1-2 愚者
頭上をあおげば、大きな石づくりの城がそそり立っていた。
そして、僕はA4サイズの板――、白くて薄いツルツルの板を手にしている。
『白磁板にはステータスが表示される』
と、神様のような老人が言っていたような気がする。早速チェックしてみる。
◇◇◇◇◇◇
名前:レシピット・ヴァーバ
Lv:1
年齢:18 身長:181cm 体重:68kg
髪:アッシュグレー 瞳:レッド
ジョブ:愚者
称号:
スキル
怒号の罵り
魔法
ガズ
装備:旅人の服 旅人のズボン 旅人のブーツ
旅人のナイフ 旅人のベルト
愚者のマント ズタ袋
所持金:30G
◇◇◇◇◇◇
レシピット・ヴァーバ……か。
身長がずいぶんと伸びた。瞳の色も髪の色も変わっている。
しかし、ジョブは、愚者?
神様のような老人は、「賢者」にしてくれると言ったはずだ。僕も「賢者」とお願いしたはずだ。
表示が間違っている?
いいや、スキルの項目に「怒号の罵り」とある。装備品も「愚者のマント」とある。
確かに、僕は、今、白いコットン素材っぽいマントを背中にしている。
愚者……。
素直に飲み込めない。
それに、新たな世界で、何をしていいものかは不明だ。
とはいえ、前世では、たいしていい思いもできなかったのだ。ここで生きていくのも悪くはないはずだ。
ひとまずはセフレでも作ろう。
……?
ちょっと待て。
今、僕は、セフレを作ろう、と。いやいやいやいや。セフレだなんて、何を唐突に。
前世では、カノジョの1人も出来なかった僕が、セフレ?
われながら笑わせてくれる。生まれ変わったからって、気持ちまで大きくなってしまったんだろうか。
しかし、身長は高い。髪の毛はアッシュグレー、瞳はレッド。イケメンのはずだ。
セフレの1人や2人くらい。
……。
考え方が、愚か者になっているような……。
もしかして、ジョブのせい?
ま、まあ、いい。
愚者だろうと、賢者だろうと、人格まで変わるはずがない。前世の記憶だってある。
気を取り直し、あたりを見わたす。数々の人が、石畳の上を往来している。
前世で見かけたような女性たちと特に変わらず、皆、人間だ。
服装のスタイルはさまざま。全体的に素朴というか、古風というか、大昔の西洋式スタイル。
女性の髪の色は金髪系が多い。純粋な金から茶色っぽいのまで。黒髪もちらほらといる。
竹細工みたいなバッグを腕に下げている女性もいる。
今しがた歩いてすぎていった女性は、広げたエプロンに果物を抱えていた。
……。
てか、行きかう人々には男性もいるというのに、どうして僕は女性ばかりを見ているのだろう。
頭の中が女性ばかりになっている。それどころか、ナンパしたいとさえ思っている。
ダメだ。ナンパとかセフレとか。
まずは、どうやって生きていくかが先決じゃないか。
そこへ、ふいに気づいた。1人の女性が僕をじっと見つめてきている。
彼女は道行く人々とは、服装のスタイルが違った。
装飾品にほどこされた黒いベールを頭にかぶり、それに付け加えて目立つのは、紫色のストレートヘアー。
あまりにも見つめてくるものだから、僕は軽くお辞儀をする。途端、紫髪の彼女は目尻を緩め、歩み寄ってくる。
見上げてくる表情が、妙に馴れ馴れしい。
「あなたって転生してきた人?」
……。
はあ――?