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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
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61話 静けさ、そして…

 異世界に来て3か月と少し。

 旅立ってから、そろそろ3か月が過ぎようとしている。


 3か月、それは目的地であるエルフェル・ブルグが間近である、と言う意味でもあった。


 エルフェル・ブルグに近づくにつれ、オレたちの間にも日々緊張が増していく。

 何気ない移動ですら、草木の揺れた時の僅かな音、魚が跳ねた時の音、小さな虫が近くを通った音、とにかく色々なものに警戒してしまった。


「こんな緊張感を2か月間ずっと……って思ったら、確かにきつかったかもな。アルムが言っていた通り、精神的に持たなかった自信あるよ」


 エルフェル・ブルグまであと2時間程の距離まで迫った日の朝。

 朝食を終えて、出発準備を進めている時に、オレは呟くようにそう言った。

 それを聞いたアルムは、肩を落としながら同意する。


「あぁ。そういう意味では、この前の街を出るまで気を抜けたのは、大きい利点だ」

「だよな。このまま何事もなく、到着したいんだけど」


「無理でしょうね。ここまでが静かすぎます」


 オレたちの会話に混ざってきたリレルが、いつもの笑顔を消して真剣な表情を浮かべている。

 本当に、皆ピリピリしている……仕方ない事だけど。


 ちらりと、少し先でクレインさんと最終打ち合わせをしているサディエルを見る。


 彼はいつも通り、と言った雰囲気だ。

 ピリピリとしているオレたちとは真逆で、本当にいつも通り。

 こうなると、逆に凄いよな。一番、不安なのは彼のはずなのに。


「ヒロト、あんまり気にすんな」

「アルム?」


「あいつはあいつなりに、僕らを気にしての行動なんだろう。そういう姿を見る都度、リーダーとか、多少なりとも上の立場の人間は窮屈だっていつも思うよ。虚勢を張るのも仕事のうちだって、師匠も言っていた」


 リーダーとか、上の立場……か。

 オレにとっては、まだ縁遠い言葉だな。

 部活とか、委員会でそういう立場を経験していたら、また別なのかもしれないけど。


「騒いだところで仕方ありません。とりあえず、今日1日……頑張りましょう」

「そうだな」

「わかった」


 オレは自分の荷物袋にある、信号弾と閃光弾を確認する。

 大丈夫、いざとなったらすぐに使える場所にある。


 一度、大きく深呼吸して、両手で自分の頬をパシン! と叩く。


 よしっ! 気合入った!


「どうしたヒロト。急に頬叩いて」


 そこに、話し合いを終えたサディエルが合流してくる。

 オレは苦笑いしつつ、彼の問いかけに答える。


「ちょっと自分に喝をね。サディエル、話は終わったの?」

「あぁ。と言っても、後はこの道を真っ直ぐ進むだけだからな。少しスピードを上げて、早いうちにエルフェル・ブルグへ入ってしまおうか、ってクレインさんと話していた」


 一気に抜けてしまおうってわけか。


「荷馬車を飛ばすとして、時間的にはどれぐらいだ?」

「1時間以内を想定している。本音は昨日のうちに駆け抜けたかったんだが……突っ切るには遅い時間だったしな」


 あと1時間か。


 うん、それなら何とか気張れそうだ。

 贅沢は言わない、エルフェル・ブルグがもう目の前ってぐらいまで行くことが出来れば、オレたちも少しは楽になるはずだ。

 それならば、さっさと出発するに限る。


「よし! 行こう、早く行こう!」

「分かった。アルムとリレルも、準備は大丈夫だよな?」


 サディエルの問いかけに、2人は頷く。

 それを確認し、サディエルはクレインさんに声をかける。


「クレインさん! こちらの出発準備完了です、行きましょう!」

「分かった。みんな、荷馬車に乗ってくれ」


 オレたちは手荷物を持ち、順番に荷馬車へと乗り込む。

 まずリレルが乗り込み、次にアルムが。


 そして、オレが乗り込もうとした時……何気なく、クレインさんがある言葉を口にした、してしまった。


「そういえば、例の魔族……今日まで襲ってこなかったの。はっはっは、取り越し苦労になりそうで助かるわい」


 ―――ビシッ。


 その言葉を聞いて、オレたちは一斉に固まる。


 しまった……すっかり失念していた。

 オレたちは意図的に、ワンチャン襲撃が無い事を祈りつつ、"そのセリフ"を言わないようにしていた。

 だけど、1人だけ……それがフラグだと知らない人がいるのを忘れていた。

 あーもー、本当にテンプレ基準で話せないもどかしさが辛い。

 いや、今のセリフがフラグになる理由を説明する方が、数百倍めんどくさいわけだけど、やっぱもどかしい!


 オレは思わず頭を抱えてしまう。


 同じく『フラグだ』と知っていたアルムとリレルの顔色も悪くなった。

 って、それどころじゃない! こうなった以上、さっさと出発しないと……!


 慌ててまだ外にいるサディエルに視線を向け、声を掛ける。


「サディエル、早く乗って出発しよう!………サディエル?」


 荷馬車から3~4歩ほど離れた場所で、サディエルは俯いたまま止まっている。

 オレの声が聞こえない、と言うことはありえない距離なのに、反応がない……?


「おい、サディエル」

「どうしました?」


 異変を感じてか、アルムとリレルも顔を出す。

 だけど、彼から返答がない。


 オレは荷馬車から一度降りて、サディエルの所へ向かう。


「サディエル?」

「………」

「なぁ、サディエル。どうしたんだよ!」


「………げ……、……ト……」


「え?」


 視界の隅で、何かが光った。

 そう思った次の瞬間、オレは大きく後ろに引っ張られて、サディエルから引き離される。


 直後、銀色の光がオレの目の前を通り過ぎ、僅かに逃げ遅れた自分の前髪が、パラリと切れたのが見えた。


「リレル、信号弾! クレインさんすいません、戦闘になります! 奴の襲撃です、先にエルフェル・ブルグへ!」


 オレを引っ張ったのは、アルムだった。


 先ほど見えた銀色の何かは……サディエルが持っている剣。

 同じように、荷馬車から飛び出してきたリレルは、すぐさま上空へ信号弾を放つ。

 破裂音と共に、3つの異なる色の煙が空に映し出された。


「急いでください! 途中で救援部隊の方々とお会いになりましたら、この近辺だと伝えてください!」

「わ、わかった! みんな、気を付けるんじゃぞ!」


 荷馬車が遠のく音がする。

 だけど、オレは目の前の光景から目が離せないでいた。


 ゆっくりと、サディエルが顔を上げる。


 そこにある表情は、オレの知らないモノだった。

 だるそうに、それでいて心底残念そうで、見下すようなその表情……知らない、オレはそんな表情を知らない。


「何だ……残念。1匹仕留め損ねた。この前からうざいよな、お前らは」


 知っている声なのに、何かが違う。

 誰だ、目の前にいるのは、サディエルの見た目をしているのは……誰なんだ?


「サディエル……何で?」

「ヒロト、落ち着け。襲撃だ」


 襲撃……?

 え、これが……襲撃?


「しっかりしろ! お前が想定していたやつだろう!」


 オレが……え、けど、もう弱体化の効果が出ているわけで。

 そうだよ、弱体化の効果が出ているんだ、なのに……なのに、何で!

 ぎりっ、と奥歯を噛み締める。


 目の前の人物を睨みつけ、力いっぱい叫んだ。


「……っ、サディエルを返せ! ガランド!!」


 何で、サディエルを操る効果まで出ているんだよ!


「ガランド……? あぁ、もしかして、ボクの事を言ってるのかい? 人間は名前をつけるのが本当に好きなんだな」


 2か月前、あの古代遺跡で出会った時は片言に近かった。

 だけど、紡がれる言葉は流暢なもので……以前と明らかに違うとわかる。


「嫌に決まっているだろう? コイツの"顔"はボクが貰う。こんな()()()()をみすみす見逃すわけがないだろ」


 珍しい……?

 その言葉に、オレは眉を顰める。

 言葉の意味は分からないけど、1つだけハッキリしたことがある。


 やっぱり、あの古代遺跡でサディエルが狙われたのは偶然じゃなかった。


「珍しい、とはどういうことでしょう?」


 槍を構えながら、リレルはそう問いかける。

 その表情は今にも相手を殺しかねないものだった。


「教えるとでも?」

「素直に吐かせるなら2か月前にやるべきだったな……うちのリーダーを返してもらうぞ!」


 アルムの言葉を聞いて、オレは剣を抜き放つ。

 それを見て、ガランドは可笑しそうにケタケタと笑う。


「あっはははは! 何、こいつの体だとわかって攻撃しようとしてくるわけ? 面白い。仲間を傷つけるのを嫌っているコイツを壊そうと思ったが、気が変わった。仲間に"殺されてやる"のもまた一興だな」

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