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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
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73話 縁ある者【後編】

 コツコツと、良く分からない城のような場所を、オレと魔王カイレスティンは歩いている。


「色々聞きたいんだけどさ」

「うん」


「全部一旦後回しにするから。サディエルを助ける方が大事だから」

「うんうん」


「だから、ちゃんと後で説明してくれますよね!?」

「何で敬語になってるんだよ、ヒロト兄ちゃん。今まで通りでいいのにー」


 無茶言うな!


 と言うか、昨日だったかクレインさんへのお礼の品見繕っていた時、この国に住んでる小さい兄妹見て、懐かしいなーどうしてるかー、とか思ってたけど。

 まさか、アレまでフラグ扱いになってないよな? いや、なってるな、魔族相手だし。


 この世界で『対魔族に関してのみは、ファンタジーのテンプレは有効論』、これにて確定とさせてください。


 一方でオレの内心の葛藤を知ってか知らずか、いや、知らないんだけど、とにかくカイン君こと、魔王カイレスティンがケタケタと笑う。

 見た目が青年になったせいで、『ヒロト兄ちゃん』と言われるのは、違和感しかない。


「けどまっ、ヒロト兄ちゃんが一般的な魔族だ魔王だ殺せ! ってタイプじゃなくて良かったよ。そうだったら、どこかで始末しなきゃいけなかったからさー」

「怖い事言わないでくれますか!?」

「えー、事実じゃん。出る杭は早めに打たないと危ないんだし」


 あっけらかんとひどい事を言ってくれる。

 いやまぁ、魔王からしたらそうかもしれないけどさ。


 すると、魔王カイレスティンは表情を戻して、先の通路を見る。


「それに……今回の件は、そのことが原因なんだ。自分の失態は、自分で何とかするよ」

「どういうこと?」


「ヒロト兄ちゃんに、あの街で出会ったのは偶然じゃないってこと。俺たちから、会いに行ったんだ」


 魔王の方から……?


 と言うか、オレがカイン君に会ったのって、異世界に来てからさほど日にちは経っていないタイミングだよな。

 姿を見かけただけならば、避難訓練に参加した日だから……確か、3日目か4日目。

 実際に会話したのが、魔物の襲撃があった日になるから、1週間も経っていない。


 つまり、その短い間に、オレが異世界から来たってことを知る術が、何かしらあったはずで……


『改めて、この世界へようこそ、異界からの来訪者にして同志』


 先ほどの彼の挨拶とその内容。

 図書館で読んだ、あの魔法陣が作られた経緯と年数。

 魔王が現れたと言われている時期。


 そして、こういう場合のテンプレを加味すると、つまりは……


「……異世界の人間、って言って良いかはわからないけど、そうだよね? 魔王様も」

「その通り」


 やっぱりか……魔王様が異世界人、これも結構最近はあるあるなパターンと化している。

 昔は魔王=問答無用の悪! だったわけだけど、最近だと、実は良い人、実は世界を守る側でした、みたいな展開も増えつつあるから、特段驚きはしないけどさ。


 対魔族限定で、本当にテンプレが綺麗に当たりすぎて泣きそうである。


 通常の冒険時はテコでも適用されないってのに!

 そのお陰で、ガランドに対しての有効打を何度も打てているわけだから、結果だけ言うと助かっているわけだけど。


「気難し屋軍師の一番弟子(アルム)は流石だな。すぐにあの魔法陣の可能性に気づいて、真っ先にあの立ち入り禁止区画へ行ったんだ。読んだんだろう? あの屋敷の……」


「それも後で詳しく聞く。今はそんな話よりも、サディエルの方だ」

「それもそうだな。さてと、話を戻そう。今回彼が狙われた原因は、俺が君に会ったことだ」

「オレに?」


 眉を潜めながらオレは問いかける。

 すると、魔王カイレスティンは小さく頷きながら。


「あの日、あの街での魔物の襲撃は、元々は君にどんな能力があるか調べる為だった。だから、部下を派遣して、魔物の襲撃を発生させた」


 最初の街での襲撃は、意図的だったのかよ!

 確かに、異世界に来て結構すぐに魔物の襲撃を実体験する羽目になったけどさ。


「俺はミリィと共に、子供の姿で君に近づいて、何かしらの能力を確認しようとした。子供相手で守らなきゃって思えば、何かしらやってくれると思ったんだが……」


「何も持っていなかった、と」

「あぁ。それどころか、危うく殺しかけちゃって……いやぁ、ごめん、ごめん!」


 ノリが軽い!

 あの時、サディエルが助けに来てくれなかったら、本気で危なかったって言うのに。


「……で、ここから本題。誤算だったのは、サディエルの存在だった」

「サディエルの?」


「あぁ、俺はこの世界に来たタイミングで、該当者が事切れていたから分からなかったんだが……まず前提として、君をこの世界に呼んだのは、サディエルだ」


 やっぱりそうなのか。

 アルムから聞いた魔法陣が発動した瞬間を考えたら、そうだろうとは思っていたけど。

 もっとも、サディエルからしたら偶然に近いし、意図的に発動出来るわけでもない。


 部屋に入るタイミングが異なれば、その召喚主はアルムかリレルだったわけだし。


「そして、君が何故呼ばれたのか。ぶっちゃけ、異世界から人間を呼ぶだけなら、無差別で良いわけだ」

「それはそうだけど……」


「何事も、結果に対する原因がある。君が選ばれたのは簡単だ、彼と『縁がある』からだ」

「……その、"縁" ってなんだよ。オレとサディエルは異世界の人間同士だから、これまでの人生で1ミリも接点が無いんだけど」


 これが本当に良く分からない。

 サディエルがキーとなって、オレが召喚された。それは100歩譲って理解出来る。

 だけど、オレが選ばれた理由が、サディエルと『縁がある』から、だなんて。


「それは再会しないと俺にも分からない。俺が彼と出会ったのは、ヒロト兄ちゃんを召喚する前の話だからね。だけど、そのせいでヒロト兄ちゃんよりも希少性が彼に生まれた」


 サディエルに希少性が……

 オレは無言で話しを続けるように促す。


「魔族たちは俺が元異世界人だと知っている。当然ながら俺と同じように、この世界にやって来たヒロト兄ちゃんの事を、当初こそは警戒していた」

「だけど、オレに魔王様のような能力が無いと分かった」


「あぁ。本来であれば、話はそれでおしまいになるはずだった……っと、説明は一旦ここまでかな」


 右手を挙げて、彼はオレに静止を促す。

 目の前にあるいかついドア、恐らくこの先にサディエルが居るんだろうけど……


「なんで一気に飛んでいかなかったんだ。魔王様なら魔力でパパっといけるんじゃ……」

「魔力容量が多いのと、疲れるのは別問題だからな。あんまり多用はしたくないんだよ」


 魔王様からそんな言葉が出てくる方が、オレは想定外です。

 疲れるって、疲れるから多用したくないって。


「あとは、言質取りが必要だからな」

「言質取り?」


「建前と大義名分は必要ってことだ。人間の社会だってそうだろ」


 そう言うと、魔王様は姿を再び幼い少年……カイン君のものに変える。


「単純に断罪するのは簡単だ。だがな、何事にも "それならば仕方ない" という理由を付けないといけない。どれだけ正義であり、正論であり、有意義であっても、それを怠ると後々に手痛いしっぺ返しが来るもんだ。と言うわけで、ヒロト兄ちゃん」


 にっこりと魔王様は子供らしく笑う。


「今から俺が無邪気にドアを開けて、部屋の中に入る。そのまま、ヒロト兄ちゃんが俺を追いかける。で、後は好きに叫んでいいよ」

「好きにって……」

「大丈夫、大丈夫。あとは俺が何とかするから」


 それじゃ、いっくよー! と本当に子供らしい動きでドアに行こうとする。

 ちょ、心の準備とかの時間は!?

 オレは慌てて声を掛けるよりも先に、魔王様は笑顔でドアを開けてしまった。


「うわぁ、ここどこだろー!?」


 正体知っていると、本気で白々しいその姿に頭が痛くなる。


「ねぇねぇ、ヒロト兄ちゃん! 凄い広いよー!」


 ……あー、はい、行きます、行きますとも。

 オレは深呼吸して、その部屋に足を踏み入れる。


 そこは応接間のような場所だった。


 クレインさんの屋敷のモノよりは明らかにグレードダウンしているけど、調度品が飾られており、ベッドなどの備品も揃っている。


「危ないよ、急に部屋に入って……」


 大根役者上等で、オレはそれだけ言う。 

 ふと、視界の隅に何かを見つけた。


「……っ! サディエル!」


 少し先のソファの上、そこにサディエルが倒れていた。

 今の声で反応がないってことは、気絶させられているってことか!


「サディエル、今……いてっ!?……え? 何だこれ」


 サディエルの所に行こうとすると、何かに阻まれた。

 軽く手の甲で叩くと、僅かに水面に水滴が落ちた時のような、波打った感覚がある。


 目に見えないけど、これ……結界!?


 オレは剣を抜き放ち、結界に向けて振り下ろしてみるが……変化なし、か。

 魔力が込められた剣とかなら、何とかなったかもしれないけど、ただのロングソードじゃ無理だよな。


「くっそー……サディエル! 起きてよサディエル!」


 結界を叩きながら、オレは必死に声を掛ける。


「無駄よ、この子はもう目覚めない。食われるその瞬間までね」


 そこに、聞き覚えの無い声が響く。

 慌てて周囲を確認すると、サディエルの近くにローブの人物が現れた。


「誰かと思ったら、異世界人じゃない。どうしてここが分かったの?」


 オレを異世界人だって認識しているってことは、さっきの話からすると、こいつがあの時の襲撃の主犯ってことか。


「……ヒロト兄ちゃん、あの人誰、怖い」

「カイン君、オレの近くに」


 あー……このやり取りの白々しさよ。

 カイン君はオレに隠れて顔をうずめているけど、一瞬だけ『よし、掛かった』みたいなアクドイ顔をしていた。


 オレの知っている、無邪気なカイン君を返して欲しい。


 と言うか、目の前の暫定魔族……カイン君というか魔王様を見て何も反応がない?

 普通の展開ならば、この子が魔王様だって分かるはずなのに。


「サディエルを攫ったのはお前か!」

「えぇ、そうよ。あいつが2度もミスをするから、これ以上失敗しないように、代わりに連れてきたの」


 ガランドのことか。

 ここに出てこないってことは、あいつはまだ回復の真っ最中と見ていいな。


 となると、後はどうやって目の前の魔族からサディエルを奪い返すかだな。


 ……オレ1人じゃ、どうしようもない無茶無謀の難題には違いない。

 だけど……信じてみるしかないか。

 ここまで聞いた内容からして、少なくとも今回は味方であるはずの、魔王様を。


「だけど、ここがバレた以上は仕方ないわね。やっぱり……私がこの子の "顔" を頂きましょう」

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