(1)
しばらく待っていると、再び携帯電話に着信音。
さっきかけた番号からだ。
『手を上げて』
「は……はい」
『近くに、緑色のバイクが有るだろ』
そう言われて辺りを見回すと……たしかに……明るい緑色で大きめの三輪バイクに、似たような色のライダースーツの人が、片手を上げて、もう片方の手に持っている携帯電話じゃない、かなり古臭い外見の携帯電話を耳に当てている。
「じゃあ、ボクが送るから、後ろに乗って」
予備のヘルメットを、あたしに渡そうとしているその人は……あたしと同じくらいの齢の女の子。
「あ……あの……眞木さんは……?」
「眞木? キミ、瀾と一緒じゃなかったの?」
「え……?」
「あ……ひょっとして、知らなかったの? 瀾と治水は姉妹だけど、名字が違うんだ」
「へっ……?」
「ボクも詳しく知ってる訳じゃないけど……小さい頃に両親が離婚して、別々に育ったらしい。瀾の名字は『高木』だよ」
そ……そうだったのか……。
その時……ある事に気付く……。
「あの……高木さんって、いつ、あたしが高木さんと一緒だって連絡したんですか?」
「キミが言った番号だよ」
「え?」
「『ホテル』はアルファベットの『H』、『インディア』は『I』、『トゥリー』は数字の3、『ナイナー』は数字の9の言い換えだ」
「えっと……つまり……HI39? って、どういう意味なんですか?」
「意味なんて無い。あらかじめ、起きる可能性の有る状況をリスト化して、その全部に番号を振ってただけだ。HI39ってのは、キミと瀾が2人で行動してたけど、途中で不測の事態が有って、キミ1人を逃がさないといけない状況に割り振られた番号だ」
「で……でも……」
「差し迫った危険は無いように思った?」
「……は……はい……」
「でも、瀾は、危険が有ると判断して、君と分れた」
「あの……その危険を……高木さん1人で……」
「あいつなら、絶対に、こう言うだろう。『自分が死んでも、キミの安全を確保出来れば成功。そうじゃなかったら失敗だ』ってね。行くよ」
「行く、ってどこにですか?」
「当面の間は安全な場所だよ」
「無茶です。高木さんを見捨てるんですか?」
バイクでやって来た女の子は……しばらく考え込み……。
そして、さっきの電話を取り出して……。
「おね〜さん、瀾も回収する。バイク、もう1台おねがい」
「あ……あの……」
「どうしたの?」
「もう1人居るんです」
「へっ?……どうなってんの?」




