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第十一番歌:八雲たつ アダタラマユミ(結?)

    結?

 研究棟よりさして遠くはないところに、村雲(むらくも)神社はあった。雲の神を祀っていることにどういった所縁があるのか、様々な種類の(にわとり)が飼われている。沈む日を惜しむさうざうしき鳴き声が合わさるはずが、今宵だけは、しんとしていた。

 もの珍しい人どもが、参っていたためである。鶏は、連中が放つ殺伐とした気で黙らされていた。草木や石も、服従せざるをえないほどであった。

「ごめんよー、博士。私、返り討ちにあっちゃった」

 ビー玉をヘアゴムの飾りにした乙女が、明らかに反省の色がみられぬ態度で謝った。

「失敗を前提にした実験だよ。端からお前に期待していないのだ」

 博士と呼ばれた人物は、液晶端末をにらんだまま、事務的に答えた。

「博士ってば、ひどいよ。華麗ヒロインを捨て駒にしてさ!」

「僕に口答えするな」

 ビー玉の乙女に目を合わせずに、博士は機械的に注意した。憤慨しているふりをしておどけている奴に、構ってやる時間が惜しい。

「望みのためなら、犠牲はいくらでも払ってやる。お前達を失っても、叶えてみせるのだ」

 悲劇的な台詞に、ビー玉の乙女は口笛を吹いた。

「なんじゃそれ、サムいんですけど。ねえ、皆」

 鳥居の外に、でこぼこな四つの影ができていた。

「あかんてェ。そんじゃァ博士がかわいそうやろォ。お世辞でも言うんが、いッチ丸く収まるんやでェ」

 グラマラスな影が、ゴーグル型のメガネを首にかけて哄笑した。賢さを、謙虚でくるまず開示する乙女だった。

「金言名句ですのっ! お涙ちょうだいですのっ! 本朝全国が泣いたですわっ!」

 ちっちゃな影が、縦巻きにされた二本の髪にひとつずつ留めた雪の結晶の飾りをきらきらさせていた。美辞麗句を並べて尊大に振る舞う乙女だった。

「……そう、あなた、文学、憎い」

 細長い影が、ネックウォーマーを隔ててぼそりと言った。根が暗く、陰湿さを擬人化したような乙女であった。

「ユー、ソイツは死亡ふらぐッテ言ウンだゼ★」

 痛々しい影が、怪しい日本語で返事をした。眼帯・鋲を打った首輪・破れた服・ガーターベルト・ピンヒールで、設定した自己を確立している乙女であった。

「ふっ、失敗作の寄せ集まりめ」

 端末の電源を切り、刺すような目つきで博士が歩く。鳥居の真下に到ると、ビー玉の乙女は片足で跳んで、四人の間に入った。

「次の実験だ。お前達、『スーパーヒロインズ!』を倒せ。チーム名は便宜上、『グレートヒロインズ!』とする」

 セーラー服を基にした戦闘用衣装をまとった五人の乙女―グレートヒロインズ! が、不遜な敬礼をした。

 紅色の襟が闇に映え、ビー玉の乙女が自信たっぷりに()った。

「私がふみかをやっつけて、スーパーヒロインになってあげるよ!」

 藍色の襟に着られた、ネックウォーマーの乙女が大儀そうに宣った。

「……そう、私、唯音、壊す」

 柳色の襟を自慢げに広げる、縦巻き髪の乙女が高飛車に宣った。

鎧袖一触(がいしゅういっしょく)ですのっ! 華火は最弱、敗軍之将っ!」

 山吹色の襟がそよぐ、ゴーグル型メガネの乙女が大胆に宣った。

「夕陽は、あたいに任せときィ。しばいて、即泣かせたるわァ」

 躑躅(つつじ)色の襟と破れたマントが合わさった、眼帯の乙女が悪魔の契約者になりきって宣った。

絶対(マキシマムザ)天使(ハート・)信奉者(ビリーヴァー)は、ミーの宿敵★ 血祭リにアゲテやるゼ★」

 村雲神社に、どす黒い雲がかかってゆく。ついに布陣が整った。博士は、両指の関節を鳴らし、空をねめつけた。

「安達太良まゆみ、いいや、アヅサユミ。僕は、お前を(ゆる)さない。お前は、この僕が……安達太良なゆみが、殺す」

 空は、博士の決意に応えてやったのか、黒雲から穢れなき(りっ)()を降らせたのであった。


〈次回予告!〉

 「こんにちは、ふみか!」

 「は、はい?」

 「いきなりだけど、『スーパーヒロインズ!』のパロディやってみよー」

 「なんじゃそりゃ」

 「ねーね、『グレートヒロインズ!』っていうのはどうかな?」

 「オリジナルより強そうだね……」

―次回、第十二番歌 「()せた物語(ものがたり)

 「あの、ところであなたは誰なの?」

 「そうだね、天の岩戸に聞いてみなよ!」     


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