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5話 戻る方法エトセトラ【前編】

 ガーネットウールの解体後、必要な肉と毛、角だけを持って、あとは他の魔物たちの餌へ。

 野営地に戻ってきたオレたちは、焚火を準備して、串刺しにしたガーネットウールの肉を焼いていった。

 焼き終わったものから順番に塩を振りかけ、サディエルはオレにソレを渡してくれる。


 見た目も匂いも、完全に羊肉。

 恐る恐る、オレはその肉にかぶりつき、ゆっくりと咀嚼し……


「ひ、羊肉だ。まじで羊の味だ、嘘だろ……」

「魔物だけどまぁ、羊の一種だしな」


 同じように羊肉にかぶりつきながら、サディエルはそう答える。


「今日は狙わなかったけど、味だけならゴブリンとかも大差ないぞ」

「サディエルさん、魔物食べるって時点で引きますよ、普通」

「そうか? ヒロト君の世界にも、魔物っぽいってことで嫌悪される食べ物あるんじゃないのか?」


 え? そんなものないだろ、普通。

 そんなグロテスクな食べ物、食糧難な場所でそれぐらいしか食べるものがないってことで足るような場所以外じゃ……


『ジャパニーズは、なぜオクトパスを食すのデスカ! あんな海の魔物を食べるなんて気が知れまセーン!』

『大豆を発酵どころか腐らせて、食べる? 匂いもきっついし冗談だろ』

『フグの卵巣って猛毒中の猛毒だよな。はい? 塩漬けと糠漬けを数年単位でやったら毒が解毒される。しかも科学的にはまだ証明されてないけど、食って死なないから問題なし?』

『卵を生で食べるとか、サルモネラ菌の恐怖知らないとか』


 …………思い返しただけで、心当たりあるものが多すぎた。


 オレが沈黙したのを見て、サディエルは生暖かい目を向けてくる。

 そんな目で見るのはやめて欲しい。

 確かにそいやタコとかタコとかオクトパスとか、日本以外じゃゲテモノ扱いだったけどさ。


「さてと、お腹も満たしたことだし、明日以降について考えよう。考えることは3つ。1つ目はヒロト君の帰る方法、2つ目はヒロト君の今後の身の振り、3つ目は次の目的地だ」


 肉を串刺しにしていた枝を折りながら、サディエルはそう言った。

 それを聞いたアルムとリレルは、静かに事の成り行きを見守る体勢になる。


 どうやら、説明をサディエルに任せるようだ。


「まず1点目の、ヒロト君が帰る方法だ。前提としてヒロト君、元の世界に帰還したいって気持ちはあるかい?」

「え? んー……」


 異世界に来た! ってことだから、そりゃ旅行気分だし、いい機会だから見て回りたい気持ちもある。


 けど、オレも一応受験生だし。

 正直な話、オレ自身は他の異世界系の小説とか漫画みたいに人生不満を……の、域に達していない。

 普通に学校に行って、友達と喋って勉強して、部活もそこそこ頑張ってる。


 家族は間違いなく心配している。

 そう自然と思える程度に、普通の家庭だ。


「戻りたい気持ちは、当然あります。大学受験も近いから、勉強が遅れたら困るし」


 友達だって普通にいるし、心配してくれると思う。

 特に幼馴染で親友のあいつなんかは、戻った時にめっちゃ怒鳴りそうだし。


「なので、帰りたいです。ただ……せっかく異世界に来たから、色々見て回るのはいいかなーってぐらい思ってます」


 帰ることを前提、ということがある。

 しかもまだ戻る方法は不明だから、嫌でも見て回ることになるとは思うけど。

 そんなオレの回答を聞いて、サディエルはうん、と頷く。


「じゃあ2つ目、ヒロト君の身の振り方。これが一番大事だ」

「はい」


 真剣な表情に、オレも緊張する。


「まず前提として『帰り方は現時点で不明』であること、『可能性があるのはこの洞窟遺跡にあった魔法陣』の2点だ」


 そう、現在わかっているのはその2つ。

 サディエルたちの証言を照らし合わせて、オレを召喚した魔法陣は『長年、あの魔法陣がある部屋に多くの冒険者たちが訪れて、微量レベルの魔力を蓄積していった』結果、彼らが訪れた際に条件を満たした、が無難だ。


「そして、この世界で分からないことがあったら、とりあえずココを訪れろ、って言われる国がある」

「その国はどこですか? サディエルさん」

「名を『聖王都 エルフェル・ブルグ』。ここから歩いて半年ほどの場所にある、対魔族及び魔物への対抗手段を研究する最前線の城塞都市だ」


 サディエルの説明に、すごい異世界っぽい雰囲気が増す。

 魔族とかへの対抗手段の研究。

 そっか、魔族や魔物がパワーアップしたら、それに対抗するにはって、説明してくれたもんな。


「エルフェル・ブルグでの研究結果は、すぐさまギルドや協会を通して全土へ情報共有される。その研究内容は対魔族・魔物に限らず、人間の身体能力、武器開発、魔術開発の多岐に渡る」

「あっ、サディエルさんが全速力云々の話してた時に『聖王都の研究議会が発表して』って、言ってたのもそれ!?」

「よく覚えてたな。その国に行けば、だいたいの資料があるってのが俺らの認識だ」


 なるほどな。

 大国で、研究が盛んであり、その結果もしっかりと情報共有してくれる。

 何と言うか、すごい国だってことはわかるな。


「ヒロト君を帰す手掛かりを探す為、エルフェル・ブルグに向かう……のはいいんだが。問題は君だ」

「オレ?」

「そう。ヒロト君には選んで貰いたいことがある。俺らの旅についてくるか、これから行く街で吉報を待つか」

「サディエルさん、それは……どういう、意味ですか?」


 サディエルたちの旅についていくのか。

 それとも、次の街で……吉報を待つってことは、街に残って、彼らだけでエルフェル・ブルグを目指し、情報を収集してくるか、ってことだよな。


「今日1日で、君の中にある『旅』と、実際の『旅』に大きな差異があることは気づいていると思う」

「それは、もうすっごく」


 サディエルの言葉にオレは頷く。

 それに関しては本当にそうだと思う。


 特に大きいのが戦闘に対しての考え方だ。

 魔物と極力戦闘をしないこと、その理由の数々。

 食べ物にしたってそうだし、変な所で共有の問題点(持ち物制限)があったりもする。


「俺らと共に行く場合から話そう。まず、半年間を徒歩でエルフェル・ブルグを目指し、上手く帰る方法を見つけたとしても、また半年かけてこの洞窟遺跡に戻る。つまり、どんなに軽く見積もっても1年は旅をすることになる」

「馬車とか、そういうのは」

「実は運賃がかなり高いんだ。平均月収の三ヶ月分で、2つ先の街まで行けるかなって感じだ」


 結婚指輪の定番のような設定金額!?

 というか、何でそんなに高い……って、まさか……


「もしかして、アルムさんが話してくれた『荷馬車の護衛』って話と、関係が?」

「正解。冒険者を雇って護衛して貰う必要があるから、その分、運賃が値上がりするんだ。護衛の仕事は、内容が内容なだけに羽振りがよくて人気の仕事だ。競争率が凄く高い」


 そうなると、歩き一択になっちゃうってわけか。

 こういう時、車とかあればいいのにな。

 荷馬車の護衛を引き受ければとも思ったけど、オレが同行したしたら請け負いづらくなるよな。


 オレが荷馬車側だったら、冒険者パーティに戦えない奴が1人いたら、絶対に不安になるし。


「食べ物にしたってそうだ。今の君には、この世界の常識と、君の元居た世界の常識との差異によって、拒絶反応を示してしまう部分が多い。これからも確実にたくさん出てくる」

「そう……ですね」


 3人の旅についていくってことは、今日は回避したゴブリンやワーウルフ……いざとなれば、もっとグロテスクな魔物を狩って食べる必要すら出てくる。

 その辺りは、もう異世界の旅だと割り切って慣れていくしかないんだろうけど。


「何より大前提として、君には旅をするだけの体力もない」

「そうで……えええええ!?」


 いきなり超現実的な話になった!?

 しかも武器を使える使えないとか、魔術使えないとかそういう部分じゃなくて体力。

 オレが驚いたのを見てか、サディエル……だけじゃない、アルムとリレルすらも首を傾げている。


「武器使えないなら逃げるしかない。だけど、今日言った『10分を3割程度で全力疾走する』ことも出来ないんだよね」

「そりゃすぐにって無理だけど……! ほら、旅している間に体力きっとつくし!」

「魔物や盗賊が、今まさに襲ってくる可能性もあるのに、そんな悠長なことは出来ない」


 ですよね……

 今でさえも、洞窟遺跡側はリレルが、外の方はアルムが敵がこないか警戒しながらの会話なんだ。

 だからこそ、さっきから2人はあまり会話には参加せず、サディエル1人に任せているわけだし。


「旅をする以上、まず自分自身の身を守れることは前提条件だ。それが武器でも、魔術でも、逃げ足でもなんでもいい。とにかく魔物から距離を取れる何かを1つ身につけること」


「俺らが守ってやるぜ! って言わないんですね」

「当たり前だ。冒険者は己の実力を、過大評価も過小評価もしてはいけない。自分に出来ること、出来ないことをハッキリさせて、出来ることはやる、無理な事は任せるか諦める。それが出来ない奴から死んでいくんだ。それが自分自身なら自業自得で諦めもつくけど、仲間や護衛対象であってみろ」


 ふぅ、とサディエルは一度深呼吸する。

 そして、オレをしっかりと見て、はっきりとこう言った。


「俺らは5年間パーティを組んでいるから、並みの護衛だって出来る。だけど、俺はパーティのリーダーとして、アルムの実力も、リレルの実力も、俺自身の実力も過大も過小も評価することは出来ない。ヒロト君、君自身に対してもだ」

「………」


「なので、君が俺たちの旅に同行する場合、最低限の条件として『俺らを全員見殺しにしてでも、逃げ切れる程度の技術』を身に付けてもらいたい」

「逃げ切れる……?」


 オレの問いかけにサディエルは頷く。


「要は、自分の身を守れるように、だな」

「戦闘なら仲間と力を合わせてとかそういうのが普通じゃ……?」

「聞くけど、初戦闘で仲間の動きに注意しながら、しかもその動きで誰かどう攻めるか察して戦える?」


 にっこりと微笑みながら言われてしまう。

 初戦闘で、恐らく目の前の敵の攻撃に集中するのが精いっぱいになるとして、じゃあその周囲にいるサディエルたちの様子を見る余裕?

 そういう展開を、漫画とか小説に置き換えて考え……


 ダメだ、出来るビジョンが見えない。


 ゲームで例えるなら、初心者あるあるの、周りを見れない、ミニマップ確認もダメ、というか目の前の敵倒すことしか考えれてないと同じこと。

 つまり、結論は


「無理です!」

「うん。オレらの戦い方もまだ見せてないから、ヒロト君には難しいってわかってるから安心してくれ。だから、まずはオレらの動きやコンビメーションを横に置いて、自分自身の自衛をメインにして欲しいんだ」


 サディエルたちと旅に出るなら、それぐらいはやっぱり必須なのか。

 となると、武器を扱えるように素振りとか、特訓とか、そういうことをしないといけないわけか……オレ、運動部じゃないから体力は低めだし、大変だよなこれ。


「次に『街の残る』ことについて説明するぞ」

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