転章
「ま……間に合ったか……。ま……待ちたまえ」
そこでは「正義の味方」達が、市長の息子とその友達……お世辞にも善良な友達とは言えない……を叩きのめしていた。
「ねえ、この右翼っぽい格好の奴、誰?」
新入りらしい「正義の味方」が僕を指差して、そう言った。
身長一七〇㎝台半ばだが……声は「外人訛り」の有る若い女性。
ボディ・アーマーもヘルメットも青ベースの迷彩風の模様だ……。「迷彩」ではなく「迷彩風」なのは……迷彩と呼ぶには色が鮮かだから。
僕の格好を「右翼っぽい」と評したのは、白の改造ライダースーツに旭日旗っぽいマークが描かれた白いヘルメットだからだろう。
「私達の同業だ。もっとも『独立系』だけどな」
そう答えたのは……同じような格好の……しかし、背丈は一五〇㎝台の、もう1人の「正義の味方」。
「君達のような圧倒的な力を持つ者が……」
「弱者を叩きのめすのが不当だと言うのなら……こいつらが所持していたコレは何だ?」
そう言って、小柄な「正義の味方」は、地面に転がっている金属バットとサバイバル・ナイフを指し示す。
彼女の「正義の味方」としてのコードネームは……ニルリティ。
どうやら、インド神話の邪悪な闇の女神で……仏教では「羅刹女」の意味らしい。
「正義の味方」らしからぬ禍々しい名前だ。本人の前で言うと不機嫌になるが、ネット上での渾名が「悪鬼の名を騙る苛烈な正義の女神」。
「彼らにだって人権……」
「これから、この馬鹿どもは警察に引き渡す。こいつらの人権か? 留置所にブチ込まれた数分後には、この馬鹿の親の顧問弁護士が飛んで来て、保釈金が支払われるだろう」
「おい、君達がやったのは、冗談のネタになるような真似じゃないぞ」
「人聞きの悪い事を言うな。私達にだって人の心は有る。こいつらには、これっぽっちも同情せんが……嫌な仕事を押し付けられる弁護士には同情してる」
「医療チーム。治療は被害者だけでいいから。加害者は放っておいていいよ」
新人らしい「正義の味方」がどこかに連絡。
「3月にしては冷えるな。朝まで放っておいて、凍死させるのも一興か……」
「やめろ……」
「そう言や、明け方に雪が降る可能性が有るらしいな」
「だから……やめろ……」
とりあえず、市長の息子と、その悪い友達によるホームレス襲撃事件は、あっさり解決した。
何故、僕や正義の味方が現場に駆け付ける事が出来たかと言えば……市長の息子が、規制が緩い動画投稿サイトに予告を投稿していたからだ。
「町のゴミ掃除やります」と題するホームレス襲撃の生中継の予告だ……。市長の息子達のやってる事には吐き気がするし……警察も全方面で役立たずになっている以上、「正義の味方」達のような過激な連中の必要性は理解してる。
でも……誰かがブレーキにならないといけない。
僕は、たまたま、それが出来そうな能力を持ってただけだ。
「父さん、寝てるみたいだな……」
団地の僕の部屋の灯りは消えていた。
医者も匙を投げた……後は死ぬまでの間の苦痛を緩和するしかないレベルの末期癌の父さんと2人暮しだ。
どうやら……父さんと僕は……「異能力者」ってヤツらしくて、身体能力は化物並で、怪我からの回復が異様に早い。
だが、そのチート能力にも副作用が有ったようだ。
父さんの癌の進行は……医者も首を傾げるほど速かった。……ひょっとしたら、超回復能力は癌になった時に進行を速めるように作用するのかも知れない。
「あの変なコスプレ衣装を脱いだら正体がバレないとでも思ったか?……不用心にも程が有るぞ」
その時、背後から聞き覚えが有る声が……。
「な……何で、君が、ここに居る?」
「君がスパイダーマンみたいな真似をやってるからだ。学費や生活費を稼がねばいけないからと言って……『クリムゾン・サンシャイン』本人が『クリムゾン・サンシャイン』を批判してるミニコミ誌に自撮り写真を売るか、普通?」
「あの……僕の家とか本名とか……」
「公表する気は無いが把握している」
「そもそも……何しに来た?」
「頼みが2つ有る」
「何?」
「遠藤菫と云う女性を知ってるか? 学年は違うが、同じ大学で同じ学部で同じ学科の筈だ」
「おい、そこまで……把握してんのか? それと……その女性は何者だ?」
「この団地のこの棟の……君と同じ階の住人だ。ある犯罪組織とネット上の阿呆どもから狙われてる。君が護ってくれると有り難い」
「まぁ……やれと言われればやるけど、後で詳しい情報を教えてくれ。誰に何で狙われてるかとか」
「了解した」
「で、もう1つは?」
「今、ちょっと私達は危ない橋を渡っている。もし……私がどこの誰かがバレる事が有れば……」
彼女の次の台詞は、あまりにとんでもないモノだった。
「君が『護国軍鬼4号鬼』を受け継げ。ただし、顔であれ他の箇所であれ、旭日旗のペイントをするのはNGだ」




