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1 巨乳にボロボロにされました

初めまして。もしくは、お久しぶりです。

前々より、男脳と言われていたので、女性も楽しめる男性向けの作品を書いてみました。

一応の完結部分まで、予定投稿いたします。


☆誤字多めです。優しい方、訂正をしていただけると、本当に嬉しいです。

「……別れるってことか?」


 こんなシャレたカフェには不似合いな俺は、死にそうな目で二年も一緒に暮らした恋人のイービスを見つめた。


「別れるも何も、アークとは何にもなかったでしょ?」


 その言葉が俺の心臓をえぐり取る。

 イービスは、隣に座る四十歳は軽く越えていそうな男の太鼓腹にしだれかかかった。そして俺をせせら笑う。

 フッと笑う男の声に、カッとなる。しかしそれが屈辱なのかそれとも怒りなのか分からない。

 ぎゅっと手を握りしめて目を伏せながら、小さく震える声で俺はすがりつくように訴える。


「な、何もないのは……イービスが『結婚までは清い関係でいたい』って言ったからじゃないか……」

「あ~ら。ただ単に、あんたに触るのも嫌だったからに決まっているじゃないの」


 直後に、キャッとイービスは嬉しそうな悲鳴を上げた。

 男がニタリと笑いながら、イービスのたゆんたゆんと揺れる大きなおっぱいを服の上からぎゅっとつかんだのだ。俺が触るどころか、夢でしか見ることができなかったおっぱいをだ!


(俺には見られるのも嫌だって言ったのに、こんなオヤジにはそのおっぱいを好きに揉ませるのか!? ……はっ! も、もしかして……その先も……? イヤ、まさか、でも……、そんなはずが……。)


 冷や汗が吹き出てくる。

 頭の中で何度も何度も夢想したイービスのしどけない姿。けれどその相手のイメージが、自分からこの男に入れ替わっていく。その不快感……果てしない絶望……。

 地獄の入り口とって、こんな感じか?


「あんっ、あふっ」


 真っ赤に塗った唇の形をゆがめに、公衆の面前でみだらな声をもらすイービス。俺は耳も目も塞ぎたくてたまらないのに、気持ちに反して血走った目を皿のように大きくしてじっと見つめてしまう。


 ――いわゆる童貞の性ってやつだ。


 いや俺だけじゃなく、このカフェにいる者全てがイービスと男の行動を見ていた。ある者は俺と同じ顔で。ある者は不快感でいっぱいにして。ある者は憐憫の表情で。しかしこのマナーどころか公序良俗に反す行為を誰も止めることができない。なぜなら、この男がただの嫌らしい中年男じゃなく、このイタリアル王国の貴族だからだ。


「と、言うわけだ。これからマイハニーを街で見かけたとしても、なれなれしくしないでもらいたい。この女性は私の妻になるのだからな」

「つ、妻!?」

「そうなの。私たち、結婚するのよ」

「け、け、結婚!?」

「そ。私、貴族になるのよ。本物の貴族!!」

「き、き、き、貴族!?」

「ええ。だから、私の事は忘れていいわ。じゃあね~」


 席を立ったイービスを、思わず引き留める。


「ま、待ってくれ。俺はイービスのために、何でもしたじゃないか! 村からも連れ出して、家だって用意してやった。それに欲しいものは何でも買ってやっただろう!?」


 事実イービスのスタイルの良さを浮き彫りにしている扇情的なそのドレスも、バッグだって俺が買ってやったものだ。


「こんな安物がなんだっていうの?」


 見返すイービスの目は冷たい。


「や、安物って……」


 衣装部屋にいっぱいのドレスや宝石だって、バックだって、普通の平民なら何ヶ月分もの収入に相当する額だ。イービスが住んでいる豪邸の家賃だって、世話をするメイドの給料だって俺が稼いでいる。……それもすべてイービスが求めるままに普通相場の数倍払っているのに……。


 ふとイービスの指に今までに見たことがないような指輪を見つけた。大きな宝石がついている。ここまで輝きが強いとなると、ダンジョン産の宝石アイテムかもしれない。

 俺の視線に気がついたイービスが、ふふんと上機嫌に鼻をならす。


「いいでしょ、これ。婚約指輪。ダーリンにもらったの」


 イービスは「うふふ」と笑いながら、男の頬に唇を押しつけた。


「こういった超一流品こそが、私に似合う物なのよ」

「そ、そんな物くらい、俺だって本気を出せば……」

「『本気を出せば』?」


 イービスが俺の耳に口を寄せた。


「知ってるのよ、私。あんた、魔術学園を退学(クビ)になりかけているんでしょ?」

「へ?」


 確かにそんな噂が俺にあるのは知っていた。けれど、噂は噂でしかないのに。


「魔術学園を退学(クビ)になったら、なんだったっけあれ? ああ、援助金? それももらえなくなるのよね?」


 援助金っていうのは、平民の魔術学園の生徒がもらえる生活援助金のことだ。忙しい学術学園生徒が、アルバイトにいそしんで本業をおろそかにしないために。その額は、貴族の生徒と同程度の生活ができるくらい。

 でも、イービスの浪費はそんなもんでまかなえる訳がなく、いくつものアルバイトを掛け持ちして稼いできたんだ。

 あれ? もしかして、イービスはあの生活が全て援助金でできたと思っているのか? だから俺が退学になったら、もう金が入らなくなると……?


「ま、まさか。そんな理由で俺を……?」

「ふふふ……」


 イービスは艶やかに笑った。

 その顔は、一緒に田舎を出てきたときよりもずっと洗練されていて、ずっときれいで、ずっと歪んでて……。


「お、俺を愛しているっていったのは嘘だったのか!?」


 イービスの目がすっと細くなった。そして注文したまま一度も口を付けなかった果実ジュース――もちろんこの店で一番高いメニューだ――を俺の頭上にジョボジョボと注いだ。


「身の程を知るのね」

「あ……」


 こんなことまでされるほど悪いことを何かしたのか? 俺は本当にイービスが好きだったのに……。


「今度こそ、じゃあね」


 イービスはハハハといかにも愉快そうに笑う何とか伯爵に肩を抱かれて、たゆんたゆんとおっぱいを揺らしながら去って行った。


「あ、あの……お客様、だ、大丈夫ですか?」


 二人が完全に店を出てから、憐憫の表情を浮かべた若い女性店員が俺におしぼりを差し出してくれた。

 なかなかかわいい子だ。おっぱいも……大きい。


「あ、ああ……。え、ええ……。大丈夫です。お騒がせいたしまして、申し訳……」


 言い終わる前に、また目の前がぼやけてきた。「うっ」と嗚咽が漏れ出してきそうになって、急いで席を立つ。


「す、すみません。やっぱりダメみたいです。し、失礼します」

「ま、待ってください」


 さっきの店員に腕を引っ張られた。


(俺を心配してくれてるのか? もしかして、この子、俺に……?)


 そんなことあるわけがなかった。


「お代をまだいただいていません!」

「あ……」


(とほほ。)


 俺はイービスとなんとか伯爵の分の代金まで払うことになった。最後の最後まで財布扱いだ。何とか伯爵が金持ちだっていうのならば、自分の分くらい払ってくれればいいものを!


 いまさらになって、怒りがムクムクとわいてきた。


 女性店員の「またのご来店をお待ちしております」という笑顔に見送られ店を出た俺は、カフェの窓ガラスに映った自分が目に入った。


(顔立ちが三枚目なのは昔からだ。でも十七歳とは思えないほど老けていやがるぜ。疲れ切っていろいろと抜けきっているからだな。若さだとか、元気だとか、栄養だとか……。)


 ハァァ。全身の力が抜けるようなため息が出る。


(これじゃフラれるのも仕方がないか。前世(・・)で四十代だったときよりもよっぽど老けてるもんな……)


 そう。俺には地球で暮らした前世の記憶があった。しかしその四十数年間の記憶の中にも、この異世界に生まれ変わった十七間年の記憶の中にも親しい女性の記憶がない。おっぱいの記憶はないのだ! つまり合計、五十以上年も「ノーおっぱい」なのだ。

 だからどれだけイービスのおっぱいに触れる日を夢見たことだろう。あのおっぱいに埋もれて暮らしたいと心の底から願っていた。

 それなのに……。


「チックショ――!!」


 声がカフェ前の広場に響いた。


「お前のおっぱいなんて、脂肪の塊のくせに――!!! だいたいお前の性格と同じでおっぱいの揺れ方が、たゆんたゆんってだらしがねえんだよ――!! デーブ、デーブ、デーブ、死ね――!! ゲホッ、ゲホッ、オェ、オェェェェ……」


 久しぶりに出した大声に、思わずむせ込んで吐きそうになる。


 ハッ!


 殺意のこもった背後に視線を感じて、俺はゆっくりと振り向いた。

 さっきのかわいい女性店員がじっと見ていた。


「通報しました」

「え?」

「不審者は、地獄に落ちろです」

「ご、ごめんなさい!」


 俺は全速力で、その場を逃げ出した。




感想ももらえたら嬉しいです。

返信は、体力しだいでございます。

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