(8)
「おい、朝飯どうする? 食ってくか?」
あたしが顔を洗う為に洗面所に向かおうとすると、あたしを泊めてくれた女の子はそう言った。
「いいでんすか?」
「ああ、いいよ」
「すいません……」
あたしは、一端、洗面所に行き……。
あれ?
風呂場から音が……?
そして、風呂場のドアが開き……。
「あ……」
「ええええ……」
「どうした? 女の裸が、そんなにめずらしいか?」
な……なんで……。え……えっと……。
どうして、この人が、こんな所に居るの?
「眞木さん……のお姉さん……?」
「な……何で知ってる?」
「ゆ……有名人です……。ウチの高校では……」
「そ……そうなのか……?」
「あ……あの……あたし、遠藤美桜って言い……」
「ここの家主に、君の素性は聞くなと言われてる。それ以上は言わないでくれ」
……そ……そんな……。
「おい、瀾、泊めてやる代りに朝飯作る約束だろ。いつまで風呂に入ってる?」
「判った、今、やる」
そう言って、眞木さんのお姉さんは、迷彩模様のスポーツブラとパンツを付ける。
朝食のメニューは覚えてない。
でも……人生最高の朝食なのだけは確かだ。
あたしと眞木さんのお姉さんは、制服に着替えて……泊めてくれた名前も知らない女の子のアパートを出て……。
「あ……あの……どうして、家じゃなくて……」
「家族と喧嘩して、知り合いの家に泊めてもらった」
「は……はぁ……」
やがて、バス停まで、もう少しの所で、バスがやって来て……あたしと眞木さんのお姉さんは、あわてて駆け出して……。
「ちょっと、さっきから気になってたんだが……」
「な……なんでしょうか?」
「私の妹と同じ高校なら……バスの方向が逆だぞ」
「あ……」
その一言と共に……あたしの憧れの人はバスの中に消えた。