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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第2章 冒険者1~2か月目
39/132

39話 感謝と花束を

 ―――滞在3日目


「ロングソード3本、ナイフ1本、ショルダーガード1組、帯剣用のベルト一式、包帯などの医療品セット一式……合計178,500クレジットとなります」


 たっか……いや、分かってたけど……高っっかい……

 ロングソード4万×3本が、高すぎる。つーか、値上がりしているよ。

 普通、ただのロングソードなんて、どんなに高くても1万超える事はありえないのになぁ……


 ちなみに、ナイフも1万ちょいでした、だから鉄が高いっつーの。


 大赤字も良いところな金額なわけだけど、アルムは今まで見たことないよう完全な営業スマイルのまま、金色のカードを取り出し。


「では、支払いはこれで。領収書もお願い致します」


 魔法のカード(ギルド貸出)で支払ったのであった。


 だからなんで、異世界で魔法のカードという単語に遭遇すると思うよ、ほんとに!

 正式名称は"ギルド専用購入カード"と言って、名前の通りに、ギルドが備品等を経費で買い込む時に使われるカードだ。

 これで支払うと、月末にギルドの方から正式に金額が支払われる仕組み……やっぱり、クレジットカードじゃん!

 暗証文字の提示も求められて、アルムは紙にサラサラとギルドから教えられた内容を記載していく。


 もろもろの手続きを完了させ、オレはベルトを装備して今しがた購入した剣を左側に帯剣した。


 うん、いかにも冒険者! な風貌になったんじゃないか?

 ついでに新調したナイフは、背中の腰当たりに寝かせるような形で、柄の部分は右手を後ろに伸ばせばそのまま掴めるように調整して帯剣する。


 残りの荷物に関しては、これまた魔法のカードを駆使して本日中にクレインさんの別邸に届けて貰うように手配した。


「よしっ、これで買い出しは全部完了だな」

「はい、問題ありません」


「……本当に全部買っちゃったよ……いや、金額的にはかなり大助かりなわけだけど」


 店を後にしながら、アルムとリレルはウキウキと、オレは若干申し訳なさを覚えつつ歩き出す。


 ―――今朝方、ギルドを通してエルフェル・ブルグからの結論が通達された。


 結果だけ言えば、サディエルはオレたちと旅を続けることが出来ることになった。

 このまま荷馬車の護衛をしながらエルフェル・ブルグへと可能な限り早く来て欲しい、とのことだ。


 ちなみに、そのサディエルは現在ギルドの検診室にて、身体検査の真っ最中。


『採血嫌だ……注射嫌い……超苦手……』


 そう涙目で顔を青くしながら、サディエルはギルドの人たちに連れていかれた。


 うん、オレも注射は苦手な方だから気持ちは分かる。ファイト、サディエル。

 かなり時間が掛かるそうなので、オレらは時間が空くならと、当初の予定通り『急いで来て欲しいなら、魔族の襲撃で壊れた色々なものの買い直し資金をくださりやがれ』精神で、軍資金を頂いたのだ。


「さてと、この後どうする? 昼飯は流石にサディエルが合流してからになるし、まだ暇があるわけだが……ヒロト、何処か行ってみたい場所とかないか。明日は出発準備で、明後日は出発になるから、自由時間は今日ぐらいだ」

「んー……そうだなぁ……」


 アルムに問われて、オレはさてどうしようかと悩む。

 何と言うか、初日の騒動もろもろのせいで、お腹いっぱいな感じになってしまっていたからなぁ……

 冷静に考えたら、国内観光も中途半端だったよな。


 今日はまだ行ってない観光名所とかを巡ろう、とオレが提案しようとしたその時、アルムの隣を歩いていたはずのリレルの姿が無いことに気がついた。


「って、あれ? リレル?」

「ん?……いつの間に。一体どこに……あぁ、居た居た」


 オレたちが周囲を確認すると、リレルは少し後ろの花屋に居た。

 店員さんと何かを話して、少し大きめの花束を受け取り、お金を支払いた後、駆け足でオレたちの所まで戻ってくる。


「お待たせしました」

「離れる時は一声かけろよな……で、どうしたんだ、その花」

「色とりどりで綺麗だな。誰かにプレゼント……にしては、このタイミングで? つか、誰に?」


 オレたちの問いかけに、リレルは笑顔で


「アルムのお師匠さんに、ですよ」


 そう答えた。

 それを聞いて、アルムは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


 アルムの師匠さん、そうだった! あの日、顔の無い魔族の対策について話してた場所、師匠さんの家だった!


「アルムのお師匠さんの所へ参りましょう。結局、お邪魔してしまったわけですし、色々途中だったのでしょ?」

「……そうだが」

「でしたら、3人で済ませてしまいましょう。片づけと、お掃除」


========================


 ザバッ、とバケツ一杯に汲んだ水を掛け、事前に濡らしておいたタオルで、アルムはソレを綺麗にしていく。

 磨かれた場所から、石は本来の光沢を取り戻し、もう1度水を掛け直して、乾いたタオルで乾拭きして完了だ。


「……これでよしっ、と」


 そう言ってアルムは立ち上がる。

 リレルが入れ違いのようにソレの前にしゃがみ込み、先ほど購入した花束を添えた。


 石に刻み込まれた文字は読めないものの、それは石碑……いや、墓石だった。


 初日にアルムが置いたと思われる、少し枯れてしまった花を回収して袋に詰めた後、オレも2人の隣に並ぶ。

 そのまま目を閉じて数秒間、黙祷を捧げた。


「お師匠さん、亡くなられてたんだね」

「あぁ、3年前にな……色々厳しくて、気難しくて、口が悪くて、その癖寂しがり屋な師匠だった。僕は結局、師匠に戦術論で1度も勝てないままだった……ったく、何が "師とは後進の壁となり、そしてその日が来たら破れて見送ること" だ。自分を踏み台にして超えていくまで、見守れなかった癖に」


 コツンと、石碑を小突きながらアルムはそう言った。

 そのアルムに、現在絶賛大敗北中のオレはどうしようね、うん。


「ですが、今回はお師匠さんが残してくれていた数々の資料に助けられました」

「……そうだな。師匠の資料が無かったら、サディエルの救出は間に合わなかっただろう。最悪の最悪は、回避出来たわけだしな」


 立案中に見せてもらった数々の資料。

 この国の歴史、そしてあの古代遺跡の地下地図などの貴重品とも言うべき資料の数々。


 アルムの師匠さんが、引退後に生まれ育った故郷であるこの国で集めた資料だそうだ。


「……ありがとうございます、師匠。お陰でサディエルは無事です。これからが大変だけどな」

「本当ですね。ヒロトを元の世界に戻すことと、顔の無い魔族への対処法。やることは山積みです」


「というか、墓参りも掃除も、サディエルと一緒の時じゃなくて良かったの?」


 そう言う事なら、サディエルだってお礼が言いたかっただろうし。

 3年前ってことは、アルムたちは既にパーティ組んでいた時期ってわけだから、面識もあったはずだ。

 すると、リレルはクスクスと笑いながら花束を指さして教えてくれる。


「"俺はここに来る時間が取れないだろうから"って、花束代を貰っていましたので問題ありませんよ」


 あ、この花束代はサディエルのポケットマネーだったのか。

 どうやら、アルムもこの件は知らされてなかったらしく『あの野郎……』と忌々しそうに呟いてる。


「戻ったら、1発殴るか」

「手加減だけはしてやれよ、昨日と今日で、フットマンさんたちからの波状攻撃の洗礼食らってるんだし」


 休憩時間が取れた順、と言わんばかりに入れ替わり立ち代わり、クレインさんの別邸にいたフットマンさんたちが、サディエルの所に来て、誰も彼もが似た質問して、心配かけさせんなとポカスカ殴られていた。

 後半から、同じ質問と説明にげっそりしていたサディエルが


『頼むから……同一の質問と回答内容は全部まとめて情報共有しくれ、もうその説明10回目……』


 と、半泣き状態で懇願していたのは、記憶に新しい。

 心配してくれているし、気持ちは嬉しいけれども、それはそれ、これはこれ……であった。

 見かねたレックスさんが、一通りの内容をまとめて、フットマンさんたちに回覧要求していたし。


「さてっと、良い時間だし戻るか」

「もういいの? もうちょい居ても良いような気もするけど」

「いいんだよ、いつまでも辛気臭い顔してたら、化けて出られそうだ……"そんなことしている暇があるなら、1秒でも頭を動かして、より良い策を練らんかバカ者!"ってな」


 師匠のモノマネなのだろうか、物凄い低音まで下げ似合わない口調でアルムがそう言った。

 そのモノマネは案外似ていたのか、リレルがバイブレーション状態で必死に笑いを堪えている。うん、爆笑しちゃえば?


 がたっ、とアルムはタオルやら何やらが入ったバケツを持つ。

 オレも少し枯れた花や雑草などを入れたゴミ袋を、リレルは箒を持つ。


 改めて一礼してから、オレたちはギルドへ戻った。


 途中にあった公衆用のゴミ箱に、持ち帰ってきたゴミを全部入れて、箒は借りた場所に返して、ギルドに着く頃には丁度お昼の時間帯だった。

 お昼時とは言え、中央ギルドは相変わらず活気が良く、多くの冒険者たちがあれこれと談笑したり、仕事を探したりしている。


 そういえば、とオレはギルド内を見渡す。


 先日、ギルドを訪れた際にサディエルたちから教わった、例の『伝達用の水晶』はどこにあるんだろ……確か、ギルド内で目に付きやすい場所……っと、あったあった。

 確かに、凄い派手な装飾の中央に、大きな水晶が飾られて……


「……あれ? 光ってる?」


 オレが水晶に視線を向けた直後、それがピカピカと光りだした。

 同じように水晶の異変に気付いた、ギルド職員や、ギルド内に居た冒険者たちが驚きと共にそれを見上げる。


 あれが光る時、それは……エルフェル・ブルグからの対魔物や魔族に関する、最新情報の伝達。


「……ヒロト、サディエルの所に行くぞ」


 光る水晶を眺めていると、アルムがオレの肩を軽く叩き、小声でそう伝えてくる。


「何で?」


 つられる様に、オレも小声でそう問い返す。

 するとアルムは、オレを引っ張りながら答えてくれる。


「今、水晶から伝えられている内容を、"僕らは知っている"からな……しばらくギルド内が騒がしくなるから、避難しよう」


 オレらが知っている……そうか、今回の件の通達なのか。

 そう会話している間に、エルフェル・ブルグからの第一報の通達が終わったのか、水晶から光が伝わってこなくなる。

 それと同時に、アルムが言った通りにギルド内がざわつきだした。


 ざわめきの中、オレたちは人込みをかき分けて、サディエルがいる検診室へと足を踏み入れた。


 そこで、検診室内のソファでぐったりしているサディエルを発見した。


「サディエル、大丈夫?」

「だいじょうぶじゃない……検査内容多すぎ……つーか、血抜かれすぎて気持ち悪い……」


 サディエルは何とかかんとか、と言う感じで体を起こしながらそう答えてくれる。


 オレは周囲を見ると、いくつかの血が入った瓶に、あれこれとラベルを貼り付けるギルド所属のお医者さんたちの姿を確認する。

 なんつーか、献血レベルで血を抜かれてない……?


「というか、ギルドがさっきから騒がしくないか? こっちまでなんかざわざわしている音が聞こえるんだけど」

「例の件がエルフェル・ブルグから正式発表されたんです」

「あー……そういうことか」


 リレルからの説明に納得がいってか、サディエルは頭を抱えつつ答える。


「一応、痣を食らったのがお前だってことは伝わってなかったぞ」

「伝わってたら質問攻めどころじゃないもんな……そこだけは良かった」


 見世物小屋状態になるところだった、とサディエルは呟く。

 入れ替わり立ち代わり、痣を確認するために群がる冒険者とか、ちょっと想像したくないな、うん。


「サディエルさん、身体検査お疲れ様でした。本日分は以上となります」


 そこに、ギルド所属のお医者さんと思われる人が、カルテを持ってやってきた。

 ぱららっ、と今日の検診内容を確認した後……


「2週間後には結果が出ているはずなので、最寄りのギルドで確認をお願いします。それから、1か月後に同様の検査をギルドもしくは専属病院で受けてください。また、エルフェル・ブルグに到着後には精密検査があります。到着次第、すぐに知らせるように、とのことです」

「………はい、わかりました」


 逃げたい、と言うのが顔に書かれている。

 一通りの説明を終えたギルド所属のお医者さんは、オレたちに一礼してそのまま退出していった。


「動けそう?」

「一応。あー、だっるかった! 昼飯食べようぜ、昼飯! お腹すいたー!」


 背伸びをしながら、ようやく解放されたとサディエルは嬉しそうに言う。

 そんな彼を見て、アルムは呆れながら軽く頭を小突く。宣言通りに1発入れた形だ。


「それだけ虚勢張れるなら大丈夫だな。来る途中で、美味しそうな飯屋見つけたから、そこにしないか?」

「本当か!? よし、そこにいこう!」


 立ち上がり、少しだけふらついたものの、すぐにバランスを取ったサディエルは意気揚々と歩き出す。

 それに、オレたちも慌てて付いていく。


「とりあえず、サディエルの奢りで」

「え!? ちょ、何で俺!?」


「心配料」

「むかつき料」

「では、私は治療代で」


「お前ら、俺のお財布をそんなに寂しくさせたいのか!? 1人800クレジットまでで勘弁してくれ!」

「サディエルせんせー、デザートは別勘定ですか?」

「ヒロトも遠慮ねーな!? デザートは300まで!」


 そんな会話をしながら、オレたちはギルドを出る。

 これから色々大変になるけど、まぁ今は……


「よーし! 美味しいもの食べて、やる気だすぞー!」

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[良い点] 異世界クレジットカード…… 何を信用の担保としているんでしょうね……?
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