2-1 Lv54のパーティー
罵声を飛ばしてドドウォルフの集団を倒す。白磁板を覗いてみれば、メシスのLvは一挙、1から5にアップしていた。
おいおい……、たった1度のバトルじゃんか。
俺は2日間、セコセコと回数を重ねてきて、ようやくLv13だったというのに。
「先生すごいっ。どこまでも先生に付いていきますっ」
「そうなんスよ。アニキのスキルがあれば、どんなモンスターでも倒せるんスよ。オデたちは無敵なんスよ」
人のスキルでMUTEKIとほざいたピンギの勘違いぶりに、俺はアタマに来た。
「やめだ」
「へっ。どうしたんスか。まだ1度きりしか戦闘していないッスよ」
「お前はLv14、メシスはLv5、2人でもイノシシグマぐらいは倒せるようになっただろう。2人でセコセコとLvアップに励んでくれ」
「ハア? 何を言ってんスか? フィアダイル山に行くのが目標じゃないッスか。経験値とGを稼ごうって、アニキが言ったッス」
「黙れクソデブっ!」
たちまち、ピンギは苦しみはじめた。間違って怒鳴ったんじゃない。ワザとだ。
胸を押さえ、ボエェ、ボエェ、と、汚い声を発しながら、肥えた体を地面に沈めていく。
「俺がいなかったら内職しか取りえのないデブのくせに、何が、ORETACHI WA MUTEKI だ」
弟子の青髪は、アワアワとしているだけ。
「お前らが俺のスキルをあてにするかぎり、何をしようと俺の勝手だ」
肉まんじゅうを捨て去る。メシスが追いかけてきたが、ピンギの面倒を見ておけと言って追い返す。
俺をLvアップツール扱いしやがった。
だからといって、ふてくされているわけにもいかない。
もっとたくさんのセフレを手にするには、冒険者としての地位や、身なりを上等にするべき。であれば、経験値やGをため込むべき。
何者かのコバンザメにはなりたくないが、いっときの我慢を覚悟する。
ジョー・ノヌーが指定してきた場所は、噴水広場から歩いて10分足らずのところにあった。
小洒落たカフェレストランだった。立て看板にオーガニック野菜メインなどと謳っている。
店の中に入る。黒いエプロンに白いニットのオンナが歩みよってきて――、茶髪を肩にさらりと流した、なかなかの上玉だ。
「いらっしゃいませ。何名様?」
「待ち合わせです」
「ノヌーさん?」
「ボクはレシピット・ヴァーバです」
「ごめんなさい、そういうことではなくて」
オーガニックガールは人懐っこそうに笑った。
「待ち合わせの人のお名前」
「ああ、ええと、初めて会うものだから……、名前は、えーと……。ちなみにあなたのお名前は?」
「えっ?」
彼女のブラウンの瞳にキラメキが輝く。
「私は―—、フフッ。ヴァーバさんの待ち合わせは、きっとノヌーさん」
「そうかもしれない。ありがとう」
「こちらにどうぞ」
オーガニックガールに先導される。
「今日は話が長くなりそうだけど、次に来るときは1人でゆっくりとしたいな。次に来るときもキミがいてくれたらだけど」
オーガニックガールはちらりと振り返ってくる。
「私は基本、昼間はいますよ。基本、いつでも」
オーガニックフレンドゲット。
案内された席には、屈強な連中がそろっており、1人はオバサンだった。ゲットの余韻も束の間、げんなりとしてしまう。
「ヴァーバくん?」
と、赤い甲冑に身をつつむ戦士風のオジさんだった。
甲冑が筋肉にフィットしているさまが、伊勢海老みたいだ。
「どうも、ジョー・ノヌーです」
イセエビのジョー・ノヌーは無精髭の笑顔とともにフランクな握手を求めてきた。
「初めまして。レシピット・ヴァーバです。ボクのような下位Rankと会っていただけるだなんて、恐縮です」
他の3人もいちいち握手を求めてきた。
騎士装束の白い肌の若者は、クセッ毛の髪色がピーナッツバターのようだ。
黒人の傭兵は、ボウズ頭に口ヒゲ、両腕の筋肉をあらわにし、ヒゲダルマボール。
黄緑のローブを着ている白人の薬士は、目の下のシワとほうれい線が目立つ、セロリみたいなオンナである。
「どうぞ、何か好きなものでも食べて」
セロリローブがそう言うんで、メニュー表から適当に注文する。雑穀パンのトーストとトマトのスープ……。こんなもの好みではないが、肉っぽいものが見当たらなかった。
「サラダも食べたら?」
なれなれしいオバサンだな……。
「野菜の摂取は意識的でないとな」
と、ヒゲダルマボールが見てくれに似合わず、葉っぱばかりを口の中に放り込んでいる。骨付き肉がお似合いの図体のくせにだ。
俺は苦笑しながらサラダも追加する。こいつらへの不信も胸の内に宿ってくる。
メシを食いながらの面接だなんて、俺の価値観とは真逆だ。
「キミさ、それ―—」
ふいに、ピーナッツバターが、俺の腰のものを指差してきた。
「武士の装備品じゃないのかい?」
「武士っ?」
「王立騎士隊に在籍していたとき、武士に遭遇したんです。あの武士のソードも、この子のソードのように反り返っていて、黒いケースもこのように独特の光沢を放っていました。こんなソードを見たのは、あの武士以来です」
座は、しん、と、した。どいつもこいつもが沈黙のままに俺を見つめてくる。
イセエビが口を開く。
「ヴァーバくんは、武士?」
「いえ。愚者です。賢者の反対の」
「それも珍しい。まあ、珍しいからこそ、コンタクトを取らせてもらった」
「そんなジョブをくれたのはどこの教会だったのだ?」
「それはすいません。言えないんです。いろいろとありまして」
「どういったスキル? 魔法は何系?」
ヒゲダルマボールのあとには、セロリローブがやかましい。
「精神系です。モンスターを麻痺させるのがほとんどです」
「今現在の私のパーティーは見ての通りパワーに特化している」
赤い甲冑をテカテカと輝かせながら、イセエビがお粥みたいなのをスプーンで食べている。
「損なっているのは間接的アプローチ。なので、そうした新しい人材をハントしたい」
「でも、Lvが高い人間はクセがついちゃっていてねえ」
セロリローブがすぐに割って入ってくる。リーダー格のイセエビが話すのならわかるが、このオバサンときたら……。
「やっぱり、自分がやって来た誇りとかを持っているから、なかなかパーティーに馴染めないの。自分はこうやってきたからこうやるべきだってなっちゃうから」
「それに、この前のダンジョンは大変だった」
ヒゲダルマボールがスープカップに分厚い唇を寄せている。しかし、スープはすすらない。喋らないでいいから、さっさとスープを飲んでほしい。
「出くわすモンスターは大群ばかりだった。間接攻撃だったり魔法があったらずいぶん楽だった」
「しかし、あれは事前にわかっていれば、鉄球やムチを装備していきましたね」
若者のピーナッツバターは煮豆ばかりを食べている。
「我々の攻撃力だったら安物の鉄球でもいけたはずです」
面談をよそに自分勝手に話をはずませてんじゃねえ、と、怒鳴りつけたいところだ。けれども、もちろん我慢する。笑顔は絶やさない。ふんふんなるほど、と、興味津々に(まったく興味なんてなかったけれども)相槌をついた。
とにかく、彼らは、素直で、将来有望で、役に立つ若僧を子分にしたい。
「私のパーティーは出入りも多いが、スケールは拡張したくはない」
何が言いたいのかよくわからないが、結局、愚者のジョブ性を確かめるための戦闘に出かけてみるか、という話に落ち着いた。
Lv13の俺に見合ったモンスターということで、イノシシグマと戦わされる。俺は彼らへの思いをイノシシグマにぶつける。
「ピーナッツバターぶっかけられたダルマかセロリか! このイセエビのイノシシグマが!」
見当違いの悪口にもかかわらず、イノシシグマは泡を吹いて麻痺った。日本刀でぶった斬る。
イセエビたちを振り返り、爽やかに笑んだ。
「こういった感じです」
瞬殺劇におおいに盛り上がった。
是非ともパーティーに入ってくれ、口汚い罵声が気になるがそれもスキルなのなら仕方ない、キミは若くて素直そうだし、自分たちの戦いに付いてくればすぐにレベルアップするだろう、と。
そういうことで、俺は白磁器のMAILでギルドにメールした。
イセエビたちとパーティを組むことになったので、現在のパーティーを解消する、ピンギ・ショーグとメシス・セージにそう伝えてくれと。




