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「説明して下さいッ‼ あれは一体何だったんですかッ⁉」
会社の事務所に戻って来てから、あたしはマネージャーの江見さんを問い詰めた。
「ご……ごめん、事情が有って、当分はシナリオ無しのぶっつけ本番だから……」
それに対して瑠華ちゃんが手を上げる。
「あの……それだと……普段はどう云う練習をすればいいんですか?」
あたし達の普段の練習・訓練は「台本」が有る事を前提にしたモノだ。
もちろん、魔法さえ使えれば誰でも「台本」通りに出来る訳じゃないし、「台本」にもやってみるまで判らない思わぬ欠陥は有るし、完璧な「台本」通りにやってもアクシデントは起きる。
その為に、あたし達は何度も何度もリハーサルをやって「本番」に臨む。
でも……ぶっちゃけ本番・台本も無し、と云う事は……。
「今までのやり方を全部変えるしか無いんですか?」
江見さんは力なく頭を縦に振る。
何度も振る。
壊れたオモチャのように振り続ける。
「あの〜、ところで『爆弾』はどう処分します?」
その時、撮影用のドローンの操作にSNSでの広報その他「何でも屋」の村松さんが江見さんに声をかける。
女性プロレスラーみたいな体格の、あたし達にとってはマネージャーの江見さんよりも「頼れるお姉さん」だ。
「……頼む、後にしてくれ」
「その……『頼む、後にしてくれ』系の問題がいくつ有ると思ってるんですか?」
「で、何個、問題が有るんだ?」
「じゃあ、ファイルサーバーに『未解決問題リスト』を置いときますね」
「……あ……あの……『爆弾』って何ですか?」
「気付いてなかったの?」
「へっ?」
「怪人が君達の魔法を食った時に音と閃光が出てただろ……変に思わなかったの?」
「あ……」
まず反応したのは、あたし……。
「2人とも、マジで気付いてなかったの?」
続いて、瑠華ちゃん。
「どう云う事?」
「知性派」って設定の筈の凛ちゃんだけが何も気付いてない。
一応、言っておくと、凛ちゃんは「知性派を演じてるけど、実は馬鹿」なんてオチは無い。ただし、その「知性」を「知性派を演じる」事に全振りしてるだけで。ちなみに、ファンにバレたらマズい極秘情報だけど、凛ちゃんの学校の成績は、体育と音楽以外は、ほぼオール3だ。
「どこの流派でも『攻撃魔法』の大半は、対生物・対霊体特化型。爆発みたいな物理現象を起こすのは難しいの」
「……あ……えっと……ちょっと待って……。リハーサルで、たまに爆発が起きなかったのは……」
「凛ちゃんが思った事が、あたしの考えてる通りなら、その通りだよ」
「え? 心を読む魔法をいつ使ったの?」
「違う」
「え……えっと……つまり……その?」
「手っ取り早く言えば、あたしらが『魔法』を使うと同時に、光や音が出る仕掛けが有ったの」
「あ……うん、私もそう思ったけど……『心を読む魔法』系の魔法で、そこまで詳しく心を読めるのって有った?」
「だから、違う」
あたし達の中で一番の童顔なんで「おバカかわいい」のイメージで売ってる瑠華ちゃんこそが、あたし達3人の中で、一番頭が回る。
多分、この事がファンにバレると、とんでもない事になる。困った事に、あたし達のファンは中年より上の男性が大半で、しかも、その多くが「テンプレから外れた男に都合が良くない頭のいい女」は敵だと思ってるような人達だ。「おバカかわいいと思ってた女の子が実は頭がいい」と知ったらと考えると……SNSでどれだけ叩かれるか知れたモノじゃない。
「あと、怪人たちは次回から手加減してくれなくなると思うし……ついでに、次回がいつかも判らない」
「どうなってんですか、一体?」
「あ……あの……実は……ウチの『親会社』は安徳グループだったんだ……」
「へっ?」
「はぁ?」
「あ……あの……安徳グループって……少し前に『正義の味方』達がブッ潰した暴力団の……?」
あたしと凛ちゃんが、状況が理解出来ずに反応に困ってる中、瑠華ちゃんが適切な質問。
「う……うん……。今までの怪人さん達は……『親会社』から派遣されてたんだ……」
あははは……。
以前、打ち合わせ中に「魔法少女と言えば『闇堕ち』だよね〜。やるとしたら、どう云うシナリオでやる?」みたいな話をした事が有ったけど……。
「あと……これからは……ストーカー化したファンに気を付けてね……」
「どうしてですか?」
「これまでは……君達を狙ってたストーカーは……『親会社』が秘かに始末してくれてたけど……もう、その『親会社』は無いから……」
闇堕ちもクソもない。自分で気付いてなかっただけで、あたし達は、最初から深い闇の中に居たんだ。