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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
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63話 信じるということ

「……まだ反抗するか。往生際が悪いやつだな」


 そう言いながら、ガランドは最後の1本を抜き放つ。

 語りかけているのはオレたちじゃない。恐らくは、サディエルに対してだ。


「さっきまで自分が死ねば、みたいに抵抗を辞めていた癖にな。そうかい、そうかい、だったらお望み通りお前の精神を徹底的に壊す」


 ガランドは剣をこちらに向けてくる。

 先ほどよりも鋭い眼光で、思わず後ずさってしまう。

 こっちも抹殺対象ってわけか。


 だけど、声を掛け続ければ、あいつに体の主導権を取られているサディエルにも何かしら反応があることが分かった。

 となれば、声を掛け続けるのはオレがやればいい。


(後考えるべきは、どうやってサディエルからガランドを引き離すか……)


 これが現状の問題点だ。

 追い出す方法でパッと思いつくのは3つ。


 1つ目は、サディエルが主導権争いに勝利すること。

 2つ目は、死なない程度にサディエルの体を動かせなくすること。

 3つ目は、何かしらの術や道具を使って、ガランドを引っぺがす。


 事実上、3つ目は論外だな。残り2つで考えよう。


 2つ目は、正直賭けに近い。

 下手なことをしたら、そのままサディエルが死ぬ可能性すらある。

 それこそ本末転倒、サディエルが生きていることが、こちらの勝利条件に対する必須項目、つまりは負け筋として潰さないといけない部分だ。

 リレルなら……リレルなら致命傷を避けつつ、サディエルの体を動かせないように攻撃出来る、かもしれない。


 そこまで考えて、オレはブンブンと頭を振る。


 ダメだ、多分それをやったらサディエルどころか、リレルも引きずってしまう可能性が高い。

 ましてやリレルは医者としての誇りも持っている。

 応急処置を教えて貰った時、凄く真剣に、それでいて必死にオレに伝えてくれていた。

 人を助ける為に、時にちょっと外れた方法だけども、必要だからと勉強を続けるような人だ、その逆をやらせるわけにはいかない。


 そうなると、残る手段はやっぱり1つ目、主導権争いに勝ってもらうことだ。


 じゃあ、どうやってそれをアシストする?

 一瞬だけならば、主導権を奪い返す算段はあるけど、それだけじゃ足りない。


 落ち着け、考えろ。

 1つ目……いや違う、1つだけで考えちゃダメだ。ガランドだって複数の効果を合わせて今回襲撃して来たんだ。

 となれば、こっちも同じことをし返してやればいい。


(……やるなら、1つ目と2つ目を合わせて……サディエルの性格を考慮して、それから……)


 ―――思いついた作戦は、自分でも嫌になるぐらいの内容だった。


 サディエルの性格と、こういう展開のテンプレの1つ。

 正直、やって欲しくないけど……多分、サディエルの性格なら躊躇しない。


「アルム! リレル! 作戦を思いついた、このまま剣を奪うように動いてくれ。タイミングを見て、さっき言っていた1回を使う!」

「分かった!」

「了解です!」


 ガランドは先ほどまでとは違い、確実にこちらを殺す動きにシフトしている。

 さっきまでは致命傷を負えるような、隙が多い動きだった。

 だからこそ、アルムとリレルも調子を狂わされ、ぎこちない動きになっていたものの、少しづつ調子を取り戻している。


 チャンスは1回だけか。全く、成功保障がないのは本当に嫌になる。


 だけど、信じろ。

 オレに出来ることは信じることだけだ。


 信じなければ始まらない、信じなければ進めない。

 覚悟を決め、オレは再びサディエルに呼びかける。


「サディエル! もうちょっとだけ耐えてくれ! チャンスはこっちで作る!」

「……ちっ、さっきからうるさいなお前!」


 ガランドがオレに向かってきた。

 オレは一瞬だけ構えるフリをして……剣を降ろす。


 しっかりとガランド……いいや、サディエルの目を見る。


「今だ、サディエル!」


 ガランドが剣をオレに向かって振り下ろす。

 その剣先がオレの頭に当たる本当に直前で、ピタリッ、と止まった。


 オレは緊張で無意識のうちに止めていた息を吐く。


「……無茶……すんなよ……ヒロト。お前のところの……夢見すぎファンタジーのように……いくわけねーんだぞ」

「うん。だけど、この瞬間を信じてた」


 なっさけない表情が見えた。

 先ほどまでのひどい顔したガランドじゃなく、いつものサディエルだ。


 だけど、主導権を取り返せるのは数十秒だ。


 オレは剣の柄を逆さに持ち直して、ゆっくりと振り上げる。


「右足、狙うからね。我慢してよ」

「なら……俺は左足。内また寄りで頼む、そこなら筋肉が少なめだ」


 同じように、サディエルも剣の柄を逆さに持った。


「「せーの!!」」


 鈍い音、そして血の香が濃く漂う。

 2本の剣がサディエルの太ももを貫通した。

 痛みからか、僅かなうめき声と共に、サディエルは苦し気な表情を浮かべる。


「……ごめん、これしか思いつかなかった」


 サディエルが主導権を完全に取り返すのは、どう考えてもやっぱり難しかった。

 だけど、確実に取り返せるこの瞬間に手を打たなければ、こっちはもうどうしようもない。


 だから考えて、サディエルの性格を逆手に取った。


 味方が傷つくぐらいなら、自分が犠牲になる。

 そういう性格を……オレは利用した。

 これで動きを止めることは出来る……出来るけど……!


「ほんと……ごめん……!!」


 思いつけなかった。

 もっと、他にあったかもしれないのに。それが悔しい。

 すると、頭に暖かいなにかが乗せられる。


 サディエルの手……いつものように、くしゃくしゃと乱暴に撫でてくれる。


「気にすんな……離れていろ、もう持たない……」


 オレはゆっくりとサディエルから離れる。


「俺の体を好き勝手しやがって……"水よ……風よ……巡りて凍れ"!」


 離れたのを確認して、サディエルは氷の魔術を放ち、自身の下半身と両腕を凍らせる。

 これで、事実上サディエルの……いや、ガランドの動きを封じた。


 再び、サディエルの表情が見覚えのないものに変わる。


「くっそ! やってくれたな……動かせねぇ……!」


 仮に氷から脱出出来たとしても、両足を剣で貫いてある。

 簡単に動けるもんじゃない。

 その間に、オレはアルムたちの所に戻る。


「ヒロト、お前……!」

「怪我とかは!?」

「サディエルが寸でのところで止めてくれたから平気。時間は!?」

「もうそろそろなんだが……」


 アルムは周囲を確認するが、救援部隊と思われる人影はない。

 その間にも、ガランドは必死に氷から脱出しようと動く。


「無駄だよ、サディエルは自分のことを"過大も過小も評価しない"! 自身の身体能力をちゃんと理解しているから、抜け出せないぐらい強固な氷を形成していて当然だ!」


 そう、通常ならば絶対に抜け出せるはずがない。

 他の手段を取る以外にない。

 

 それが……ダメ押しになってくれ!


「はっ! それならば燃やして……うぐっ!? 何だ、これ……」


 ガランドの顔色が一気に悪くなる。

 やっぱり、考えが当たっていた。


 以前、リレルから教わったこの世界の魔術の知識。


 古代に使われていた魔術は、人間が使うには消費量が大きすぎるものだ。

 だけど、人間以上の魔力容量を持つ魔族は別だ。

 やつらならば、複製・増殖させながら放つ古代の魔術を使用することが可能であり、わざわざ手間のかかる『人間が使う魔術』を行使するはずがない。


「知識不足が仇になったみたいだな。魔族が使う魔術と、人間の使う魔術は、すでに大きく異なっている」

「サディエルの体で、古代の魔術を使おうとすれば、そうなるに決まっている!」


 消費される魔力量が多すぎる為、体の方が驚いて気絶する。

 もちろんこれはサディエル自身にも負荷がかかっているはずだ。

 だけど、オレの予想通りなら精神側で、何かしらの対策はしてくれている、と信じるしかない!


「……この……ふざけるなよ……人間……! 人をあざ笑いやがって……! お前はボクに"顔"を渡せば……」


「全員、構え!!」


 そこに、聞き覚えの無い声が響き渡る。

 声と同時に、オレらの周囲から兵士ような恰好の人たちが一斉に草陰から飛び出してきた。


「よく耐えた! 今から魔族を引きはがす、放て!」


 声のした方向を見ると、魔術師のような風貌で大きな杖を持った初老の男性が立っていた。

 もしかして、エルフェル・ブルグの!?

 周囲の兵士たちが何かの魔術を放つ。すると、ガランドを中心に地面に六芒星が浮かび上がる。


「ぐああああああ!? この……エルフェル・ブルグの奴らめ……!」


 六芒星の光を浴びてか、ガランドは苦しそうな悲鳴を上げた。

 一方で、アルムとリレルは驚きの表情を浮かべて、現れた人物を凝視する。


「……バークライス将軍!?」

「何故、こちらに」


「久しいな、アルム、リレル。挨拶は後回しだ、あやつを解放してやらねばならん」


 スッ、とバークライスと呼ばれた人物は、杖をガランドに向ける。


「サディエル、これは先日開発されたばかりだ。悪いが耐えろよ。"払い除けよ!"」


 杖の先に光が集まり、それがガランドに向けて放たれた。

 見た目だけなら、本当に光の弾が当たっただけ、ダメージが無いように見える。

 光が納まると一瞬だけサディエルの体がぐらつくも、すぐに視線をこちらに向けて……


「お久しぶり……です……すいません……あと、頼みます」


 それだけ言うと、今度こそサディエルは気絶した。

 だけど、その後動き出す気配が無いと言う事は……ガランドを引きはがせた?


「ふむ、上手くいって良かった。すぐに彼の氷を溶かしてやりなさい、そのまま病院へ搬送を……お前たち、彼の所に行ってあげなさい」


「すいません、挨拶は後程……サディエル!」

「申し訳ありません、バークライス将軍」


 オレもバークライスさんに一礼して、そのまま2人を追いかける。

 兵士たちによって、サディエルの氷は溶かされ、足に刺さった剣もゆっくりと抜かれる。

 リレルはサディエルの首筋に指を置いて、脈を確認すると、安堵のため息を吐く。


「大丈夫です、生きてます……良かった……!」

「あぁ……ヒロトもありがとう、お疲れさん」

「うん、アルムも、リレルもお疲れ様!」

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