不思議だね。愚者っていうジョブもそうだし、変わった形の剣を装備しているし、突然アスピーに魔法をぶつけたりって、変なこともするし」


「それって魅力的ってことかな」


「定型化された秩序の不自由性の圧迫から無意識の救済を要望している人々にとっては魅力的かも」


「そ、そう――」


 アニーは屈託のないエメラルドグリーンの瞳で俺を見つめてき、にっこりと笑っている。好意的な意見のようだが、言っている意味がさっぱりわからん……。


「みんなはお酒飲まないの? 私、飲んでいい?」


「ど、どうぞッス」


 アニーは聞いたこともないカクテルを注文した。メスガキが酒を(たしな)んで、レシピット・ヴァーバ様が冷や水というわけにもいかず、同じものを注文する。


「私は、それぞれのジョブの魔法とかスキルとかが詳しくないけど、魔法使いや僧侶だったら、友人にもいたからどういう魔法なのか知っている。でも、レイジーがさっき使った魔法や、昨日、アバレライオンに使った魔法、あれって何? 愚者っていうジョブ独特の魔法?」


「俺にもよくわからない」


「アニキのジョブは白磁板(ホワイトボード)にも情報がないんス」


 そういえば、最近、Lvしか見ておらず、ステータスを確認していなかった。ズタ袋から白磁板(ホワイトボード)を取り出し、アニーとピンギには画面を伏せながら確認していく。


「ガズ、フォメント、プロベ、リジュアナ――」


 店員がカクテルグラスを2杯持ってきた。白磁板を眺めながらグラスに口をつけたが、思わず唇からグラスを離す。喉元が灼けるようでいて、瞳に灼熱が走ってき、とんでもないアルコール度数だった。


 それを、ヘアバン金髪(パツキン)のメスガキはぐいっと一息で飲んでしまった。


「あー、美味しい。――すいません、おかわりください。同じの」


 ピンギが俺をじいっと見つめてきている。


「どうしたんス? アニキ?」


 俺はカクテルグラスをあおった。ぐぬぅ。灼熱が体中を駆け巡り、五臓六腑が焼けただれんばかり。


「おかわりッスか、アニキ」


「あ、ああ」


「私、お酒がへっちゃらなの。だから、付き合わなくたっていいよ」


 なぜにあの神様みたいなジジイは、俺を酒に強い人間にさせてくれなかったのか。完全無欠のレシピット・ヴァーバ様のはずなのに、こんなメスガキより酒が弱いだなんて。


「でも、アニーちゃんは幸運ッス。オデたちに出会えて。こうやってすぐにLvアップできるッスから。まあ、もうちょっと早くLvアップできるかもしれないッスけど」


 デブがべらべら喋り始め、俺はこいつを黙らせたいが、体中をアルコールが駆け巡って、もはや、尋常ではいられず、逆に黙っているので精一杯だった。


「そうだね……、贅沢かもしれないけど、もうちょっと早くLvアップできればいいかな。マージャたちにいつまでも苦しい思いをさせたくはない」


「マントン伯爵は陰謀に巻き込まれているみたいッスけど、誰かに恨みを買われているんス?」


「違う。マントンのオジ様は、王国の監察官の職務に就いていて、多分、何かの不正を見つけたの」


「デガズ、マジカエ、イネブ、デサタ、フガム」


 俺はもはや何も考えられない。ステータスに記載されている魔法を念仏のように読み上げて、自分自身を正常に保つことでいっぱいいっぱいである。


「キサイパ、ギガズ、デマジカエ、メレグタム……」


 やがて、俺はテーブルに突っ伏していき、意識を失っていった。

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