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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
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42話 魔術と詠唱【前編】

「ヒロト、まずは大前提をおさらい致します。何度も口を酸っぱくしてお話して申し訳ありませんが、私たちのそもそもの最終目標は……」


「分かってる。あくまでも最終目標は『オレを無事に元の世界に戻すこと』だろ? こんな状況でも、そのスタンスだけは本当に変えないよな、3人とも。さっきだって、アルムが自衛に関する部分から、って念押しして来たし」


「すたんす……とはよく分かりませんが、当然です。私たちがヒロトに最初にお約束したことですよ」


 クスクスと笑いながら、リレルはそう答える。

 先日の古代遺跡での1件でもそうだけど、本当に彼女らの初志貫徹っぷりには、頭が下がる。

 常に最終目標を念頭に置きつつ、問題が発生したらその都度解決していっているわけだ。


「今回、予定よりも早くヒロトにこのような形を取らせて貰うのは、当然ながら魔族の襲撃に対する対策となります。本来ならば、旅が終わるまでにヒロトが直接相対するのは魔物のみ。盗賊類は私たちで対処を想定していたわけですから……」

「そこは仕方ないよ、その都度で臨機応変が大事なわけだし」


 現状だけで言えば、正直オレたち全員が想定外だった。

 あの日だって、古代遺跡で気楽に観光をするだけのつもりで立ち寄っていたわけだし。

 何事もなければ、その後はどこかで夕飯食べて、景色のいい場所で夜空でも眺めようか、なんて話してもいた。


「それに、オレだってサディエルが心配だ……力になれるなら、それに越したことは無い」


 それが急にあんなことになって、気が付けばサディエルは例の顔の無い魔族に狙われる立場だ。


 人生何が起こるか分からない、とはよく言ったものである。

 そりゃ異世界にいるわけだから、多少の波乱万丈ぐらいはと最初の頃こそ思っていたけど、実際にその立場に立ってみたら『あ、ごめんやっぱキャンセルで』と心の底から言いたくなる。


「もちろん、まずはちゃんと自分の身を守れることから。だよね?」

「……変わりましたね、ヒロト。この前まで、自分の意思すらなかなか伝えてくださらなかったのに。いいえ、違いますね。自分自身がどんな気持ちを持っているのか、それが分からなかった……が、正しいのでしょうか?」


「アルムと衝突したのと、この前の1件で色々吹っ切れた。思ったことを馬鹿正直に話すのも、悪くないって」


 もちろん、言ってはいけない言葉だって存在する。

 思ったことを口に出すことも、全てが最善に繋がるわけじゃない。


 時に率直に、時にオブラートに包みつながら……相手によって、それは違ってくる。


 だけど……


「リレルも、サディエルも、アルムも、オレがまっすぐ言葉を投げたら、しっかり受け止めて、返してくれる。それが分かったからだと思う」

「嬉しいお言葉ですね。では、そのご期待に、私たちは答えていかねばなりません」


「それはオレだってそうだよ。オレに出来ることを、まず教えてくれるんだよね」

「はい」


 そう言いながら、リレルは本を見せてくれる。

 もちろん、読めない本を読めと言う理由ではない。それは分かり切っていることだ。


「私からは2つ、魔術に対する知識と、武器を使った戦闘面での実地訓練となります。ただ、戦闘に関しましては、今しばらく、アルムからの戦術論を主軸に戦いの流れを学んでいただきます」

「となると、今からやるのは……」


「魔術に関して、ということです」


 ぱららっ、とリレルは本を開き、あるページで指を止める。


「先日、少しばかり魔術の歴史をお話致しましたが……覚えていらっしゃいますか?」

「あー……直後が直後だったから、出来れば軽くおさらいお願いします」

「承知しました」


 ―――『魔術』


 それは、様々な物語に出てくる単語の1つであり、その浸透具合はオタクから一般層までと幅広い範囲である。

 作品によっては、魔法とも称されるその言葉は、オレたちがまだ子供の頃から様々な形で知ることとなる。


 凄く身近でありながら、決して手に入れることが出来ず、その存在が『あり得ない』と悟ることで、ある意味では子供が大人に近づく1歩目になっている。


 ほら、小学校あたりで『え? お前まだあんな作品見てるの? ダッサー!』ってやつ、完全にこれである。


 けれど、ふとした瞬間に、無性に羨ましく思う能力だ。

 だからこそ、オレたちの世界では『魔術』もしくは『魔法』が、未だに誰かの心の支えになっていることもある。


「私たちは4大元素魔術と呼ぶ、地、水、火、風の4属性。これらは全て単体で発動する場合は、下位の魔術と称します。例外は、光や治癒などの発動原理が異なる術になります」

「確か、魔力で周囲にあるものを集めて、それを放っているんだよな」

「はい。風の魔術であれば、周囲にある空気にうねりを持たせて、弱風から強風へと調整することが出来ます」


 例えば……と、リレルは近くに落ちていた少し大きめの葉っぱをオレ渡してくる。

 その葉っぱの茎部分を持ち、自分の顔辺りまで上げる。


「そのまま持っていてくださいね。"風よ、吹き荒れろ"」


 リレルがそう唱えると、まるで突風が吹いたように葉っぱは大きく倒れる。


「"風よ、流れるように"」


 風が納まったのか、葉っぱはゆっくりと元の状態に戻った。かと思うと、僅かな風を受けてふわりと揺れる。


「"風よ、切り裂け!"」


 最後に、バラバラに切り刻まれてオレの手から落ちて行った。


「このような形で、魔力を調整することで威力を変化させることが出来ます」

「なるほど……で、ちょっと質問いい?」

「はい、なんでしょうか?」


「今の感じだと、詠唱いらなさそうなんだけど……何で詠唱しているんだ?」


 こう言う場合、やっぱり無詠唱でいきなりドーン! なわけだけど。

 オレの問いかけを聞いて、リレルは首を傾げる。


 うーん、これは久しぶりにアレのパターンな気がしますよ、オレ……


「何故、詠唱が不要だと思われたのですか?」

 

 うん、質問に質問で返された時点でやっぱそうだわ。

 ……さて、少し覚悟を決めよう。


 ここ最近、ちょーっと、ちょーっとオレの知っているファンタジーの常識が通用したからって、すっかり失念していた。


 この世界は、"無駄に現実的である"ということを。


「リレル、先に断っておく! オレの所では、無詠唱は強いの法則があります!」

「……まぁ、そうだったのですか……ちなみにそれを提唱されている方は、常におひとりで戦っておられるのでしょうか?」

「いや、仲間とちゃんと戦ってる。うん」


「そうですか……では、実戦してみましょう!」


 え? 実践?


「答えじゃなくて!?」

「あら、サディエルも申しておりませんでしたか? まずは考える、自分なりに答えをだす。ここ最近は緊急事態だった故に、早急にお答えしておりましたが……一旦落ち着いているわけですし、まずは考えてみましょう」


 うわーい……そういえばそうだったー……

 くっそー、緊急事態なことが多かったから免除されただけか!


 えーと? リレルはさっきなんて言った? 無詠唱してるやつは、おひとり様か? だっけか。


 ダメだ、全然分からない。

 仲間と一緒に戦ってるし、特に何も変な場所はないはず。


「どうですか?」

「ごめん、無詠唱は相手より早く術を発動させ、あわよくば驚かせて隙を突けて便利ってイメージしか湧いてこない……!」


 無理です、お手上げです。

 どこが悪いのかさっぱり分からない!

 オレの回答を聞いて、リレルは眉を下げながら……


「わかりました。ではヒロト、まずナイフを構えて立ってください」

「えーっと、こう?」

「はい、そうです。で、あちらに敵がいると思ってください」


「わかった。よし、構えたよ! それで、これの何が……うわあああああああああ!?」


 オレは全てを言い終わるよりも先に、とんでもない力がオレの背中を押して、思わず前に倒れてしまう。

 いっててて……え? 今、何があった? 背中に何か当たった?


 倒れながらオレは後方を振り返ると、右手を前に突き出したまま笑顔のリレルの姿があった。


「今のが"無詠唱"です。答えが分かりましたか?」

「わっかりません!」


 がばりと起き上がり、オレはリレルに抗議する。

 今のじゃさっぱりわからない!


「そうですか。ではもう1度、今度はそうですね……あっ、サディエル! 丁度良いところに」


 リレルの視線を追うと、そこには薪を集め終わって戻ってきたサディエルが居た。

 彼は薪を抱えながらもオレたちを見て、何事かと言う表情を浮かべる。


「何があったんだ、この状況」

「魔術講座をしております。それで、薪を置いて少しばかりお手伝い頂けないでしょうか」

「いいけど、なんでまた」


「無詠唱について、少々実践をしたいのです」

「……………」


 それを聞いたサディエルは、ゆっくりと、ゆっくりとオレを見て。


「え、なに? お前の所、無詠唱万能説を提唱中とか?」

「便利で強くて高位の術師ほど当たり前のようにやってるイメージです……もういっそ、さっさと『ねーよ』判定して欲しいんだけど」


「何故、不適切なのか。それを理解しないままではいけませんよ。サディエル、お願いいたします」


 サディエルはその場に薪を下し、そのままオレたちの所まで来て……


「……で、俺は何すればいいわけ」


 そう問いかけてきた。

 それを聞いたリレルは嬉しそうにオレを指さして答える。


「では、ヒロトの前に立って、敵役をやってください。回避だけ許可致します」

「わかった。つーわけでっと」


 サディエルはオレの前に立つ。

 形としては、サディエル、オレ、リレルという一直線の並びになる。


「ヒロト、俺にナイフで切りかかって来い。大丈夫、どんな形でも俺は回避するから」

「……この流れ、あの国に着く前にやった気がするんだけど。車は急に止まれないとかっつーて」


「なら俺からの忠告だ。今回は"射線"に入るなよ」


 射線?

 この状態で射線ってどういうことだろう。


 いや、考えても仕方ないか……よしっ、まずはしっかりと習った構えをして、それから一気に近づく!


 オレはサディエルまで間合いを詰めて、彼の左脇腹辺りを狙って突く。


 だけど、それがさすがに見えているらしく、左足を1歩斜め右方向に下げるだけで、さらっと回避されてしまった。

 そのまま、左に薙ぎ払うようにナイフを振るうと、サディエルは下げた左足でトン、と地面を蹴ってナイフの射程ギリギリの場所へ逃げる。

 オレはそのまま刃の向きを変え、左から斜め右へと切り上げると、今度は右足を軸に後方に下がる。


 うっわ、最小限の動きで回避されてる。振りかぶってる分、オレの方が体力先に尽きるやつじゃ……


 ―――そう考えた瞬間、再びドン! と、背中が何かに押され、オレは前方に倒れる。


 草が生い茂ってるおかげで、全体的にはそこまで痛みはないものの、顔面から倒れたせいで鼻の頭が少々痛い。


「リレル、ちょっと風の力強すぎじゃないか?」

「少し倒れる程度ですよ。それに、"射線"に入ったのですから、被弾して当然です」

「あっはははは……ヒロト、大丈夫か? えーっと、消毒液今持ってたっけか」


 オレを起こしながら、サディエルは腰にある簡易ポーチの中を探る。

 その間に、リレルはオレの所に来て


「では、正解を言いますね。無詠唱で戦うのは悪くありません、いい作戦です。けれども、それはその方が1人で戦っていたり、魔術を使う際に仲間が全員自分よりも後方に待機している場合のみ、有効なのです」

「いっててて……えっと、つまり……」


 サディエルから消毒液を付けたハンカチを受け取り、鼻に当てながらオレは問いかける。


「今みたいに、予告なく魔術を放つと前衛が危ないからです。先ほど、ヒロトはサディエルに攻撃することだけに集中されていましたでしょ。その時、私が魔術を放つ動作を一瞬でも見ましたか? 魔力の流れを感じることが出来ましたか?」

「どっちも出来ていない」


「そうです。激しい戦闘ほど、前衛は後衛を見ている余裕はありません。一瞬のよそ見が命取りになるような状況なのですから……そして、後衛がどれだけ完璧なタイミングに魔術放っても、それが無詠唱であった場合、前衛が気づかずに魔術の射線に入り、代わりに被弾しまう危険性があります」


 オレは姿勢を正しながらリレルを見る。

 そのまま、サディエルに視線を向けて


「参考までに聞くけど、サディエルは分かるの?」

「まっさか。目の前の敵に集中していて、そんな余裕は流石にないって」


 だよね……現役の前衛であるサディエルでさえこれなのだ。

 リレルの言いたいことはつまり……


「無詠唱が悪いわけじゃない。だけど、仲間と協力して戦う場合は不適切な場面が多い」


「正解です。詠唱とは、"今から私はこの術をこういう形で放ちますので、前衛、中衛の皆さん気を付けてくださいね"と宣言する為です。決して、相手に今からこんな凄い魔術を放つぞ! と宣言してるのではありません」

「"風よ、切り裂け"ならば、風属性で殺傷力がある魔術を、って耳で分かるからな。魔術を使う側も、前衛の動きを考慮した上で、敵には当たるけど、味方には当たらないタイミングで使ってくれているんだ」


「だいたい、全員が横一列に並んで仲良しこよしで同じ歩調で進みながら戦うわけじゃありませんしね」


 うぐっ!


 全員が横一列に並んで戦う……いやうん、そうだよね、冷静に考えたらそれはない!

 ごめんなさい、ゲーム的なイメージでちょっとまだ考えてました。

 

 あと、冷静に考えて主人公がラスボスと1対1で戦ってる時に、よそ見するって無いよな。

 むしろこっちが『よそ見しているとは、余裕だな!』とか言いながら攻撃加える立場なわけだし。


「さて、ヒロト。消毒が終わりましたよね? 治療しますから、こちらにいらしてください」

「はーい……」

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