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2-5  ギルドマスター


 すでに1階の広いロビーにはガキどもが集められていた。10人ばかり。車いすのガキもいるし、目の焦点が合っていないガキもいる。健康的に歩いているガキもいるが、難病持ちとかなのだろう。


 偽善者ジョー・ノヌーと、3人の狂信者+俺は、ガキどもや看護師たちの拍手で迎えられた。スーパーヒーローがやって来たときの狂乱ではない。誰だか知らない奴に向けてのヤラされている拍手である。


「こんにちは、ジョーです。今日はみんなに冒険のお土産を持ってきました」


 そう言って、注目の的のイセエビは、ヒゲダルマボールから何かしらを受け取った。


「これは、フィアダイル山に生息しているゴールドグーイの欠片かけらです」


 えっ……? アメーバは死んだら煙になっちまうんだから、欠片なんて存在しないはず……。


 声を小さく、PBに真実を訊ねる。


「え? GGがドロップしていたの知らなかったのか?」


 どうやら、経験値が上がりまくって舞い上がっている俺をよそに、偽善者はモンスターがアイテムを落としたかどうか、しっかりと確認していた。


 ゴールドグーイの欠片とやらは、イセエビがガキどもに見せて歩いている通り、金色に光り輝いている。そして、取材者のレンテス・パブリースが、ガキどもと触れ合うイセエビを白磁板のカメラで撮影している。


「あれって、なんですか、持っていると戦闘で得することがあるんですか?」


「効果はないが、あのぐらいの大きさでも、売ったら10,000G だろうな。まあ、滅多にお目にかかれないものだし、子供たちは喜ぶはずさ」


 どこまでもふざけた野郎……。パーティーのメシ代はいつもイセエビ払いだったが、どおりで気前がいいと思ったぜ。しかも、「お土産」とか言いながら、金塊(きんかい)は見せびらかした挙句、ヒゲダルマボールのポケットに戻っちまったし。


「そんなゴールドグーイを100匹以上倒した人がいます。きっと世界記録でしょう。そのツワモノは、ここにいるレシピット・ヴァーバです!」


「えっ?」


 イセエビに紹介されて、ガキたちの視線が一斉に俺に向けられる。


 イセエビの目的がはっきりとわからないので、一概には決めつけられないが、得られた情報と、取材者つきの偽善行為を総合するに、こいつは金儲けのために名声を求めている。


 俺を紹介した真意もそこにある。爽やかイケメンの見た目で十分なのに、ゴールドグーイを100匹も殺戮したという誇大な脚色を加えた。


 俺を広告塔にする腹積(はらづ)もりだ。


 しかし、イセエビは儲けたカネの分け前をくれやしないだろう。はした(ガネ)誤魔化ごまかすタイプだ。


 事実、初めての戦闘で、新入り祝いと言って俺に600Gばかしを渡してきた。いっぽうでゴールドグーイの金塊を(あさ)っていたのだ。俺にはちいっとも教えてくれやしなかった。狂信者の3人はそれでもいいのだろうが、俺は600Gばかしでほくほく顔でいたのだった。我ながら情けないかぎり……。


 もっとも、今は、イセエビの手のひらで踊らされてやろう。


 俺は世界でもっとも崇高な慈善行為を目指した。イセエビ他、狂信者たちと同じようにして、ガキどもと個別に触れ合い回った。いや、奴らのさらに倍は積極的に活動した。


「レシピットだよ~」


 と、より、お道化(どけ)た。


「ボクは小さいころ病気がちだった。でも、心は強くないといけないと常に思っていた。誰にも負けない、いや、自分の弱気には負けてはならない、って」


 と、より、話を作った。


「スーパーポジティブマンでいるためには心も体も健康じゃないといけないんだ。健康でいるためには、おもしろくなさを無くすことさ。その手段こそ、フレンドだ。友達と遊んだり、お話したり、一緒に寝たりすることさ」


 と、より、持論を展開した。


「レシピット。モテる?」


 ふいに、ガキが訊ねてきた。金髪ボブヘアの6歳程度のガキだった。唐突にオンナの話をしてくるということは、オンナのことで頭がいっぱいに違いなく、見どころのあるガキだ。なので、声をひそめ、看護師の目を盗んで特別に教えてやった。


「モテるに決まっているだろう。どうしてモテるか? ただ単にイケメンだからってだけじゃない。俺は強いからだ、誰よりも。自分自身よりもだ。モテたいなら、俺のように誰よりも強くなれ」


 交流なんて30分程度と思いきや、昼メシまでガキどもと一緒だった。さすがの俺も演技にクタクタになったところへ、運ばれてきたメシが穀物と草。


 食事が終わって、解放かと思いきや、院長とかいうババアの長い話に付き合わされる始末。ガキどもだって聞いちゃいられなくて、こくりこくりと寝てしまっている。


「ノヌーさん、そして、お仲間の皆様、本日はどうもありがとうございます。あなた方のお優しさ、名誉会長にもしっかりと伝えておきます」


 院長とイセエビの握手の光景をメガネオンナのパブリースが撮影し、ようやくお開き。


「今日は素晴らしい日だったね」


 病院をあとに、帰りの道すがら、セロリババアの表情は充足感に満ちている。


「どうだ、レシピット、子供たちに勇気を貰えたろう」


「そうですね、なんか、頑張らなくちゃって思えました」


 てか、帰りの道すがらって、こいつらはどこに向かっているんだ。イセエビはメガネオンナとずっと話しっぱなしで、いまだに解放される気配じゃない。


「さすが、レシピットは子供たちだけじゃなく、看護師さんたちにも人気だったな」


 PB(ピーナッツバター)先輩(パイセン)、当然じゃないですか……。


「変な気を起こしちゃ駄目だよ?」


 黙ってろ! クソババア! 起こすに決まってんだろうが! 殺すぞ!


 このパーティーのセンスのなさの一つは、この干からびたセロリだ。こいつは戦闘のときも何もやっちゃいねえ。すりつぶした草を渡してくるだけだ。そのくせ、上から目線で説教ときたもんだ。


「看護師さんはともかく、子供たちは皆さんのような百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の冒険者には目を輝かせますね。見るからにして強そうな人だと、頼りがいがあるんでしょう」


「だが、結局はレシピットのような優男が人気者だ」


「しょうがない、若さには勝てないもの」


 ヒゲダルマとセロリで笑い合う。ハナクソみたいなジョークだな。そもそも、セロリババアは俺の嫌味(いやみ)に気づかないというお粗末さだ。


「レシピット、わかる人間にはわかるからな」


 PBパイセンが声をひそめてくる。セロリババアとヒゲダルマが先を行くので、パイセンと肩を並べて歩く。


「それはそうと、今からどこに行くんですか?」


「ギルドで取材の続きだよ。ノヌーさんが、パブリースさんの」


 ……。


 ギルドに到着すると、階段で3階まで上がり、そこの個室でイセエビへの取材が始まった。メガネオンナにいろいろ訊かれるのはイセエビだけだ。むしろ、狂信者3人+俺は、部屋の隅っこの椅子に腰かけ、取材の見物だ。


「今まで私のパーティーから巣立っていったのは、8人、いや、9人でしょうか。みんな、今でもミーティングしますね。なぜなら、同じ意識をシェアしていますから」


「彼らは、新しいパーティーでノヌーさんの意志を広げているとか」


「素晴らしいことです。私の意志かどうかはともかく、この社会でどのような存在であるべきか、それを追及していく冒険者の増加は、社会に好影響しか及ぼしません」


 とても、退屈だ。GG狩りに酷使されているほうがまだマシだ。もはや、今晩はどうするか思いを巡らすだけ。カンチェロ、アビトレンヌ、クレリス、もしくはナンパ。噴水広場以外にオンナが集まりそうな場所はないのかな。意外とデカいこの町を隅から隅まで知っているわけではないから、探索でもしてみようかな。


「今日はありがとうございました、ノヌーさん。くれぐれも冒険では無理をなさらずに」


 ホッ、と、息をついたのも束の間、すかさず、何者かが部屋のドアを開けてきた。口ヒゲをたくわえたチョッキのオッサン。パブリースにコソコソと耳打ちする。


「えっ? マジ?」


 コクコクとヒゲオッサンはうなずき、ドアを開けたまま出ていく。


「あのう」


 と、パブリースはうかがうようにして、イセエビに上目づかいをする。イセエビは目を丸くしており、狂信者たちは眉をひそめる。何事かトラブルの予感。俺は期待に胸をおどらせる。


「ギルドマスターがノヌーさんたちに会いたいと」


「ええっ!」


 イセエビ、他、3人ともが椅子から発射せんばかりに驚愕の歓声である。そう、どことなく、連中の表情はハツラツとした。チッ。トラブルじゃなさそうだぜ。



「光栄です! 是非とも!」


 イセエビの野郎……、こんなに鼻息を荒くするとは。日ごろから冷静ぶっている人間をここまでトキめかせるだなんてな。


「5人ともお呼びだそうです。執務室まで、さきほどの執事がご案内いたします。残念ながら私はここで」


 パブリースはどことなくつまらなそうである。自分の仕事の邪魔をされたからなのか、自分はギルドマスターの執務室に呼ばれないからなのか。


 部屋を出ると、口ひげチョッキに案内される。急に狂信者たちは緊張し始めた。押し黙っていた。セロリババアは生唾を飲み込んでさえいる。木製の両扉で閉ざされた部屋に突き当たる。口ひげチョッキが、コンコン、と、ノックする。


「マスター。ジョー・ノヌー殿以下お連れパーティーが参られました」


「ハイレ」


 チョッキが両扉を押し開けていくが、中から聞こえてきた声、違和感満載(いわかんまんさい)だったんだが。ノイズ?


 すると、ギルドマスターとやらは、全身甲冑、顔まで甲冑のトンデモヘルメット野郎だった。


挿絵(By みてみん)


「タボウノサナカ、タイギデアル」


 ボイスチェンジャーでも通しているかのような、いびつな声だ。さしものイセエビ以下狂信者たちも、ギルドマスターの異質な雰囲気に直立不動である。


「滅相もございませぬ。マスター直々のお呼び立てとは光栄です」


「ホンダイヲモウス。ソナタタチニ、クエストヲイライスル」


 はっ、と、イセエビ以下狂信者どもは息を呑んだ。


「アンビリコ、ノ、ダンジョン。チカ75カイニ、キセキノヤクソウ、ガ、アルトイウ。コレヲモチカエッタアカツキニワ、RANKアップ、マタ、30マンゴールド、ノ、ホウシュウ、デアル」


 聞き取りづらくて仕方ねえったらありゃしねえ。とはいえ、30万Gだけは聞こえた。


「しょ、承知しましたっ!」


 イセエビはみっともないくらいに舞い上がりどおしだった。セロリとダルマとPBは、硬直かつ、互いに目を合わせていた。


 30万G……。とんでもねえ大金だ。おそらく、前世のレートだと3,000万円の価値だ……。


 どうせ、山分けじゃねえだろうな……。


 GG狩りができる今現在の俺だ、もはや、こいつらに用はねえ……。最後の最後に裏切って30万Gは強奪だ……。


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