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1-13 読んで字のごとく愚か者

 ファッションストリートにやってくる。店じまいをしようとしていた中古屋に飛び込む。


「なんだい、武士モノノフのあんちゃんかい」


 武器と防具を買ってくれるよう押しつけると、今日の今日でハゲオヤジは眉をひそめて怪しんでくる。


「これ、盗品(とうひん)だろう」


「盗品じゃなくて強奪品(ごうだつひん)さ。このガキから巻き上げたカネで遊んでいるような小悪党がいたんでね、そいつらから身ぐるみ剥いでやったのさ」


 ハゲオヤジはちらっとメシスを見やり、青髪ヒョロガリの縮こまり具合を鼻で笑う。長年、中古屋をやってそうなオヤジだ、メシスの田舎臭さをすぐにかぎ分けたに違いない。


「で、ボーヤ、いくら巻き上げられたんだ」


「い、1万Gと、ちょっと……」


「じゃ、しょうがねえや、これは2,500Gで買い取ってやるか」


「は?」


 俺は眉をしかめる。


「何を足元見てんだオヤジ。たったそれだけじゃ話にならねえぜ」


「何を言ってやがる。こんなの本当なら2,000Gだ。なさけで2,500Gなんだよ」


「チッ」


 1,000G金貨を2枚、500G金貨を1枚、しぶしぶ、受取り、「毎度」というハゲオヤジの声を背中に店をあとにする。


「ほら、分け前だ」


 500G金貨を差し出してやる。


「えっ。あとの2,000Gは?」


「俺のものだけど? 俺がぶんどったんだから俺のものだろ?」

  

「は、はあ………」


 メシスはほうけた顔で受け取った500G金貨をながめるばかり。


「てことで、俺はセフレのところに行くからさ。くれぐれも夜道には気をつけるんだぜ。じゃあな」


 2,000Gをズタ袋に押し込めて、それを背中に背負うと、アビトレンヌのメモを片手に足早にセフレ宅へと向かう。


「あのうっ!」


 俺は舌を打ち、立ち止まった。


「なんだよ」


 クソガキヒョロガリは、500G金貨を両手で大切そうに手にしており、もう一度、「あの」と言って、一歩、進み出てくる。


「先生! 先生と呼ばせてください!」


「はあ?」


「僕を先生の弟子にしてください! パーティの仲間なんかじゃなくていいです! 弟子に! なんでもします! お願いします!」


 そして、今度は両ひざをその場につけて、土下座と来たもんだった。


「先生がすごい人だっていうのはわかります! とうてい、僕なんか先生みたいになれないと! でも、先生の生き方――、先生みたいに強い気構えを持ちたいんです! だから、お願いします! 僕を弟子にしてください!」


 ファッションストリートに立ち並ぶ店は、すでにほとんどが明かりの火を落としており、路地はすっかり閑散かんさんとしている。声もよくひびきとおる。このバカの、聞いているだけでも恥ずかしくなってくる言葉が、夜の町に届きわたっている。


「勝手にしろ」


「ありがとうございます!」


 相手にしておられず、俺は立ち去る。が、何もわかっちゃいない付き人は、喜び勇んで背後にくっついてきていた。


「おいっ! 俺は今からオンナのところに行くんだっ! この世間知らずのヒョロガリ野郎っ! 俺の子分になりたいんだったら明日の朝9時前にギルド前に来いっ!」 


「うっ」


 と、青髪は胸を押さえて苦しみだした。一言、余計な言葉をはさんでしまった。メシスは地面にはいつくばり、ひどく苦しみながらも、俺に右手を伸ばしてくる。


「うう……、あう……」


 何を求めているのか不明だ。どうやって、その苦しみから救ってやれるかもわからない。そして、俺はいつまでもアビトレンヌを待たせているわけにはいかない。


「死にはしないだろう。じゃあな」


 俺はメシスを捨て置き、小走りにセフレ宅へと向かった。




 アビトレンヌの家で一夜を過ごし、出勤前の彼女とカフェで朝食をとる。


 オープンテラスに朝日がふりそそぎ、コーヒーカップから立ちのぼる湯気の粒子が、光を透かしつつも、光にきらめく。カップに唇を添えれば、味覚みかくには苦いが、その、ほのかな刺激は、新しい朝とともにすがすがしさを覚えさせる。


「レシピットって不思議な人」


 朝食のパンケーキをとりながらのアビトレンヌは、終始、口許(くちもと)に笑みを浮かべていた。



挿絵(By みてみん)



「そのあたりの冒険者みたいにギラギラもしていないし、飄々ひょうひょうとしているわけでもない。強そうに見えないけど、弱そうにも見えない。優しいのか冷たいのかもわからないし?」


 朝食を済ませ、別れ際、「また行くよ」と告げると、


「いつでもどうぞ。妹がいてもよろしければ」


 大人のオンナ。サバサバとしながらも、右手を軽やかに振って俺を見送ってくる。


 今朝のギルド前に行列はない。昨日掲載されたフリーランククエストがどれだけ攻略されてしまったのか、確認しようとギルドの玄関前に来たが、いつもは開けっ放しの扉が閉まっている。営業時間前のようだ。


「アニキ、おはようございます!」


 でかい声に振り向けば、予想通りのでかい物体が存在しており、俺は舌打ちする。まだ、待ち合わせの9時にはなっていないはずだ。営業時間前の出勤を狙い、インテロちゃんをナンパしようかと思いついた矢先だった。


「見てください、アニキ、オデ、昨日1人でLvを1上げたんスよ」


 鼻息を荒くしながら、得意げに白磁板ホワイトボードを見せてくる。ピンギ・ショーグ、魔法使い、Lv14。


「ああそう。良かったな。移動の魔法も覚えたのか?」


「覚えてないッス。Lv22になったら、マジカエって魔法を覚えるッス。そうしたら、オデが行った場所にはひとっ飛びッス。アニキ、今日中にLv22になりましょうッス」


 俺はまったく乗り気じゃないが、デブは朝から元気なので、とりあえず「そうだな」と答えておく。


「ところで、俺のステータスの魔法のところなんだけどさ」


 白磁板(ホワイトボード)をピンギに見せ、俺がいつのまにか覚えていた魔法の詳細をたずねる。


「わかんないッス。アニキのジョブは、どこを検索しても掲載されていないんで。てか、アニキ、愚者ってなんなんスか? どこの教会で与えられたんスか? てか、腰に装備しているのなんスか? 見たこともない武器ッス。どうしたんス?」


「黙れ。俺に質問するな」


 瞳孔(どうこう)(ひろ)げて唸り散らしてやると、ピチピチローブ野郎は唇をすぼめて不服そうな顔。


「俺はな、なんスか、なんスか、っていうのがよ、本当に腹が立つんだ。せめてだな、一回につき一度の質問にしろ」


「じゃあ、愚者ってなんなんスか」


「読んで字のごとく、おろものだ」


「いや……、なんスか、それ……」


 俺はケラケラと笑い上げた。「行こうぜ」と言って、セコセコLv上げの1日へと歩き出す。と、後ろから駆け足にやってきて、俺とピンギの前に、青髪ヒョロガリがすべり込んできた。


 肩で息をつきながら、俺を見つめてき、その青い目は透き通らんばかりに澄んでいる。


「先生、まだ、待ち合わせ時間前です。先に行くのなんて無しです」


「フン。弟子のつもりなら、俺が来る1時間前から待っていろ」


 ピンギが口を開けて呆然としている。俺を見、メシスを見、首をかしげる。


「な、なんなんス?」


「こいつはメシス・セージ、今日から俺たちのパーティーの仲間だ」


 メシスが照れくさそうにしてうつむくと、ピンギは鼻で笑い、先輩風をかもし出した。


「何があったのかはひとまずで、とりあえず、よろしくッス」


 ピンギが握手を求めると、


「よろしくお願いします!」


 と、メシスはやる気と元気は人一倍負けなさそうな声を発して、ピンギの脂ギトギトの右手を握り返した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 MAIL:

 From:プリマムギルド協会事務局 


 ジョー・ノヌー殿より、了承をいただきました。

 本日12時に面接をしたいので、下記まで、とのことです。


 >21番街31番

 >オーガニック料理店・スパラバンブ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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