21 お花畑の王子様(2)
「お前の理論だと、嘘つきは盗人なんだろう?」
「ん? ああ。そうだ」
脳みそがお花畑なのかな? 大丈夫か、イタリアル王国の王族は? 俺でもちょっと頭が痛くなってきたぞ。いいか、止めようとしても、もう遅い……って、何だよ! 王様の「ユー、ヤッチャエヨ!」みたいな顔は!! あんたの息子だろ!? まあ、いいや。
俺はアイテムボックスから取り出した革袋を、ポンとオーランドの前に投げた。
封をしていない革袋は、床に落ちると中身をバラバラとぶちまける。
オーランドは屈み、一つ拾った。
「……なんだ? 魔石?」
「ああ。魔石だよ」
「これがどうした?」
「こいつは、浄化されていない魔石だ」
そう言い終わらないうちに、オーランドは魔石を放り投げて、ザザッと後ろに飛びのいた。
一般には浄化された魔石と、未浄化の魔石の区別なんてできない。それこそ日常的に魔石を取り扱っている魔道具士のテマリの父さんが区別できないのだ。オーランドに区別がつくはずがない。
「じょ、浄化されていない魔石だと!! お前は正気か! そんなものをこんなに人がいる場に持ってくるなんて!!」
「そんなにすぐに瘴気中毒にはならねえから、大丈夫だよ」
「そういう問題ではない! 未浄化の魔石を持っていること自体が重罪なのだぞ!! 誰か、こやつを引っ捕らえろ――」
「おいおい。ここはイタリアルじゃねえんだぞ。魔術学園でイタリアルの王家が誰に命令するっていうんだよ。さっき、王様も言っただろう……」
「くっ……!」
「それに、ここにいるのは魔術師だ。浄化魔術なら……ほら」
俺は、魔石を一つとって、ポウッと浄化の光を当てる。
う~ん。ミュウミュウとは比べものにならないほど、小さな浄化の光だ。なんとか魔石一個を浄化できるのが限度だな。テマリんち一帯を浄化しちまうような、巨大な浄化の光とは比べものにならねえぜ。
ったく。あいつ、俺には力業はダメだって言っておきながら、自分は浄化の力業をくらわすんだからな。せっかく探し出したこの魔石――証拠だって、亜空間収納に入れていなければ、強制浄化されちまうところだったぜ。危ない、危ない。
「こいつはな、イタリアルの城下で売買されていたもんだ」
「え」
「この未浄化の魔石を街の商人に卸したのは……」
俺はスッと指を指した。
その先にいたのはテマリを置き去りにした冒険者パーティだ。
一瞬、ギョッと目を見開いたライオスは、脅しつけるような大声を出した。
「き、貴様! 卑怯にも私に濡れ衣を着せ、我が名誉を辱めるつもりか!?」
俺はやつの言葉に反応もせず、オーランドに紙束をグッと押しつけた。
「これが調査報告書だ」
うろんげにパラパラと調査書をめくったオーランドは、ある一点でピタリと止まる。
この調査報告書を書いてくれたのは、ドリアネスをダンジョンに置いていった冒険者だ。
ドリアネスが雇うくらいだから、さぞかし名の売れた冒険者なのだろうと思ったが、ドンピシャだったようだな。俺の話だけなら聞きもしなそうなオーランドが、彼らが調査したとなれば少しは揺らいだようだ。
あいつらはテマリの撮影魔道具のおかげで、無事に冒険者ギルドの処分をまのがれた。そのお礼にと張り切って調べてくれたんだ。
ま、結果は想像通りだったけれどな。
「で、なんて書いてある?」
「……『ここ二年で、未浄化の魔石が流通している。その卸元は、いろいろだが、その出所をつぶさに調査したところ、共通の冒険者パーティから持ち込まれたのだということが分かった。その冒険者パーティーを雇っているのは……』」
ここでオーランドは、困惑しながらライオスに視線を向けた。
「殿下! そのような者の話を信じてはなりません! 第一、魔石の出所を調査したなど、どうしてできましょうか!? 魔石は金貨と同じく、それ自体に名前が書いてある訳ではありません。未浄化の魔石があったからと言って、どうしてそれが我らの仕業ということになりましょうや!?」
「あ……ああ。そ、そうだな……」
「では、ここで王子様が不要って言っていた証拠の力を見せてやるよ」
「証拠だと?」
「ああ……」
俺はパチリと指を鳴らした。
「きゃあ~」
ご婦人ご令嬢方の悲鳴、若干嬉しそうな悲鳴が上がる。というのも、ライオスと冒険者たち、ついでにオーランドの上半身の衣服を全て「消した」からだ。もちろん、見えなくしたという意味で。全身の衣服を「消さ」なかった、単に俺がヤローの下半身を見たくないからだ。
「何が起こったのだ?」
オーランドのやつ。筋肉に自身があるのか、上半身裸になったくらいじゃ、大してうろたえねえな。おもしろくない。
「ほら、見ろと。そこの冒険者たちの体を。全員、瘴気中毒だろ。それにリーダーらしきやつ。お前は特にひどいな」
冒険者たちの体には煙が立ち上るかのような黒いシミが浮かび上がっていた。テマリの父親にもあったやつだ。あのシミからは、激痛が走っているはずだ。具合が悪そうなのもそのせいだろう。
ふん、と鼻息をひとつはいて、俺は誘惑するように語りかけた。
「……お前ら。よく聞けよ。ここは魔塔だ。魔術師になったばかりの俺でも浄化魔術を使える。まだ、小さな魔石を浄化するくらいの力しかねえけどな。けどここには、もっとすげえ浄化魔術を使えるやつもいるんだぜ。もちろんお前らの瘴気中毒だって……治せる」
冒険者たちが、パッと顔を上げた。
「話せ。全てをな」
そっからは冒険者たちは、我先にと暴露をしていった。
魔道具を盗むつもりでテマリを仲間に加えたこと。
ライオスが欲しがっていたアイテムを手に入れるために、倒すのが大変なキラーマンティスの囮にテマリを使ったこと。
魔石も、もちろん無断で持ち帰り、浄化済みだと偽り商人に直接卸していたこと。そうすれば入場料も浄化費用もかからないため、魔石とはいえ利益は莫大になる。商人に直接卸したのは、冒険者ギルドを使えば未浄化だということがバレてしまうからだ。
その全てがライオスの指示だったこと。
もちろん、ライオスは怒り狂っていたが、そこはきっちりとふん縛って口を塞いでおいた。お前の番は後からだ。
「んで、お前ら未浄化の魔石をどうやって持ち出した?」
冒険者たちは、顔を見合わせた。そしてパカッと口を開いた。
「やっぱり、飲み込んだのか」
俺はその方法しかないだろうなと踏んでいた。けれどオーランドには驚きの方法だったようだ。
ダンジョンから出た後の持ち物チェックはかなり厳しい。俺のように亜空間収納でも持っていない限りは、魔塔のチェックを逃れられない。そのチェックを逃れる方法は何かと考えた時に、俺は前世の空港警備を思い出した。麻薬の運び人が小袋に麻薬を入れて飲み込み、後で吐き出す方法だ。
そう考えれば、利益の大きい魔物の素材ではなく、飲み込みやすい小さな魔石だけをテマリに剥ぎ取らせていたのにも納得ができる。
聞けばやはり、ライオス以外の全員が小さな革袋に魔石を入れて飲み込んだそうだ。すぐに吐き出せるように、革袋からつながる糸を歯に結びつけて。その革袋も一つや二つではなく、一人五から十袋。それだけ飲み込みゃ、魔石中毒にもなろうってもんだ。でも……。
「お前ら、それ、今回が初めてじゃないだろう?」
冒険者たちは顔を見合わせた。けれど、いったん開いた口はもう止まらない。どうせ隠してもバレているのだ。
どうやらライオスが入学してから、何度もこの方法を使っていたらしい。けれどその時に魔石を飲み込んでいたのは、荷物持ちだったそうだ。
その荷物持ちは、ダンジョンから出てすぐにパーティーを辞めている。次の荷物持ちも、その次の荷物持ちも。
「でも、そいつらは無事に地上に帰っていたから、魔石を飲み込んでも大丈夫だと思ったんだな?」
「はい」
今回、自分たちが飲み込んだのは、荷物持ちのテマリを囮に使って、ダンジョンに置き去りにする予定だったからだ。
「でもそいつらは、みんな地上に戻ってから、瘴気中毒を発症しているぜ」
冒険者たちは驚くかと思ったけれど、そうではなく気まずげに目配せをしあっただけだ。自分たちの結果から、想像がついていたんだろう。
「その荷物持ちたち。もう冒険者ギルドで保護しといた」
証人になってもらうために。そして彼らの浄化費用は冒険者ギルドが持つことになっている。
「おい。そこの瘴気中毒が一人だけ強いやつ。お前、パーティのリーダーだろ?」
「はい」
「お前。テマリの魔道具を持っているだろう?」
「…………はい」
「今持っているのなら、それを出せ」
リーダーは、おずおずとポケットからネックレスのような魔道具を出した。
「そいつは未浄化の魔石で作られた魔道具さ。お前らがテマリに剥ぎ取らせた魔石の袋の中に入れていたそうだ。未浄化の魔石が回り回って、お前をいっそうひどい浄化中毒にしたんだな」
リーダーは、うつむくのみだ。
「オーランド、その魔道具とこれを見比べてみろ」
俺はテマリの父さんから借りた、仕様書をオーランドに渡した。
「……同じものだな」
「どうだい? 魔道具を盗んだのが、どちらかはこれで明らかだろう?」
「ああ」
「いいか! これが証拠ってやつだ!」
悔しがれ、悔しがれ! クッヒッヒッヒッヒ!




