表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/132

6話 戻る方法エトセトラ【後編】

 サディエルは真剣な表情で言葉を続ける。

 一方で、アルムとリレルはそれぞれ周囲を警戒しながら、静かに事の成り行きを見守っていた。


「街に残る場合、旅よりは安全だ。もちろん、街で何か仕事して生活資金は稼いでもらう事と、避難所へ逃げることができる程度の体力はつけてもらう必要がある」

「なるほど、生活資金と逃げことができる体力……なんで!?」


 何かおかしい単語があったんですけど!?

 生活資金、これは問題ない。うん、問題ない。

 その次! 避難所へ逃げる!? え、自然災害でも多い地域なのここ!?


「ヒロト君の世界には、魔物がいないからピンとこないんだろうけど」


 サディエルの一言で、納得がいった。

 なるほど、魔物が理由なのか。


「どんな国や街、村でも、魔物に襲われた場合を想定して避難所があるんだ。定期的にそこへ避難する訓練が行われている。一定時間内に避難出来なかったら、入り口を閉められて見捨てられてしまうんだ。中にいる人たちの命が最優先だから、例外はない」


「どっちに転んでも体力はつけろ、ってことですね」

「義務ではないが、死にたくなければ必須だ。嫌ならやらなくていいと思う。街に魔物が来る可能性はゼロではないが、高くもない。魔物に街を襲撃されたら、生存が絶望的なだけだ」


 だけって……だけって……そうかもしれないけど、だけって……

 けど、それが嫌なら体力をつけろってことか。

 生きるために必要だからやらないといけない。


「もちろん救助はあるからそれを待つのも手だ。だけど、それにも優先順位がある。足腰の悪いご老人とか」


 つまり、オレみたいな若いやつは体力あるはずだから、自力で何とでもしろってことになるのか。

 確かに、お年寄りとかの方が優先になるよね、どうしても。


「他となると、体力ある住人が積極的に助けて回るけど……それでも、それは自分の家族や親兄弟、親しい友人、子供やお年寄り、知人、という順番を経てやっと第三者に救いの手が差し伸べられる」


 それは当然だよな。

 他の人が他人に手を差し伸べられる時っていうのは、つまり他に最優先で助ける人が居ない場合に限定されるんだ。

 近くに伴侶や子供がいたら、当然そっちを優先するのが人間なわけだし。


 オレだって、実際にその場にいたらそうするだろう。

 仮に、第三者を助けに行けるとしたら、最優先で助けたい人物が問題なく動けたり、逃げられる場合に限る。


「じゃあここからは、2つの利点と欠点の話をしよう」


 ……そうだった、ここまではマジで生活するに当たっての必要事項しか話していない。

 今の話を踏まえた上で、どっちを取るべきなのか、それをオレは決めないといけないんだ。


「まず『旅に出る場合』。利点は最短で元の世界へ戻れる可能性があること、欠点は街にいるよりも危険が多いこと」

「最短で元の世界へ?」

「旅の途中、それこそエルフェル・ブルグに辿り着く前に戻る方法が見つかる可能性があるからな。あの魔法陣が実は各地に点在していて、そこからでも戻れるとか」


 もちろん、逆もありえるだろう。


 エルフェル・ブルグに辿り着いても、ヒントが何もない可能性。

 だけど、それよりは道中で出会う人々との情報交換や、オレ自身で調べることで何が分かるかもしれない。

『お前、異世界人だね?』みたいに、そういう筋の人に出会う可能性も高いわけだ。


「『街に残る』場合、利点は旅よりも保障される安全性。欠点は……確実に1年以上足止めを食らうことだ」

「皆さんが情報を仕入れても、すぐに連絡出来ないし、仮に何かアイテムが必要だった場合はオレ1人で取りに行けないから、とか?」


「だいたいそんな感じでいい。これらを総括した上で……ヒロト君はどうしたいのかを決めて欲しいんだ」


 オレがどうしたいか……

 どっちにも明確なメリット、デメリットがある。

 それは、今のサディエルの説明で理解はしているつもりだ。


 だけど、いざどっちか、と言われたら……難しい。


「すぐに決めろってのは無理だから、決定は街に着くまでで構わない。順調ならば、明日の夕方には到着するだろうから、それまでに考えておいてくれ」

「わかりました」


 旅はしてみたいし、憧れはする。

 けど、その為には何でもいいから戦える、もしくは、逃げる力が必須だ。


 それを身に付ける方法は……たぶん、この短い間だけの判断になるけど、サディエルの性格なら何かしらの手筈を思いついている感じもするし。

 あくまでもオレの意思を優先してくれようとしているんだと思う。

 街に残るにしても、そりゃ体力は必要だけど、言い換えればそれさえクリアすれば街で働いて待つだけでいい。


 これは、どっちを選んでも『死にたくないならば必要なこと』だ。

 ……体力無くても知識が優れていれば生きていける現代って、平和なんだな。魔物いないからだろうけど。


「さてと、真面目な話はここまで!」


 パンッ! と手を叩いて、サディエルは真剣な表情を崩して、肩の力を抜いてだらっとした体勢を取る。


「ここからはちょっとした疑問なんだけどさ……ヒロト君の世界で、こういった別世界? 異世界? についてさ、確か娯楽文学で知ってるんだよな」

「はい。オレらの世界では、漫画とか小説とかで剣と魔法の世界! って物語がたくさんあります」


 これはオレが『異世界ですか?』って聞いた時に話してしまった事項の1つだ。

 剣と魔法の世界なのか!? みたいな感じでテンパって口走って結局、そういう読み物とかで想像の世界でフィクションであることを伝えてある。


 ほんと、こういう時他の異世界行った系ってうっかり口走ったりしないよなーと以下略。


「じゃあさ、そういう話で異世界に来ちゃったって人物が、元の世界に帰った時……時間経過ってどんなもんなんだ?」


 時間経過?


「えーと、1年後に帰ったら1年経ってましたー! って感じのそれですか」

「それそれ」


 うーん、時間経過か。

 だいたいのこういう異世界に行ってた系って……


「時間が進んでないか、進んでても数日とかが大半かな。ごくごく稀に、時間通り流れていてってのはあるけど、仮にそうでも過去に戻って転移した時間に戻ったりとかそういうので、問題になることはないかな。他には、元の世界で死んでるから、帰ることを考慮しないとか」

「なるほどな。ちなみに、時間進んでないのって、その異世界に行ってた子が神様なわけ?」


 神様……?

 いや、そんな展開はないない。

 異世界行ったそいつが神様なんてないない。


「何でそう思ったんですか!?」

「え、だってさ、異世界に行ってた奴が元の世界から消えたから、時間が止まったんだろ? 1人の人間の為だけに時間止まるってないだろ」


「そうかもだけど、そうしないとほら、何年も旅してて帰ってきたら困るから!…………あれ?」


 そこまで自分で言って、疑問が通り過ぎた。

 今の話から考えて、今……今まさに、異世界にいるオレは……?


 うん、オレは神様じゃないな。異世界に来る前に神様にも会ってないな。


 死んでもいないし……となると、つまり……


「もしかして、サディエルさんが言いたいことって……」

「さん付けは外しても……それは今はいいか。うん、時間が止まるなんて普通出来ないし、魔族ですら無理だ。だから……あまり長い間、この世界にいたら困るのは、きっとヒロト君じゃないかなーと」


 命の危険以外にも気づきたくなかった!

 そうだよ、都合よく元の世界の時間が止まってたり、時間の経過が緩やかである保証ゼロだじゃん。


 むしろ、こっちで1日過ごしたら、あっちも1日経つって普通のことだし!


「ああああ、大学入試共通テストが半年後ー! 半年までにオレ元の世界に帰らないと大学受験間に合わないー! それ以前に勉強! 半年勉強出来ないで前日に戻ってもムリゲー! 1か月前に帰ってぎりぎり? 片道が半年の時点で詰んでる!」


 むしろ片道の半年でワンチャン共通テストに間に合うぐらいか!?

 いや、それは本命の一般試験だけの話で、私立とかのすべり止め受験はもっと前だよな。


 そう考えると旅に同行して、早く戻れる可能性に賭ける一択にしか考えられなくなるんですけど。

 いや、命には代えられないから街に残って覚えてる範囲を紙に書きまくって復習するという選択肢も一応あるにはあるけど、自分自身との記憶力勝負になる……けど、旅をするよりは忘れないのは確定だから、街に残るのも有り寄りのアリでは!?


「ど、どど、どうしよう!? どうすればいい!?」

「いやぁ……こればっかりは君の世界の秩序やルールを知らない俺には、無責任なアドバイス出来ない。すまん」


 ですよね!?

 無責任なアドバイスって分かっている分、サディエル優しいよね!?


 つーか、何で異世界に来てまで勉強の心配しないといけないんだよ。

 むしろ、漫画とかの主人公たち、ガン無視出来ていいね、羨ましい!

 オレもそっちの立場になりたかったよ!


「理不尽だ……世の中本当に……理不尽だ……」


 両手を地面につけてオレは項垂れる。

 こんな心配一切不要な死んでから異世界行く方がよっぽど気が楽……ごめん、死にたくないのでいいです。


 死ぬの怖いし、生きたいです。あとまだ彼女のいないので彼女ぐらい作りたいです。

 大学行ったら大学デビューとはいわんけど、楽しく過ごすって目的もあるんで嫌です。


「とりあえず俺の疑問はほぼ解決したし」

「オレの精神ダメージがすさまじいんですけど」


 SAN値があったらたぶんかなり減ってるぞ、確信出来る。


「ヒロト君」

「はい、なんでしょう……」

「とりあえず、今はどうしようもないから寝ようか」

「そうします……」


 そうだ、これは夢だ。きっと夢だ。


 オレは今きっと自宅のベッドで寝ているんだ。異世界に行くとかそんな展開、ありえないありえない。

 寝て起きればいつもの朝を迎えて、さぁ受験勉強の日々に戻るんだ。


「おやすみなさい」

「おやすみー」


 サディエルたちから借りた毛布を自分の体に巻き付けて、壁にもたれかけて目をつむった。


 

 そして……



「おはよう」

「おはようさん」

「はい、おはようございますです」


「………おはよう……ございます」


 朝起きたら、世界は変わっていませんでした。シッテタ。

 現実は……無常だ……


 起きたら元の世界に戻ってる可能性ワンチャンが……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ