3-5 新しい仲間
Rank:AだろうがLv55だろうが俺が怒鳴ればイチコロであり、ネコどもを地獄に落とすのはたやすい。
しかし、ヘアバングローブをフレンドにするには引き下がるほうが得策だった。
メシスの魔法でヘアバングローブを回復させると、ギルドの裏庭のテーブルを4人で囲む。
なぜ、ヘアバングローブがププンデッタ村の族長に会おうとしていたか訊ねた。
回し蹴り1発で瀕死に陥ったヘアバングローブは意気消沈しており、うつむきながら答える。
「私は真実を調べているだけ。ププンデッタ族の人たちの言葉は虚言だし、マントン伯爵も殲滅クエストなんて依頼していない。じゃあ、誰がなんのためにそんなことをしているのか、私はそれが知りたくてププンデッタの族長に話を聞きたいだけ」
メシスとピンギは何がなんだかわかっていないので、俺は柔らかい口調で教えてやる。
「つまり、あのランカーたちは誰かに依頼されているということだ」
「そう。きっと、そう」
「じゃあ、なんであんな危ない目に合うのをわかっていて、本当のことを調べようとするんス? も、もしかして、あなたはマントン伯爵のお子さんなんス?」
「私の友達。マントン伯爵のいちばん上の子は、私の幼なじみ」
貴族の娘と友人だってことは、ヘアバングローブも貴族の娘では……。
「友達は今、家族みんなでプリマムから出ていって、田舎暮らししている。プリマムの人たちに嫌がらせされるから。だから、私は真実が知りたい」
「でも、誰が、10万Gも出して、クエストを」
青髪が寝言をほざいている。こんなもの、からくりは明白だろうが。
「メシス、わからないのか? これは大変なことだ」
「ど、どういうことッス?」
と、デブもわかっていない。
「よく考えてみろ。本当にププンデッタの人々の嘘だとしたら、誰かがマントン伯爵を蹴落とすためにやったことだろう? ただ、ププンデッタの人たちにはそんなことをしたって何の利益にもならない。だから、誰かに脅されているかしているんだ」
「そう。この人が言っている通り」
ヘアバングローブはさすがにわかっていた。
「Rank:Aの冒険者たちがあんなお金にもならないことをするはずがない。きっと、10万Gのクエストを依頼した人物が裏で手を回している。マントン伯爵の報復と見せかけて。そうすれば、見ての通り、マントン伯爵はプリマム市民に攻撃されて、もうお屋敷には住めない状態」
「はあ……」
ヒョロガリ凹凸コンビは揃って空を仰いでいる。
こんな奴らは放っておき、俺は涼やかな目許に陰を落としながらヘアバングローブに視線を向ける。
「深追いしすぎると、命が危ないんじゃないのか。こんな危ない真似はやめるべきだろう」
「やめるわけないじゃない」
ヘアバングローブは俺をきつく見返してきた。が、そのくせに、すぐにうつむいてしまった。ツルツル東洋人の回し蹴り1発の恐ろしさが焼き付いてしまっているのだろう。
「だって、私がやめたら――、誰も友達を、マントン伯爵の家族の人たちを助けなくなってしまう。悪いことは何一つしていないんだから」
ヘアバングローブは青いグローブの甲の部分で瞼をこする。
「同じことの繰り返しだろう? ププンデッタ村を通せんぼしていた冒険者たちはかなりのツワモノだったじゃないか」
「だからって負けていられない!」
エメラルドグリーンの瞳を涙で潤ませながら俺をキッと睨んでくる。
「確かに無謀かもしれない。でも、私しかいない。マージャを助けてあげられるのは」
そうして、ヘアバングローブはテーブルに突っ伏し、しくしくと泣き出す。メシスとピンギは困り顔で俺を見やってくる。
俺は溜め息をついた。
「だったら、これも何かの縁さ、俺たちも協力するよ。なあ、メシス、ピンギ」
「えっ」
「へっ?」
俺は眉間に皺を寄せ、眼光を飛ばす。子分どもはそそくさと視線を落とし、「はい」と従順にうなずく。
「お気持ちはありがたいけれど、あなたたちに迷惑をかけたくない」
「真実を追求することが迷惑と感じるわけない。それにキミが死んでしまったなんていう悲しい噂を聞きたくないしね」
「あなたたちこそ死ぬかもしれないけど」
「俺たちは死なない。なあ、ピンギ、メシス」
凹凸はうろたえていたが、俺が一瞬だけ眼光を飛ばすと、うなずいた。
「そ、そうッス。オデ、つい1ケ月前まではLv3だったんス。でも、アニキとパーティーを組んだおかげで今はLv29なんス」
「は、はい。先生はとても強いんで。多分、大丈夫だと」
俺はにっこりと笑った。こいつらにしては上出来だ。
ヘアバングローブはヒョロデブの言葉を聞いて、俺をじっと見つめてくる。そうして口を開く。
「どうしてこの人たちのLvを短期間でそんなに上げられたの」
「ジョブが愚者だからかな」
「ぐしゃ? なにそれ」
「呼んで字のごとく愚か者」
真顔で言うと、ヘアバングローブは憑き物が落ちたかのようにフフッと笑う。
「何それ。変なの」
「そ、そうッス。アニキは変なんス。何も知らないくせにとても強いんス」
「そうです。傲慢なところがあるけれど、先生のおかげでボクたちは――」
調子に乗っているヒョロとデブを無表情で見つめ、あとで斬り刻んでやることを暗黙のうちに伝える。途端に下僕どもは口をつぐみ、顔を伏せる。
「なんだかよくわからないけれど、そこまで言うなら協力してくれる? 私はアン・フォルティス。みんなからはアニーって呼ばれている。ジョブは武術家。よろしくね」
◇
名前:アン・マリージャ・フォルティス・ワラー・ブラカンド
Lv:16 Rank:F
年齢:18 身長:160cm 体重:41kg
ジョブ:武術家
称号:正義漢
経験値:24350
最大HP:152
最大MP:0
スキル:
心眼突き みなぎる力 晴眼
装備:
パワーグローブ 女子武道のころも
夏冬両用ズボン ひきしまりベルト
シュンソクブーツ
ヘアバンド
所持金:120G
預貯金:900G
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