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「で、何であんな事になったか、判る人、誰か居る?」
向こうのチームのリーダーがバンの中でボヤき出した。
「いや、やったの貴方でしょ」
向こうのチームの「一匹狼担当」っぽい子が当然のツッコミ。
「知らないという事は……最悪でも過失か……」
運転してるスキンヘッドの大男のおじさんがそう言った。
「何を知らなかったか判らんが、刑事起訴された場合、彼女がその『何か』を知らなかった事を、どうやって証明すればいいんだ?」
続いて助手席にいる六〇ぐらいの弁護士さん。
「彼女がやったのは、多分、こう云う感じの事じゃないですか? まず、たまたま不良警官に絡まれている人達を見付けた。そこで、不良警官に対して何かの精神操作系の『魔法』を使った。そうしたら、何故か効き過ぎた」
「……は……はい……」
「しかも……あの状況では、複雑な精神操作は、まず不可能。多分、何か単純な感情を呼び起こすモノ……例えば、相手に恐怖心を抱かせる、とかをやった可能性が高い」
「え……えっと……何で判ったんですか?」
「精神操作系の能力は持ってるが、その能力を迂闊に使った結果、痛い目を見た事がない人が良くやるミスだ。似たような状況の裁判記録が無いか調べてみて下さい。ただ、刑事裁判は専門じゃないので、どんな判例が有るかまでは判りかねますが」
「どう言う事だ?」
「精神操作系の能力を使われた人間の脳内で起きてるのは、洗脳や暗示と似たような事です。つまり、洗脳や暗示にかかりやすい人間は精神操作系の異能力の効果も強まり、洗脳や暗示にかかりやすい状況に置かれた人間もまた同じ」
「でも……警官って……洗脳や暗示に……そんなにかかりやすいの?」
「話がややこしいのは、そこだ。どこの精神操作系の能力を持ってる者が居るか判らないような御時世だ。警官は暗示にかかりにくくなるような訓練をやってはいる……表向きは」
「へっ?」
「ところが、警察などの体育会系の『文化』が有る組織は……ある意味で構成員を洗脳していると言える」
「待ってくれ……それが本当なら……警官が暗示にかかりにくくなる訓練を受けるのは……」
「警察という組織の『文化』と『暗示にかかりにくくなる訓練』とは相性が最悪です。暗示にかかりにくい人間は、集団の中で自分だけが違う意見を持っていても、それによる不安感はそうでない人より小くなり、同調圧力にも耐性を有しますが、警察のような組織では、これが困った問題を引き起します。いわば『型破りな警官』は少数居れば、警察組織を巧く運営するのに役立つし、警察組織が暴走する事の歯止めになる。しかし、『型破りな警官』ばかりだと警察組織そのものが成り立たなくなる」
「なるほど……暗示にかかりにくい警官が増えるというのは、警察上層部にとっては扱いにくい警官が増えると言う事か……」
「もちろん、上からの命令に従うだけの警官だけになっても、警察組織はいずれ腐敗し暴走するでしょう。しかし、型破りな警官ばかりになるデメリットは短期間で目に見え易い形で出ますが、上からの命令に従うだけの警官ばかりになるデメリットは……病気に喩えるなら潜伏期間が長い。そして、上からの命令に従うだけの警官ばかりになれば、警察組織は形骸化するでしょうが、組織そのものは存続する。警察上層部からすれば、どちらがよりマシな地獄かは明白です。警察関係者以外にとっては話は違ってくるにせよ」
「つまり……現在、警官は……暗示にかかりにくくなる訓練は受けているが、形だけという事か」
「そうです。更に警官に精神操作系の能力を使うのは、ある意味で、既に洗脳がかかっている人間を更に洗脳するような事で。……しかも、暗示にかかりにくくなる訓練を中途半端に受けている事が、話を更に複雑化しています」
「つまり……最悪は……どうなるんだ?」
「既に、警官にとっては最悪な事になっています。警官に精神操作能力を使うのは……マズい事になるのだけは判っていますが『マズい事』のタイプも被害の大きさも、全く予想が出来ません」




