(5)
あっ……。
女の人の言葉には「力」が込められていた。
すごく単純な「魔法」だ。相手に威圧感を与えるタイプの……。
その事に気付いて振り向くと……。
片方は携帯電話の画面を見ていた。
もう片方は眼鏡をかけていた。
正確には眼鏡じゃない……CMで見た事が有る。……小型端末の眼鏡型モニターだ。
2人の男の人はキョドっている。
眼鏡型のモニターをかけてる男の人は……首から何か……デジカメぐらいの大きさの四角い電子機器をぶら下げている。
その四角い何かの前面には球形の部品……一瞬だけ光が見える。……いや……違う。
球形の部品は、少しづつだけど動いていた……その動きは……。
「うわああああッッッッ‼」
眼鏡をかけてない方の男の人が、女の人に突進。
「ぐ……ぐはっ‼」
何が起きたのかを判っているのは……その女の人だけだろう……。
女の人に突進した男の人は、地面に転んでいて……。
「あぶな〜いッ‼」
そう叫んで、残りの男の人が、あたし達に向かって突撃……。
「いや〜ッ‼」
「来ないで〜ッ‼」
い……一体、このおじさんは……あたし達を何から守る気なんだろう?
今のあたし達にとって、最も危険な存在は、このおじさんなのに……?
この前の「麻薬農場」の時と同じだ……。
どうやら……こう云う状況に置かれると……あたしは感情が麻痺して何も出来なくなるタイプ、凛ちゃんと瑠華ちゃんは、後先考えずに何かをやってしまうタイプらしい。
凛ちゃんと瑠華ちゃんが危ないおじさんに向って放った「力」は……。
「えっ?」
あたし達は同時に声を上げた。
子供が2人居た。
オレンジ色の光に包まれた子供。
仏像みたいな格好をしている。
もちろん……実体は無い。
誰かの「使い魔」か「守護天使」だ。
それが……凛ちゃんと瑠華ちゃんが放った「力」から危ないおじさんを守っていた。
「何やってるッ⁉ 犯罪者とは言え、一般人だぞッ‼」
そう叫んだのは……女の人……。
「お……おい……誰が犯罪者だッ⁉ 俺達は『プリティ・トリニティ』の善良なファンだぞ‼」
その手のモノが「視える」タイプの人かまでは判らない。
けど……その危ないおじさんは、「何か」を感じてはいたようで……腰を抜かしている。
「生中継が可能なタイプの携帯WEBカメラか……。すぐに中継をやめろ」
「や……やめるのは、そっちだ……。今なら勘弁してやる。すぐに尻尾巻いて逃げろ、クソ女が‼」
「ほう……警察にコネでも有るのか?」
「えっ?……ああ、そうだ。良く判ったな。警察を呼んだら……不利になるのはお前の方だッ‼」
「じゃあ……呼べ……。警察に電話するのを許可してやる。さっさと呼べ」
「え……? あれ……どうなってる?」
オレンジ色の「気」が……そのおじさんの全身を呪縛していた。
「あ……あれ? あれ? あれ? どうなってる? どうなってる? どうなってる? どうなってる?」
「どうした? 早く呼べ」
多分……危ないおじさんは……意識は有るけど、指1本動かせない。
「お……おい……君達、お兄ちゃん達は……君達を、このゴリラ女から守ろうとしてあげたんだよ。判ってるよね? だから……お兄ちゃんの代りに警察呼んで、お願い呼んで呼んで呼んで呼んで……」
「これ、中継を切るには、どうすりゃいいんだ?」
危いおじさんの罵倒とは裏腹に、到底「ゴリラ」には思えない体格の女の人は、リュックサックの中から目出し帽を出して顔に付けると……危ないおじさんが首からぶら下げてた電子機器をいじる。
「おい、何で、警察呼ばねえんだ、このメスガキがッ‼ 魔法少女なら、ファンを守れよッ‼ クソ……あ……それに、ここ変だぞ……」
「何がだ?」
「この辺り……たしか『関東難民』用の団地……」
あっ……。
この危ないおじさん……ひょっとして……「会社」がファンに隠してる事の1つに気付いたのかも……。
「おい……まさか……御当地『魔法少女』が関東難民だったのかよッ⁉」