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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第2章 冒険者1~2か月目
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31話 散策開始【後編】

 さて、ギルドを出たオレたちは国内をぶらぶらと散策中である。

 平和な国だけあって、あちこちで催し物をやっていたりして、気分はどっかの夢の国にいる気分だ。


 いや、異世界って時点であれだけど。


 昼飯をどこで食べようかと、あれこれ候補を上げていたものの、こうやって歩いている間に露店や出店の食べ物の匂いに負け、現在は買い食いモードだ。


「……あれ? おばちゃん、ゴブリン串が妙に安いけど、最近襲撃あったりしました?」


 その出店の1つにサディエルが行ってるわけだけど、漏れ聞こえた内容に、思わずオレは口に含んでいた水を盛大に吐き出した。

 はっ!? 文字が読めないけどお肉焼いてる店だったから、牛肉か豚肉だと思ってたんですけど!?

 思わずサディエルを見て、同じく文字が読めてるはずのリレルを見る。


 しかし、彼女は相変わらず笑顔のまま


「あら、先日ワーウルフのお肉も食べたじゃないですか。スライムの出汁も」


 と、回答。

 うん、違う。オレが望んでいる回答はそれじゃない……


「いや食べたよ? 食べましたよ? 食料節約の為に、ワーウルフが襲ってきた日と、スライムを蹴散らした日にそれぞれ」


 この国に辿り着くまでの間に、魔物の襲撃が何回かあった。

 その都度サディエルたちが返り討ちにしていたわけだけど、中には以前からの宣言通り、オレらの食料になって貰ったモノもいた。

 

 うん、ワーウルフのお肉は美味しかったですよ、はい。ゴブリンに比べれば拒否反応少なかったし。


 スライムも悔しいけど、なめこ汁とか、あんかけ焼きそばみたいなとろみが出て、結構馬鹿に出来ない仕上がりになってる上に、保温効果も高いという便利性だったし。

 けど……さっすがにゴブリンはご勘弁願いたい気持ちがまだぎりぎり、オレの中であるわけでして!?


 そんなオレの葛藤を他所に、サディエルは出店のおばちゃんと会話を続ける。


「そうだよ。2週間ぐらい前だったかねぇ……お陰で肉不足解消されたけど、多すぎて多すぎて。捌ききるのが大変」

「燻製とか、塩漬けとか、干し肉とかを作っても、まだ残ったんですか」

「かなりの数が来たからね。けど、2か月前に家畜が疫病に掛かって半壊していたから、ちょっと困ってた所だったわけで……正直、襲撃はあれだけど助かったには助かったんだよ。はい、おつり300クレジットと、ゴブリン串6本おまち!」

「ありがとうございます」


 出店のおばちゃんからゴブリン串を受け取ったサディエルは、笑顔でオレたちの所に戻ってくる。


「ほい、ヒロト。こっちはリレル」

「ありがとうございます。美味しそうですね」

「……見た目は、本当にただの牛肉か何かなんだよな……」


 シンプルに塩かけただけのその肉を見て、思わずゴブリンの姿を想像してしまう。

 けど、さすがに食べないわけにもいかないし……えーい、これは牛肉、これは牛肉、ゴブリンの肉じゃない!


 覚悟を決めて、目をつむり、がぶりと一口。


 あれだよな、嫌いなモノとか、苦手なモノほど無駄に咀嚼してしまうあれ。

 早く飲み込みたいのに、噛まざる負えないのがつら……つらい……あれ?


「美味しい……!?」

「なっ、いけるだろ、ゴブリン」

「うっそだろ……本当にこれがゴブリンの肉……!? 普通に食べられるどころか、美味しいって、なんかショック」

「なんでしたら、脳の酒蒸しも食べてみますか? 美味しいですよ」


「それはさすがにまだ遠慮したいです」


 カニ味噌の酒蒸しでもどう? みたいなノリで言わないで欲しい。


「と言うか、この国も最近襲撃あったんだな。そんな雰囲気全然なかったから気づかなかった」


 先ほどの話を思い出しつつ、ゴブリン串を頬張る。

 やばい、普通に美味しいし、臭みも特にない、独特の苦みもないとマジで普通の肉だよ。


「ゴブリン相手でしたら、せいぜい火事が少しと、窓とかが割れたぐらいじゃないですかね」

「だろうな。あっちも数で攻めてきてはいただろうけど、1体1体確実にやっていけば問題なかっただろうし」


 この世界の魔物の強さの定義。

 弱い魔物ほど人間に狩られない為の手段として、体がでかかったり、怖い見た目で威嚇したり、数で解決したりする……だったかな。


 ゴブリンの場合、3つのうち2つ……個体によっては3つ全て当てはまるだろうしなぁ……


「まっ、結果的に肉不足だったらしいから、いいタイミングで襲撃してくれたんじゃないか?」

「ですね」

「そういう解決でいいのかな……」

「いーのいーの、おかげでゴブリン串が通常よりもかなーり安く買えたわけだし!」


 そう言いながら、サディエルは最後の1本を食べきった。

 そのまま、公衆用ごみ箱に串を入れて、そのままオレたちは次の目的地に向かう。


 その目的地とは……


「うーん、相変わらず壮観だな」

「これが古代遺跡かー……本格的だ」


 この国の歴史を語る上で必須と言われる、古代遺跡だ。

 今では観光名所扱いになっているらしく、出入りそのものは自由なその場所は、かつてこの国がまだ国を為す前から存在しているらしい。

 つまりは、歴史の生き証人……生き建物? であり、今日に至るまでの歴史が刻まれているそうだ。


 そんな場所がある聞いたら、せっかくなわけだし見学してみたいって! ってことで、やってきたのだ!


「ヒロト、こちらのランプを使いくださいな」

「ありがとうリレル。観光用ランプ……本当に観光名所扱いなんだな。入場料とか取られないだけマシかな」


 入口付近にあった、遺跡見学用のランプに魔術で火を灯して準備完了。

 オレたちはさっそく古代遺跡に足を踏み入れた。

 長い通路を歩きながら、ふとオレは手元のランプを見てから、疑問に浮かんだことを質問する。


「なぁサディエル。ランプを使わなくても、光の魔術みたいなやつで通路を照らす、ってことは出来ないの?」

「出来なくはないけど、意外と魔力の消費が激しいんだよ。こんな感じで……"光よ御手に"」


 そういって、サディエルは左手に光の塊を作り出す。

 だけど、それは僅かな間ですぐに雲散してしまった。


「魔術はそもそも、無から有を作り出すものじゃないからな。水の魔術だったら、魔力で周囲にある水分を凝縮しているだけだし、風や土もそうだ」

「その理論だと、火とかはどうするんだよ……火の元とか近くにないよな」


「エルフェル・ブルグの研究論文によると、地面をずっと下まで掘り進めた先にあるんじゃないかって結論になっているな。実際、4大元素魔術と言われる地、水、火、風の中で、火の魔術が一番魔力消費が大きいことと、地面しか火の元があると想像出来ないから、だけど」


 あー……そうか、マグマか。


 確かにマグマは地下数十kmの深部で生成されているし、場所によっては地下5kmから10km程度の場所まで来る時もある。

 魔力でそれを集めているってことなら、確かに火の魔術が一番魔力消費が激しいのも頷けるな。


「その理論だと治癒の魔術は?」

「光の魔術もそうだが、治癒の魔術は数少ない例外だ」


 そう言いながら、サディエルはリレルに視線を向ける。

 ここは、その専門分野の人の解説ってことか。


「例えば人差し指を切った場合、皮膚が裂けた状態になります。皮膚と皮膚をつなぎ直す為に、魔力で皮膚構造そのものを複製し、それを増殖させて傷口を塞ぐ。この工程は、想像よりも魔力消費が激しいのです」

「それだと、皮膚以外も元があれば複製できるってことだよな」


「はい。実際、数百年前までは4大元素魔術も、その方法を利用して発動させていたのですが……」


 この言い方だと、致命的な問題があたったってことだよな。

 魔力消費が多いってことだから……


「くっそ弱いのにめっちゃ魔力を消費するから非効率、とか」


「それもありますけど、魔力消耗のし過ぎで、人は死に至るんです。自身が持つ魔力以上を消費すると、生命力を代償にするわけで……平均寿命が凄く短い時代もあったそうです」

「20とか30が平均寿命だったらしいぞ。しかも魔力消費が多すぎた結果、人体の成長もすごく急で、30歳なのに90歳みたいな見た目とかもあったらしい」


 30歳で見た目90歳とか、何だそれ嫌すぎる。

 そういうのこと、二次創作とかファンタジーの世界でやって欲しい。


 リアルでそんな状況とか結構シュール通り越して怖いし。


「魔物や魔族以前に、対抗する手段に殺される! ってことで、エルフェル・ブルグでどうすればいいかと研究を進めた」

「その結果、治癒と光のみは代替手段がないのでそのまま、他は発動方法を変更という形になりました。また、治癒と光に関しても、なるべく負担を軽減する為の研究がなされ、その手段も確立しました。今では、魔術そのものに殺されることもなくなったと言うわけです」


 無から有を生み出すこと、こればっかりはどんな世界でも難しいってわけか。

 というか、代償さえ目をつむれば複製・増殖そのものは出来るってのが怖いな……

 その代償が寿命って露骨なものだから、こう、他人の魔力を吸い取ってどーたらみたいな展開がありそうだ。


 ありそうではあるが……この世界の場合、そのあたりの対抗手段も絶対にぎっちぎちに作られているだろうから、案外心配ないんだろうな、きっと。

 少なくとも、今まで色々なことを聞いてきた範囲だと、そこが考慮外になってるとは思えないし。


「魔術談義は一旦ここまでにして、着いたぞヒロト」


 サディエルがあっちを見ろ、と指を指す。

 オレは言われた方向にランプを掲げ……


「ここが?……うわああ!」


 "それ"を食い入るように見つめる。


 その部屋は、四方の壁いっぱいに絵が描かれていた。

 内容はこの国が国として成り立った歴史絵だった。


「確か、左側からぐるっと1周する感じで見ると、時系列順になってたはずだ」

「左からだな! 了解!」


 オレは絵に近づいて、ランプの光を当てる。

 ふむふむ、もともとこの古代遺跡に各地を放浪していた人々が辿り着き、根城にしていった。

 この遺跡を拠点に狩りを行い、植物を育てて、少しづつ豊かにしていったって感じかな?


 凄く分かりやすい絵だから、文字が読めないオレでも、何となく歴史の流れが理解しやすいな、やっぱり。


 あ、ゴブリンたちの絵もあるし、普通に狩られてるし……この頃からゴブリンは食糧なのかよ。


「古代っていうから、相当前のものなのに、結構綺麗に残ってるんだな……」

「ヒロトの所にはないんですか?」

「あるにはあるけど、遺跡となると海外にしかないんだ」


 仮に遺跡に該当するものを上げろと言われたら、城跡とか、古墳とかがメインになるわけだし。

 縄文時代あたりの遺跡もあったはずだけど、ここみたいに神殿ような大きいものは皆無だからな。

 そういう意味でもテンションは上がる。さならが、海外旅行である。


 いや、異世界にいるのに海外旅行とは。


「あっ、よく見たら文字もあるじゃん。けど……あれ、いつも見かける文字と違うような……」

「この国の旧言語ですね、きっと」


 旧言語なんてのもあるのか。

 そうなると、国に発展する際に言語を新しくしたとかかな。


「昔は、国ごとに独自の言語があったのですが、魔物や魔族に対抗する手段の情報伝達をより円滑にするために、言語を統一しようってことになったんです」

「……それって、簡単にいったの? オレの世界で仮にそれが起きたら絶対にやばいんだけど」

「もちろん、あっちこっちで反論が出ましたよ」


 ですよねー、それはさすがに想像ついた。


「あれ、じゃあどうやって解決したんだ?」


 これは聞いておいて損はないかもしれない。

 仮にそんなことがオレの世界で起こった場合に、参考になるかもだし。

 すると、リレルは笑顔……と言うよりは、苦笑いしながら


「言語統一を拒んだ国から滅びた結果、順応した国だけが残っただけです……」

「何その劣悪環境でサバイバルさせて、生き残ったみたいな内容」


 けど、その光景がありありと想像出来るのが始末に負えない。

 そりゃそうだ。『伝達用の水晶』で連絡したといっても、それはエルフェル・ブルグの公用語で発信されている。

 それをそのまま受け取れる国と、翻訳と翻訳内容に齟齬がないかの確認をする手間が掛かる国とじゃ、対策の準備期間が違ってくるわけだし。


 本当に、こういう所がマジでリアルだよ……


「まっ、滅んだ国に関しては"適用しなかった方が悪い"で一蹴されたらしいぞ、歴史書に書いてあった」

「笑いごとじゃないような気がするんだけど」


 そうツッコミ入れながら、オレたちとは離れた位置にいるサディエルに視線を向けた。


 ―――その時だった


 何か"黒い影"が、明らかに室内の暗さとは違うなにかが、サディエルの後ろに迫っていた。


「サディエル!」


 オレの隣に居たリレルも、それに気付いたのか、焦りを含んだ声を上げる。

 その声に異変を感じたサディエルはすぐさま帯剣していた剣を抜き放ち、振り向きざまに"黒い影"を切り裂いた……ように、見えた。


「なっ!? くそっ!」


 切り裂いたはずの"黒い影"が、そのまま剣を伝ってサディエルに覆いかぶさろうとする。


「サディエル、少し我慢してくださいよ! "風よ、切り裂け!"」


 リレルが放った風の魔術が、サディエルに覆いかぶさろうとした影に当たった。

 当たっただけで、状況は何も変わらなかった。


「効いていない? サディエル!?」

「リレル落ち着け! まずはヒロトを連れて避難! アルムと合流! この黒い影、俺を殺すつもりならとっくに殺してるから、恐らくすぐには死にはしない! だから、アルムを連れてきて解決策を……うわっ!?」


 すべてを言い切るより先に、サディエルが完全に影に覆われ、そのまま霧が雲散した。

 そしてそこに、サディエルの姿はなかった。


 慌ててオレはサディエルが立っていた場所まで行くも、影も形もない。


「サディエル! サディエル!?」

「………ヒロト、まずはアルムと合流しましょう」

「だけど!」

「私も、少し混乱しております。とにかく、まずはサディエルの言う通りにアルムと合流を……大丈夫……大丈夫です。よしっ、行きましょう!」


 ぱしっ、と両手で自身の頬を叩いて、リレルは気合を入れる。

 それが虚勢であることは、さすがのオレだってわかる。

 オレだって、急にサディエルが消えて動揺しているけど……リレルだって不安なんだ。


「リレル、アルムの居る場所は? 別邸に戻る!?」

「いいえ、今の時間帯なら恐らくまだお師匠さんのご自宅のはずです! ここから近いので急ぎましょう!」

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