2-2 GG狩り
翌朝、ギルド前でジョー・ノヌーたちと合流する。
セロリローブが鳥の羽根を取り出した。羽根に「ペトロサ村」と書いている。
羽根を空に投げた途端だった。俺はペトロサ村にワープした。
MUTEKI野郎が言っていたあれか。一度訪れた場所にしかワープできないらしいが、こんな辺境の山岳村に来れるとは、さすが、ハイランカーだ。
ペトロサ村は、岩山の崖に30数棟の石造りの家が連なってできている。崖が崩れたら確実に全滅だ。
朝方のせいか、村は霧に覆われている。肌寒くもある。先に言ってもらいたい。コートの一枚でも買ってきた。
パーティーのあとに付いていくと、彼らは1軒の家に入る。カフェだった。朝食を取ると言う。
俺はカンチェロの家で穀物のシリアルを牛乳と一緒に食べてきたので、カフェオレをすするだけ。
「ゴールドグーイはエンカウント率が低い」
イセエビがサラダを食べながら、いちいち小洒落た物言いだった。昨日から感じていたが、どこかで気取っている。
もっとも、ゴールドグーイというワードに引っかかった。
「しかも、クイックアウェイだ」
経験値が10,000ptのモンスターのことだろう。
ヒゲダルマボールがサラダをフォークでつまみながら言う。
「まあ、この辺りのモンスターはどれもこれもLv30以上向けだ。そいつらを相手にするだけでもレシピットはすぐにLv20ぐらいにはいける」
ビシッ、と、フォークの先をキメ顔で振り向けられた。ウザッ……。テカテカダルマのヒゲヅラ先輩風。何を言っているのかもサッパリ。俺はニコニコとうなずき返すが。
「もっとも」
と、パーティーの中ではわりかしまともなピーナッツバター。
「2体ぐらいはゴールドグーイを狩りたいですね。レシピットだけではなく、僕たちも来たからにはレベルアップしておきたいです」
「ところで今夜あたり歓迎会はどう?」
!?
青天の霹靂。とんでもなく余計なことをほざいたのは、グリーンスムージーをちゅうちゅう吸いながらのセロリローブ。
「そうだな」
俺はあやうく舌を打ちそうだった。しかし、付き合いが悪い、ゆとりだなんだと言い出しかねない。コバンザメに徹するにはいっときの辛抱も必要だ。
「あまりお酒が飲めないので、お手柔らかに」
「そうはいかねえぜ、レシピット」
ビシッ、と、ヒゲダルマボールがフォークの先を振り向けてくる。今度はウインクしてきている。こいつ、まさか……。
苦笑するしかない。
「あんまりいじめちゃダメだよ」
セロリローブがツッコむと、脳筋どもは和気あいあいと笑い合う。
「さて、行こうか」
イセエビが腰を上げ、ようやくカフェをあとにする。
ペトロサ村を出ると、崖道はどんどんと狭まっていった。大人2人がやっと並んで歩ける狭さだ。等間隔で打たれている杭にロープが張られているものの、落下防止にしては粗末すぎる。うっかり足を踏み外したら即死だ。
セロリローブの話によれば、今歩いている場所は標高1,500m地点らしい。
「ここって、もしかして、フィアダイル山ですか?」
「そうだよ。言わなかったっけ? 今日はゴールドグーイが狩れたらラッキーの、レシピットのレベルアップデイ」
何も聞いていない。
しかし、幸運この上ない。ジョー・ノヌーたちは勝手に俺を連れてきてくれた。今後はワープの羽根を手に入れれば、一人でもフィアダイル山にやって来れる。
イセエビを先頭にして15分ほど崖道を進んだだろう、バサバサと音が聞こえてき、霧もやから巨大な鳥が飛び出てきた。
「ニンゲングイだ。レシピット、俺の後ろに下がれ」
ピーナッツバターが盾を構えた。今の俺では、攻撃を喰らったら重体に違いない。お言葉に甘えて、ピーナッツバターの陰にひそむ。
鶏冠の真っ黒なニンゲングイは、ギャアギャアわめきながらツメを立てて急降下してくる。
ピーナッツバターの盾が弾き飛ばす。
ヒゲダルマボールが槍を振り回し、ニンゲングイを打撃。
ニンゲングイが頭上にふらついたところを、イセエビが高々と跳躍、鶏冠に大剣を叩き落とす。
「さっすがノヌーさん! 会心の一撃!」
セロリローブがわけのわからないことを騒ぐさなか、ニンゲングイは煙になって消えた。
金貨がジャラッと落ちてくる。500G金貨が1枚、100G金貨が1枚、1G金貨のジャリ銭が12枚、イセエビはすべて俺に差し出してくる。
「大したマネーじゃないけれど、新入祝いだ」
「こんなに? 頂けません。何もしていないのに」
「遠慮しなさんな」
セロリローブが俺の肩に気安く手を置いてくる。
「ありがとうございます。すいません。みなさん、ありがとうございます」
612G。
なかなかいい連中じゃないか。こういうことなら半年ぐらいはパーティーに参加してやってもいいか。
再び崖道を行く。
イセエビが急に立ち止まる。振り返りながら人さし指を口の前に立てた。
人さし指の先を岩肌へちょんちょんと差す。
霧もやの中をズルズルと這いつくばる黄金色があった。
「下りてきますね。前後で囲みますか?」
傭兵のヒゲダルマボールがささやく。イセエビはうなずく。
イセエビとピーナッツバターが先回りし、俺とヒゲダルマボールとセロリローブはその場で待機する。
黄金色のドロドロを輝かせながら、ノロノロと這いつくばって下りてくる。ああ見えてすばしっこいという話だ。
「もしよければ――」
と、俺は肌寒い風に髪をなびかせながら、ヒゲダルマボールのこんがり頭に向けて声をひそめる。
「僕の怒号の罵りに任せてもらえませんか」
「そうか」
ヒゲダルマボールはうなずく。足音を消しながらイセエビたちのもとに走っていき、彼らに耳打ちした。
イセエビがこちらに向かってうなずいてくる。
「大丈夫なの?」
セロリローブがそこまでしなくても聞こえるってのに、余計に顔を近づけてくる。俺がイケメンだから仕方ないが、鬱陶しい。
「単細胞モンスターにも精神攻撃は効き目があるの?」
「有効なはずです。プリマム近くのグーイには効いていましたから」
崖道にはひとときの静寂が訪れる。俺たちが構えているのも知らずにアメーバーはズルズルと下りてくる。
イセエビたちとの間に這い出てきたところで、俺は「おい! クソ野郎!」と、罵った。
「テメーの盛りはとうにすぎてんだろうが! このクソアメーバー!」
俺はセロリローブに言ってやったんだが、この黄金の単細胞はブルブルと震え出し、形態をベチャアァと広げて伸ばしていって、固まった。
意気揚々として飛び出す。日本刀を鞘から抜き取ってくる。アメーバーを何度も叩きのめす。
「おおっ!」
脳筋たちは驚き喜んでいる。が、低Lvの俺の攻撃では、刃先がツルツルとすべって打撃が与えられない。
「助っ人お願いします!」
イセエビがようやく駆け寄ってきて、大剣をアメーバーに叩きこむ。3発目がアメーバーに食い込んだところで、ゴールドグーイは煙になった。
チッ。1G金貨がたったの5枚だ。くっだらねえ。
「レシピット! さすがだ! ゴールドグーイをこんなにあっさりとヒットできるだなんて、初めてのことだ!」
イセエビが大喜びで俺の肩を掌で叩いてくる。
「すごいわ!」
気色悪い声を上げてセロリババアは手を叩く。
「僕たちはとんでもない新人くんをパーティーに迎えてしまったんじゃないんですか!?」
バカみたいに騒ぎながらピーナッツバターはウンコ色の髪をかきむしり、
「すげえぞ、レシピット!」
ヒゲダルマボールが駆け寄ってきて俺に握手を求めてくる。
頭をポリポリとかきながらも、「いやあ、まぐれです」なんて可愛い子ぶってヒゲダルマボールのゴリラみたいな手を握り返す。
まぐれなんかじゃねえけどな。俺にかかればこんなアメーバーの1匹や2匹たやすいもんだ。
「レシピット。レベルをチェックしてみるんだ。どれだけアップしただろう」
イセエビに言われてズタ袋から白磁器を取り出してくる。むしろ脳筋どものほうが喜んでいて、目を輝かせながら白磁器を覗いてくる。
ステータスを確認してみると、ほくそ笑まずにはいられなかった。Lv17だった。一挙に4もアップした。心なしか体がたくましくなったような気がしてくるぜ。
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名前:レシピット・ヴァーバ
Lv:17 Rank:H 職業:愚者
称号:GGハンター
スキル:
怒号の罵り
魔法:
ガズ フォメント プロベ リジュアナ
デガズ マジカエ
装備:
サムライソード 旅人のナイフ 旅人の服
旅人のズボン 旅人のブーツ
愚者のマント
所持金 878G
From:メシス・セージ
ピンギさんがあやまりたいと言っています。先生、返信お願いします。
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