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92話 帰路に向けて【前編】

「オレの友達に、将来カウンセラーになりたいって奴がいてさ。そいつから聞いた話なんだけど、人間不信って、他人を試すような行動取ることもあるらしいんだよ」


 昼食を口に運びながら、オレは3人に向かってそんな話を続ける。

 サディエルは『へー、そうなんだ』と、感心した表情である一方、心当たりがありまくるのかアルムとリレルは視線を逸らした。


 その分かりやすい反応、もっと早くサディエルに見せるべきだったと思うよ、オレ。


「思い返してみたら、アルムもリレルも、結構サディエルを試すようなことを日常的に言ってたよなーって。心配しているって姿も、ほとんどサディエルが不在か気絶中だったし」


「ヒロト、頼むから冷静に僕らを分析するのをやめてくれ」

「はい、お願いですからやめてください……あの、結構恥ずかしい……」


 まっ、この程度の言葉ぐらいは許して欲しい。

 オレに至っては、完全に第三者ポジションだったわけだし。


 普通、あの場面って過去編スタート!

 実はサディエルたちはこういう出会いがあり、アルムとリレルはこんな葛藤云々がー! と、ながーく語られる場面なわけだ。


 最も、オレの視点だと、そんな都合よく映像なんか流れてこないので、無理だけどな。


 そんなアルムとリレルの様子を見てか、サディエルは小さく笑う。

 サディエルの隣に座っているアークさんも、面白がっている。

 さらにその隣に座っているバークライスさんも、おかしそうに笑い、昼食はなんとも和やかなムードだ。


「俺も、最初から上手くいくとは思ってなかったよ。2人に初めて会った時、人のことなーんとも思ってない顔していたからな。アルムはこっち見てすぐに視線そらして面倒そうにしていたし、リレルに至っては無表情だ」


「サディエルも、よくパーティ組もうって決意したよね」

「んー……いやまぁ、あの時は俺もさ、本音は1人で居たかったんだよ」


 用意されたコーヒーを飲みつつ、サディエルは昔を思い出しながら語った。

 一方で『1人で居たかった』と言う言葉に、ビクリと2人が反応する。


「アークのことがあったからな。正直、1人で居た方が楽なんじゃないかって……クレインさんの護衛をしている間も、この屋敷でフットマンとして働いている間も、結構悩んでいたんだ」


 流石にこの件に関してだけはアークさんも耳が痛いらしく、ちょっと視線が泳いだ。

 改めて見ると、ここの関係複雑すぎない……?


「で、ちょっとその間にトラブルがあって」

「サディエル、そのトラブルを詳しく」

「脱線するし、今話したら夕方になるから却下」


 両手で×マークを作りながら拒否されてしまった。

 いや、そりゃそうだけど。脱線だけど気になる。


「そのトラブルがきっかけで、2人を紹介されたんだ。捨て犬か捨て猫見たいに、敵対心バリバリのな」

「捨て犬か、捨て猫……」


 脳内で、犬耳と猫耳でミニチュアな2人を想像すると、ちょっと笑いそうになる。

 オレが何を想像しているのか察しがついたのか、アルムとリレルがこちらを睨んでくるけど、スルーさせて貰おう。


「そりゃ悩んださ。当時の俺の精神状態で2人を預かれるかって言ったら、無理だってすぐに思った」

「いつものサディエルならそう判断するよね。過小も過大も評価しないんだし」

「あー、それ。こいつらと組んでから、戒めで自分に課したんだよ」


 なんですと?


 え、最初からそう言う思想の元にやってたんじゃ……ないんだな。

 ちょっとそれが意外だったというか、何と言うか。


「アークやカインさんに散々注意されていたし、止めてくれる奴がいなくなったからさ」


「おれがいなくならんと出来なかったのかよ、お前……」

「あっははは、ごめんって」


 ジト目でアークさんに睨まれて、サディエルは必死に謝罪をする。

 なるほど、ストッパーがいないって認識していたからか。

 そう言う律し方しないと、1人でドツボにハマってやらかしどころじゃなさそうだもんな、サディエル。


「で、色々悩んで、結局決め切れなくて。詳細な事情をって周囲に聞き込みしたら、そりゃそうなるかなーって分かって、見捨てられなくなってさ」


「それで、一緒に?」

「あぁ。アークたちの言葉を借りるなら、小さな親切、大きなお世話だったかもしれないけどな」


 苦笑いするサディエルを見て、港町での会話を思い出す。

 丁度、アークさんと初めて会った時で、2人に複雑じゃないかって聞いた時、だったかな。


『……あー、とりあえずサディエルのお人よしに巻き込まれた感はめっちゃする』

『おおむね大正解』

『そうですわね、あれは彼の小さな親切大きなお世話、だったかもしれませんね』


 ぼかされた言い回しだったけど、そう言う意味だったのか。

 オレが納得していると、サディエルはナイフとフォークを皿に置いて、バークライスさんに視線を向けた。


「バークライスさん。もう、アルムとリレルは大丈夫だと思います」


「……え?」

「サディエル、何を……」


 2人の問いかけを無視して、サディエルはバークライスさんに対して報告を続ける。


「今日ご覧になった通り、2人はもう大丈夫です。人との関わりだって、ヒロトとの関係を見れば分かると思います」

「そのようだな」


 彼の言葉に頷くと、バークライスさんは、アルムとリレルに視線を向けた。


「アルム」

「はい」


「リレル」

「……はい」


「本日付けで、各部署への復帰を許可する。今回の件が完了次第、戻ってきなさい」


 バークライスさんの言葉を受けて、2人は驚きの表情を浮かべる。

 各部署へって……それって……


「えっと、アルムとリレルは……そっか、この国の軍師さんと、名医さんの弟子だから……」

「何もなければ、エルフェル・ブルグで軍師や医者として働いていたからな。2人とも」


 そっか、そう言えばそんなこと言ってたっけか。

 今回のってことはオレを元の世界に戻した後になるわけで……って、ちょっと待った。


「それって、2人とも冒険者を辞めるってこと、だよね? じゃあ、サディエルは?」

「俺かぁ……どうするかな。ヒロトも見送った後ってことになるし。当初の予定通り、1人旅でもするかな」


 パーティ解散の危機ってのに、当事者の一人が楽観的過ぎる!

 両腕を組んで悩む内容が、1人旅をするか否かってあたりが。


 アルム、リレル……ここに、素直じゃなかった5年分の弊害がめっちゃ出てるよ。

 ミリも2人が残る可能性を視野に入れてないよ、サディエルは……!


 思わず彼らに視線を送る。

 アルムとリレルの方も、サディエルが1人旅をする気だと聞いて、唖然としていた。

 だけど、すぐに2人は椅子から立ち上がって、駆け足でサディエルの所まで行く。


「お、ま、え、はー!!」

「サディエル、冗談でもタチが悪すぎますよ!?」


「へ? いやだって、お前らがこの国に残るなら、俺はお役御免だし……」


 うん、ダメだ、サディエルが何も理解しちゃいない。


 きっと彼の脳内では、2人が笑顔でエルフェル・ブルグへ戻って、自分は役目を終えた一安心! って感じで旅立つ未来しか想像してない。

 独り立ちした息子と娘が、自分の元から巣立って行くのを見送る父親状態だ。


 ほら、隣にいるアークさんは『……ダメだコイツ』って哀れみの目を浮かべているし。


 ……流石にアルムとリレルが可哀そうだし、援護しよう。


「あのさ、サディエル……2人は……」


「待てヒロト、僕らから言う」

「ですね。言わないと分かってくれなさそうです」


 ハッキリと言われて、オレは口を紡ぐ。

 2人がそこまで決意してるなら、これ以上は野暮だよな。


「分かった。頑張って、2人とも」


 エールだけ送って、オレは事の成り行きを見守ることに徹することにした。

 落ち着いた所で、まずアルムが口を開く。


「お前も残れ、サディエル」

「そうです、残ってください」


 続いてリレルも強い口調で懇願した。

 2人の言葉を聞いて、サディエルはゆっくりと首を左右に振る。


「2人はもう大丈夫だ。ずっとそばで見て来た俺が保証……」


「お前がいない状態で帰っても、すぐに悪化して余計厄介になる自覚あるんだよ、僕もリレルも!」

「私たちは嫌です、サディエル。お願いです、私とアルムを見捨てないでください……!」


「見捨てるって、俺はそんなつもりじゃ」


 素直に言いきった2人に、オレは心の中で拍手を送る。

 そうそう、そこまで言い切らないときっと通じないよ、サディエルなんだから。


 5年間、2人が彼に対して素直に言えなかった部分が原因で、今回の反応なんだからさ。


 これがただの鈍感とか、天然なら良かったのに。

 正直、鈍感とかよりもよっぽどめんどくさい。

 5年分の凝り固まったイメージを解さないと、多分彼は理解しないのだから。


「お前がやろうとしてることは、そう言う事だ!」

「そうです! 1人旅するぐらいなら、私たちも連れて行ってください! じゃなきゃ、残ってください!」


 必死に頑張って言葉を紡ぐ2人に対して、サディエルが何とかひねり出した言葉は。


「……2人とも、なんか子供っぽくなってないか」


 これである。

 想像以上に重症だよ、この3人。


 元の世界に戻ったら、オレも気を付けよう……ここまで親友たちと捻じれたくない。


「誰のせいだ!」

「誰のせいですか!」


 3人とも同罪だとおもいまーす。

 今回の一件で、3人の精神年齢が凄くオレに近いところまで下降しまくったなー……おかしい、コンビネーションの試験じゃなかったのか。


 ダメだ、やっぱ助け船だそう。これ以上はさすがに両者ともアレすぎる。


「サディエルがエルフェル・ブルグに残るの、オレも賛成かな」

「ヒロトまで!?」


「いやだって、オレからしたらさ、元の世界に戻った後はもうみんなの様子が見れないわけだよ。ガランドの件が決着ついたとして、その後も冒険者やってたらって思うと心配なんだ」


 一般的な物語のエンディング後は、猫箱になるわけだから想像するのは自由だ。

 また世界が滅びかけたりとか、旅の途中で実はくたばりましたとか。


 だけど、オレが今経験しているのは、架空の物語じゃないんだ。


 ガランドとの決着をつけたとしても、その後の冒険であっさり……と言う可能性はゼロじゃない。


「もう2度と連絡が取れないなら、1つの国に定住してくれる方が、オレとしても安心出来る」


 確実に安全で平和に過ごしてくれる、と信じられる場所に永住してくれるなら、それに越したことは無い。

 元の世界に戻った時に、このエルフェル・ブルグで仲良くやっている3人を思い返すことだって出来るわけだ。


「だから、オレからもお願い」


 この通り、と顔の前で両手を合わせる。

 それでもまだ少し渋るサディエルに、さらに追撃が来た。

 バークライスさんからの、アルムとリレルへの援護射撃である。


「この国に残ると言うならば、1つ提案がある。サディエル、魔術省で働く気はないか?」

「魔術省、ですか?」


 サディエルの問いかけに、バークライスさんは頷く。


「そうだ。お前は今回の件で、魔族どころか魔王とも関わりを持った。痣を初めて受け、尚且つ、魔族を退ける予定もある。そんな経験をした人材は、こちらとしても貴重だ」


 と言う事はつまり……


「サディエルが魔術省に就職しちゃえば、アルムやリレルと同僚にもなる、ってことか」

「ついでに、おれとも同僚だな。いいんじゃないか?」


 オレとアークさんの言葉を聞いて、アルムとリレルの表情が輝く。


「「サディエル!」」


 期待のまなざしを受けて、サディエルは一瞬たじろぐ。

 だけど、すぐに観念したのか苦笑いを浮かべながら、アルムとリレルの頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫でた。


「バークライスさん、その話に甘えさせてもらっていいですか?」

「そうしてくれると、こちらとしても助かる」


 その言葉を聞いた2人は、とても嬉しそうにしている。

 3人が平和に暮らせる目途が立ちそうで、嬉しい限りだ。


 うん、これでオレも、安心して元の世界に………


 ――――ちょっと待った。嫌な事に1つ、気づいてしまった。


 うーわー、むしろこのまま、いい話だったなー、で終わらせたかった。

 気づいたオレのアホ! でも気づかずに放置してた方がもっとやばいので、グッジョブ、オレ!


「えっと、3人ともごめん。1つだけお願いが」

「ん? どうしたヒロト」


「途中で気づけばよかったんだけど……オレの世界で、こういう "戦いが終わった後の話をする" ってのさ……死亡フラグのテンプレでさ」


 死亡という単語と、テンプレと言う言葉に、3人は頬を引くつかせる。

 そう、めちゃくちゃドテンプレな死亡フラグを、今まさにオレたち踏み抜きまくっている、いや、ギリギリまだ踏んでないか?


 とにかく微妙なラインというか、瀬戸際なわけで。


「バークライスさん、すいません。さっきの話、一旦保留でお願いします」

「魔族限定で、ヒロトの所の "お決まり" は凄く当たるので」

「もう予知か予言レベルですよね、ここまでくると」


 必死に前言撤回をする3人。

 何事だと、オレに説明を求める視線を投げてくるバークライスさんと、ついでにアークさん。


 はい、謹んで説明させていただきます……

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