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89話 3対3【4】

 剣と剣がぶつかり合う。


 相変わらず、オレが中衛や後衛に強襲を掛けようとすると、すかさずレックスさんが動いて、こちらを制止してくる。

 剣を素早く引いて、切り上げる体制を取ると、あちらは切り落としの形を取り、再び得物同士がぶつかった。


「………っ、くっそー。アルム!」


 オレの言葉を聞いて、アルムがすかさずレックスさんに矢を向ける。

 同時に、レックスさんが僅かに右に逸れると……


「"衝撃よ!"」


 杖をこちら向けた、バークライスさんの姿が見える。

 オレは慌ててレックスさんの居る位置とは逆へ逃げて、何とか初撃を回避した。

 後方にいたアルムも弓を構えながら横に飛び、そのまま矢を放つものの、バークライスさんが1歩動いただけで避けられてしまう。


 魔術が放たれた瞬間、何とかサディエルを躱したリレルが、バークライスさんとの距離を一気に詰める。


 だけど、ただ躱しただけでは、状況は変わらない。

 リレルが近づいてくるのには気づいているものの、バークライスさんは視線をこちらに向けたまま。

 何故ならば……


「おっと、残念だなリレル!」

「……あと、少しでしたのに!」


 寸での所で、サディエルの脚力がリレルを上回り、バークライスさんを護るように立ちふさがって、双方の槍がぶつかり合う。

 だけど、今ならこっちは2対1……!

 この隙にレックスさんを何とか出来れば。


「ヒロト! 回避!」

「え、うわ!?」


 アルムの言葉を理解するよりも早く、腹部に衝撃が走る。

 見ると、レックスさんの後方に居たバークライスさんの杖が、先ほどと変わらずこちらに向けられていた。


 しまった……!


 さっきのリレルの攻防、バークライスさんはサディエルの援護が間に合うと確信していたから、一瞬もこちらから視線を外していない。

 オレが僅かに気を緩めた瞬間を見逃さず、射線も通っているからこそ、先ほどとは異なり無詠唱で放ってきたのか。


 レックスさんは、戦闘不能判定となったオレをすり抜け、アルムとの距離を詰めた。


 アルムの手から弓が弾かれると同時に、リレルの槍も宙を舞う。

 双方の首に剣と槍が向けられたところで……


「そこまで。ヒロト君チーム全滅により、サディのチームの勝ち! 15分間の休憩後、6戦目を開始とする!」


 審判役まで兼任しはじめたアークさんの声が響いた。

 そして、壁に貼られている紙に、また丸が1つ追加される。

 これで5戦全敗か……くっそー、上手くいかない!


「……はぁ、ごめんアルム。反応遅れた」

「いや、今のはこっちも対応が遅れたから気にするな」


 必死に呼吸を整えながら、オレとアルムは床に座り込む。

 そこに、槍を回収して戻って来たリレルが申し訳なさそうに頭を下げる。


「申し訳ありません、上手くサディエルを躱せませんでした」

「リレルもお疲れ様。ごめん、負担かけちゃって」


 やっぱり、どっちかを2対1の状態に持っていくと、こっちも必然的に1対2になる場面が出る。

 そこのバランスが難しすぎる。

 いや、オレがもうちょい戦える前衛だったら、このバランス調整は楽だったんだろうけど。


「3人とも、大丈夫か? ほらっ、水分補給」


 飲み物とタオルを手渡しながら、アークさんがオレたちに声を掛けてくる。


「ありがとうございます、アークさん。はぁぁ……水が美味しい」


 受け取ったタオルで汗を拭きつつ、水で喉を潤す。

 午前10時から始まった、2日目のコンビネーションの試験。


 結果はまぁ、予想通り本日も絶賛連敗中である。


 昨日と違って、双方がチームごとに連携を行っての戦闘になるので、決着時間そのものは伸びているんだけど……やはり、個人の力量差がまだまだ埋めきれていない。

 何よりも、何とか2~3対1の形に持っていきたいのに、こう障害物もないフィールドでは、それすらも難しい。


 あちらが不用意にパーティ内の足並みを乱す、ということも無い為、なかなか突破口が見いだせない状況だ。


「さて、苦戦している3人に朗報だ。"予想が当たった"」


 アークさんのその言葉を聞いて、オレたちの動きが止まった。


「時間も、リレルさんの予想した通りと言ったところか。今の時刻が、午前11時38分だ」

「先ほどの戦闘では、サディエルの様子に変わりは無いように見受けられましたよ?」


 驚きの表情でリレルがそう問いかける。

 それを聞いて、アークは苦笑いした。


「最高速度に差はなかった。だが、初速度の方にな」


 アークさんは1冊のノートをオレたちに見せてくる。

 そこに書かれていたのは1戦目からの、サディエルの動きとおおよそのタイム、だと思う。

 詳細は読めないけど、さっすがに数字は読めるからな。これだけは異世界でも共通で助かった。


「時間だけを見ると、疲労度による誤差とも言えなくはない。だが、1戦目のここと、さっきの5戦目のここ」


 アークさんが指さしたのは、1戦目と5戦目でのサディエルの動き。

 5戦目はさっき、リレルがサディエルを躱して、バークライスさんに詰め寄った時のものだ。

 で、1戦目の方は、試合開始直後にサディエルが一気に詰めて来たタイミングになる。


「1戦目が1.5で、5戦目が……2.9?」

「サディの奴が、最高速度に到達した時間だ。これで測った」


 そう言いながら、アークさんは懐から小さな瓶……これは、砂時計っぽいやつか。

 くるっ、と回すと砂が落ちて来て、落ち切ったら特定の時間を計れるってアレ。


 オレの世界では確か、11世紀頃には、航海用の時計として使われていた、とも言われているシロモノだ。

 かつて地球一周を行った冒険者フェルディナンド・マゼランも、船に18個も砂時計を積んでいたという話もあるから、航海士でもあるアークさんが、砂時計を持っていることは不思議じゃない。


「作戦会議の意味も込めて、1試合ごとに15分の休憩を取りながらの試験。それなのに、たった5戦でここまで差が出るのはちょっと異常だな」

「今回のサディエルは中衛です。いつもよりは、動く量も減っているはずなのですが……」


 試合前に話していた、サディエルが何かを隠していて、薬を使って抑えている……ということが、これでハッキリしたと思っていいはずだ。

 となれば、次の試合こそが……


「アルム、リレル」

「あぁ、分かっている」

「はい。この件は後できっちりと問い詰めましょう……まずは」


「予定通り、ここで逆転の1手を打つ!」


 こっちが勝利するチャンスだ。


 オレは近くに置いていた紙を広げて、作戦内容の最終確認をする。

 とにかく落ち着いて、確実に、アルムたちと決めた動きを実践するだけだ。


「頭に叩き込んだか? ヒロト」

「うん、大丈夫。失敗したらごめん」

「失敗したらフォローします、思いっきり行きましょう」


 脳内で必死に戦いの内容をシュミレートする。

 大丈夫、行けるはずだ、


 いいや、違う。成功させるんだ!


「……よしっ、大丈夫! 行ける!」

「分かった。やるぞ、リレル、ヒロト」

「えぇ!」


 オレたちは同時に立ち上がり、サディエルたちを睨む。

 こちらの動きに気づいたのか、あちらも視線を向けて来た。


「双方、そろそろ時間だ。時間的にも、この1戦を午前の最終戦とする!」


 両者前へ! と、アークさんの声が響く。

 互いに中央まで来て、睨みあいになった。


「サディエル、次は勝たせて貰うから」

「威勢がいいなヒロト。こっちも負ける気はないから」


 互いの腕をがしっ、と当てて、オレたちは距離を取る。

 必要なモノの位置の確認良し、流れの確認も良し。


 さーてと、まずは景気よく1発、奇策スタートと行きますか。


「それでは……6戦目、試合開始!」


 合図と同時に、オレたちは武器を一度しまってから行動を開始する。

 オレは左に、アルムとリレルが右に分かれる。

 それを見て、レックスさんがオレの方へ、サディエルとバークライスさんはアルムたちに狙いを定めた。


 右へ移動したアルムたちが向かった先は……訓練用としてレックスさんが持ってきてくれた、様々な武器を乗せた荷台。


「さってと」

「行きますよ!」


 2人はその荷台を倒して、景気よく床にばらまく。


「「"風よ、吹き荒れろ!"」」


 同時に風の魔術を使い、床に散らばった武器たちを宙に浮かせ……


「ヒロト、上手く逃げろよ!」

「頑張ってくださいね!」


 そのまま、雨あられの如く降り注がせた。


「アークさん、借ります!」


 オレは全力疾走でアークさんの所まで行き、彼の近くにあった小型のテーブルを引っ掴み、それを盾にしながら、再度移動する。

 レックスさんは、流石にこれはまずいと足を止めて、降り注ぐ武器を避けることに専念し始めた。


 サディエルの方は……バークライスさんが何かの結界を張ったのか、直前で武器が弾かれて床に落ちている。


 同時に動けなくなった3人を他所に、アルムがオレの方に走り出す。

 武器の雨あられは、アルムとリレルの位置には一切降っていないから、2人は自由に動けるのだ。


「サディエル、レックスの方を! リレルの槍なら、しばらくは捌ける!」

「分かりました!」


 武器が降り注ぐ量が減り始めたタイミングで、サディエルは槍を構えてこちらに向かってくる。

 先に到着したのは、アルム。

 彼はすぐにレックスさんの所にはいかず、オレの所に1度寄る。


「よろしく!」

「任せろ」


 手早く目的のモノを交換して、オレはリレルの元へと向かう。

 ようやく通常通りに動けるようになったレックスさんは、すぐさま近くまで来ていたアルムへと距離を詰めた。


 剣が、アルムに向けて振り下ろされようとする。


 しかし、被弾する直前に何かがレックスさんの剣を防いだ。


「……なっ!?」

「悪いですがレックスさん……少しばかり、僕の剣技に付き合って貰いますよ!」


 レックスさんの得物を跳ね除け、"剣を構えた" アルムが次の一撃に移る。

 その動きは、フェンシングのように素早い突き。

 小手先勝負の彼らしい立ち回りだ。


「リレル! お待たせ!」


 その間に、オレはリレルに到着する。

 ちらりと後方を見ると、サディエルが一瞬だけアルムとレックスさんの戦闘を確認してから、こちらに戻って来るのが見えた。


 わざわざ人数差を作るわけないか。


 オレはリレルに、アルムから預かった弓を渡して、槍を受け取る。


「サディエルが合流する前がチャンスです!」

「了解!」

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