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3-3  フリーランククエスト

「これがいいじゃねえか。よし、明日ププンデッタ村に行くぞ」


「どれですか?」


「ププンデッタ村に何があるんス? あそこって獣人(じゅうじん)の村って聞いたことがあるッスよ」


 広告を指差してヒョロとデブに教えてやる。


「こんなにいっぱい広告があると見逃しちまうよな」


「いや、先生――」


 メシスが眉毛をすぼめながら見上げてくる。


殲滅(せんめつ)って……。こういうクエストは良くないかと」


「そ、そうッス。これ、絶対に依頼主は悪党ッスよ」


「はあ? そんなの知るか」


「アニキの悪名(あくみょう)が広まるッス。掲載日(けいさいび)も半年前ッス。誰もやらないから、こうやってずっと残っているんス」


「10万Gだぞ?」


「先生、やめておいたほうがいいです」


「そうッス。絶対に手を出しちゃいけないッス」


「わかったわかった。なら、こうしよう。ププンデッタ村に行ってみて、村人が殲滅(せんめつ)(あたい)する連中だったら、クエスト攻略だ。ただし、とってもとても善人な連中だったらクエストはやらない」


 下僕どもは疑いだらけの眼差しで俺を見つめてくる。


「たまにはさ、行ったことのないところに行こうぜ」


 休憩後、ゴールドグーイを11匹殺していき、夕暮れになってプリマムに戻ってくる。


 本日の報酬(ほうしゅう)を3等分し、飼い犬どもと別れて噴水広場に向かおうとしたが、なんとなく、メシスに住み家を聞いておく。


 すると、ヒョロとデブは一緒に住んでいた。ゴロツキにカネをむしり取られたメシスは、それまでのホテル住まいもままならなく、ピンギの家に居候(いそうろう)している。


「先生の家は?」


 無視。噴水広場に足を向けるものの、カンチェロに逢いたくなった。52番街の狭苦しいアパートを訪ねる。


 ちょうど、カンチェロはジャム工場の仕事を終えて帰ってきたところであった。


「ずうっと放置(ほうち)されていた気分なんですけど?」


 カンチェロは頬をふくらませてふてくされたが、「ごめん」と俺があやまると、途端に笑顔で抱きついてきた。


 狭苦しいアパート小屋というのを除けば、カンチェロはいいオンナだ。


 ワンピースのスカートをおどけて揺らしつつ、笑顔で食事を始める。色も白くて、愛嬌(あいきょう)があって。


 差し出してきた食事は、ビーンズのホワイトシチュー和えにパンを添えたもの。料理の腕もいい。



挿絵(By みてみん)



 ただし、部屋は、打ちっぱなしの土床に絨毯(じゅうたん)を敷いただけのもの。


「うちに全然来なかったけど、どこに行っていたの?」


「ダンジョンさ」


 半日だけのダンジョン体験に、ありもしない話を付け加えて、カンチェロを感心させた。


 素朴(そぼく)な味付けの食事を済ませてベッドに寝転がる。カンチェロは石造りのおんぼろキッチンで食器を洗っている。


「カンチェロはププンデッタ村って知っている?」


 カンチェロはテーブルにマグカップを1つ置き、もう1つは自分の唇に運びながら、テーブル椅子に腰かける。


「ネコさんの村でしょ?」


「ネコ?」


「ププンデッタ村はネコさん獣人の村だよ。何度か見たことがある。モフモフしていてね、とっても可愛いの。ぎゅうって抱きしめたくなっちゃう」


 よくわからんが、カンチェロが瞼を細めながらネコを抱きしめる真似をするので、俺は優しい微笑で返してやる。


「でもね、可哀想なの」


 カンチェロはマグカップをテーブルに置き、細い眉をしかめた。


「ネコさんたちのね、魚を捕まえる川がゴミで汚されたんだって。それでね、ネコさんたちは議会に訴えたんだけど、証拠がないからって、ネコさんたちは裁判に負けちゃったの」


「ふーん。なんか、ギルドに物騒な広告が出ていたけれど、それと何か関係があるの?」


「そう! ひどいでしょ!? 工場の女の子たちも言ってた! 絶対にマントン伯爵(はくしゃく)のしわざだって」


 カンチェロは少々バカなので、俺がそれについて知っているという前提で話しているが、どういうことなのか再度訊ねると、きちんと説明してきた。


 プリマム王国の議会にネコのケモノどもが訴状(そじょう)を出した。餌場えさばの川がゴミで汚染(おせん)されている。被告は川の上流付近の農場主で、伯爵のスペリオ・マントンという。


 マントン伯爵の証拠は不十分なので、議会はネコどもの訴えを退(しりぞ)けたが、その3日後ぐらいに例のクエストがギルドに掲示(けいじ)された。


 それを知ったプリマム市民たちが激怒し、マントン伯爵の家に大挙して詰めかける。マントン伯爵は自分じゃないの一点張りで、広告を取り下げないらしい。


 市民はマントン伯爵の屋敷に投石や放火を繰り返し、嫌がらせをしているようで――。


「マントン伯爵は極悪人でしょ。あんな可愛いネコさんたちを滅ぼせだなんて頭がおかしいんじゃない?」


 カンチェロは自分に関係のない話に、たいそうご立腹である。


 ギルドのランカーたちが虐殺クエストに手を出さないのは、そういうことからかもしれない。メシスやピンギは田舎者で友人もいないから、事情を知らなかったのだろう。


 しかし、どうもきな臭い。


 ネコのケモノどもが人間の議会に訴えを起こすという訳のわからなさはさておき、裁判で勝訴した伯爵が、10万Gの大金をはたいてまでネコどもを殺そうとするだろうか。


 それにゴミが流れてきただなんて、ネコが因縁(いんねん)を吹っかけているようにしか思えん。ゴミが流れているなら、証拠は確実にあるはずで、ネコが勝訴するはずだ。


 まあ、Rankが上がるのならどうでもいい。斬り殺して引きちぎって燃やすだけで10万Gも得られるし。




「ププンデッタ」


 ププンデッタとはネコ獣人のププンデッタ族、または、彼らの中心街であるププンデッタ村のことを指す。


・ププンデッタ族

 体の大きさはニンゲン族に比べて小さく、体長は成人で100cm~120cm。

 全身を柔らかい毛に覆われており、白毛色、灰毛色、三毛色など個体によって特徴はさまざまである。

 猫耳、猫鼻であり、手と足には肉球がある。尻尾が生えており、挨拶のさいにはお互いの尻尾を絡め合う。

 性格は温和であり、争い事は好まない。ただし、繁殖期に入るとメスを巡ってオス同士が激しい格闘を起こし、近頃では武器を手に取るようになってきている。

 メスを巡る争いで死傷者も出すほどになってきており、ププンデッタ社会では大きな問題となっている。

 メディアの世界の各地に散らばっている。


・ププンデッタ村

 人口約300人。すべてのププンデッタ族の取り決めを行う族長の住む村。

 村には魚のすり身の加工工場があり、それらの製造と輸出で生計を立てているが、すぐに昼寝をしてしまうので生産量が少ない。ほとんどを自分たちで食べてしまう。

 4年に一度の族長選挙のさいには世界中からププンデッタ族が集まるため、ある種のお祭り状態になる。




 ププンデッタ村への道すがら、白磁板(ホワイトボード)の情報で確認したが、思いのほか楽勝に虐殺できそうである。


 デブやヘンタイの話だと、「獣人」とはモンスターとは違うらしく、殺してもGが出てこないそうだが、たった300人を始末するだけで10万Gである。


 プリマムから20km離れているということで、白磁板のマップを確認しながら進んでいく。


 見渡す限りの草原を延々と歩くのは、はっきり言って面倒だ。が、Rankアップと10万Gには変えられない。


 途中、モンスターが何度も現れ、俺はそのつど寝転がって休憩する。


「アニキ! 手助けしてくださいッス!」


「先生! この辺りのモンスターはボクたち2人だけだとツラいです!」


 子分たちは、ギガースギュウという牛の化け物5匹と向かい合っている。


 この辺りのモンスターは、白磁板によれば平均Lv20の4人パーティーだったら倒せる。


 ピンギはLv29、メシスはLv35、何を甘えている。あいつらはGG狩りで俺の手をわずらわせてばかりだった。何から何まで俺に頼ってくるのは甘えの一言に尽きる。


 化け物牛の大群が煙になって消えたようなので、俺は腰を上げる。


 牛の体当たりでも受けたのか、ピンギはずたぼろになってゼエゼエと息をついている。


「デレクペ」


 子分たちが俺の後ろを付いてきながら、回復魔法でお互いを回復させ合っている。フン。何が2人だけだとツラいだ。回復できるんだからツラいもへったくれもないだろうが。


「アニキ、こっちの森から回ろうッス。マップだとこっちのモンスターのほうが楽ッス」


 俺は無視して進む。森の中を歩くのは面倒だ。


 そのうちまた、草原を歩いていたギガースギュウ2匹に気づかれた。


 俺の体の10倍ぐらいある真っ黒な化け物牛が、ツノを突き出しつつジリジリと近寄ってくる。


 俺は腰を下ろして寝転がる。芝生みたいな柔らかい草をちぎって、ぽいっと捨てる。あくびをかきながら大の字になる。


 いい天気だ。しかし、この世界は雨が降らないな。


「先生、お願いします。ボクたちMPがどんどんと少なくなっていきます」


 ローブの(すそ)をはためかせながら、何かほざいているので、俺は言ってやる。


「そのときは、その杖でぶっ叩けばいいだろうが」


「鬼ッス。アニキは鬼ッス」


「なんのためにLvアップしたんだ! 甘えてんじゃねえ!」


 こいつらがだらだらとやっているから、ププンデッタ村に着く前に昼メシどきになっちまった。草原のど真ん中だからメシ屋なんか見当たらない。


 今日も肉の燻製(くんせい)である。クソだ。フィアダイル山じゃないのに。


 モンスターを煙にした下僕どもに説教をする。これじゃLvアップをした意味がないだろうと。なまけているのならパーティーを追放するぞと。


 すると、正座の青髪とデブがうつむいて燻製をかじっている向こう、俺たちが来た方向に人影が見える。


 どこぞのパーティーとすれ違うことはままあり、今日も1組とすれ違っている。ただ、そいつらは5人組で、1人ではなかった。


 俺は気にせずに説教を続けたが、人影の輪郭がはっきりとわかるようになると、俺は正座をやめさせた。


 こちらに向かってくるのは、金髪のボブヘアを風にそよがせる若いオンナだった。


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