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20話 プロローグのエピローグ

 ―――3日後、洋服屋にて


 シャッ、と試着室のカーテンを開ける。

 その音を聞いて、オレに視線が3つ集まる。


「うん、似合ってる」

「はい! お似合いですよ」

「何だろう、学生服初めて着て、それを親に褒められた感……店長さん、いい服をありがとうございます。ピッタリだしデザインもめっちゃ気に入りました」


 誉めてくれるアルムとリレルに、少し赤面しながら答えつつ、店長さんにお礼を言う。

 ガーネットウールの毛で作られた服の着心地は最高だ。


「気に入ってもらえたなら良かったよ。ブーツもついでに買ってくかい?」

「はい、お願いいたしますわ」


 リレルが店長さんと再度交渉している間に、近くにあったブーツを持ってアルムがオレの所に来る。


「じゃ、これ履いてみて」

「分かった。って、やっぱブーツなんだ……普通の靴じゃなくて」

「色々理由はあるが、わかりやすいの2つ言うと、1つはテェタナス……破傷風か、それの予防だ。普通に歩いて、そのあたりの枝とかで軽く切って、そこから病原菌が入ったらシャレにならん。あとはそうだな……もうすぐ蛭が出やすい時期だ」


 あー……(ヒル)か。

 山登りするやつが言ってたな、蛭が出てきてめんどくさいって。


「蛭は食いつかれて下手に剥がそうとすると肉が抉れる。その対策として飽和塩水を持っていくのも1つだが、荷物が増えるだけだ」

「色々総括すると、ブーツ履いとくのが一番良いってわけか……」

「結果的に荷物が減るからな。2足持っとけよ、裸足になったらそれこそ意味がない」

「はーい」


 おススメされたブーツのいくつかを試着し、サイズと見た目が気に入った2足をチョイス。

 そのまま、お会計して貰ってオレたちは洋服屋を後にする。


「これで一通り揃いましたね」

「あとは、合流ポイントに行くだけだな」


 今、オレたちが向かっているのは宿ではなく、街の外に繋がる城門である。

 すでに宿はチェックアウトして、お世話になった宿のご主人にもお礼を言ってある。

 頑張って来いよ、と頭を撫でられた時はさすがに恥ずかしかったよ……


「あー! ヒロト兄ちゃん!」

「やっとみつけたー!」


「ん? カイン君、ミリィちゃん」


 城門に向けて歩いていると、スケルトン襲撃の日から結局タイミングが合わずに安否確認ができてなかった……訂正、オレの安否が確認出来ずに心配してた幼い兄妹が居た。

 2人はオレに抱き着いて、ぽかぽかと可愛らしく叩いてくる。


「兄ちゃんのバカバカバーカ!」

「心配したよ!!」

「ごめんって、2人も無事でよかったよ」


 しばらく殴って満足したのか、2人は離れてオレを見上げる。

 腰に護身用のナイフ、旅袋を持つ姿を見て


「行っちゃうの?」

「あぁ。ごめんな、先にゴールした方にお菓子をプレゼントって言ったけど……」

「いいよ! そのかわり、今度街にきたら何かちょーだい!」

「うん! ちょーだいね!」


 確かに、エルフェル・ブルグで用事が終わったら、またこの街に来ることになると思う。

 その時に、今のお願いを叶えればいいか。

 オレは2人の頭を撫でて


「わかった、約束だ。カイン君、ミリィちゃん、また来るからな!」

「うん! またね、ヒロト兄ちゃん!」

「いってらっしゃーい!」


 ばいばーい! と笑顔で手を振って去っていく幼い兄妹にオレは見送る。


「責任重大ですね。ちゃんと戻ってこないと」

「お菓子代も稼がないとな」

「うわー……高いの要求されなきゃいいなぁ……」


 まぁお菓子だからそんなに高くは……ないよね? 高級菓子のオチはないよな?

 いや、それ以上考えるのはやめておこう。これ以上考えると、あとでそうなりそうだから。

 こっちの世界に安いチョコとか、ポテトチップス系ってないかな。


 そんなことを考えている間に、目的の街の外へ通じる門に辿り着いた。


 門の近くには、大きめの荷馬車とおそらく依頼主、そして……


「おーい!」

「ん? おっ、3人とも戻ったな」


 怪我を完治させたサディエルが居た。

 ……訂正、まだ完全な完治はしていない。


 破傷風の潜伏期間は、そもそも3日~21日あり、平均的な潜伏期間と言う意味では10日だ。


 もっとも、リレルの治療があったわけだから、ほぼ完治という状態で問題はないらしい。

 そんなサディエルも、旅立つ準備を終えてそこに立っている。


「おや、サディエル君のお仲間だね」


 彼の隣に立っていたのは少しかっぷくの良い、壮年の男性。

 年齢だけなら……どれぐらいだろう。40歳ぐらいかな。


「初めまして、儂はクレイン。これから3か月ほどよろしく頼むよ」


 この人が依頼人か。

 行商人とは聞いてるけど、今は交渉する恰好と言うよりは、旅をする為に動きやすそうなのに品のあるいで立ちだ。

 オレたちはクレインさんに一礼してそれぞれ自己紹介をする。


「初めまして。僕はアルムです」

「リレルと申します」

「ヒロトです。よろしくお願いします!」


 それぞれと握手をかわして、クレインさんは荷物の最終確認の為、先に荷馬車に乗りこんだ。

 その間にサディエルがこちらに来て、オレたちの顔を確認した後


「よしっ! それじゃあ、これから出発になる。全員、体調は大丈夫だよな?」

「一番不安要素あるやつが何言ってるんだ」

「いやだから、もうずっと謝ってるだろ……まっ、いいか。"ヒロト"もいいよな?」


 サディエルの言葉に、オレは大きくうなずく


「もちろんだよ、"サディエル"!」

「いい返事だ。オレとアルムとリレルは荷馬車の護衛、ヒロトは当初の予定通りまずはやるべきことをやっていく!」

「了解」

「もちろんです」


 オレたちは右手を出して、互いの手の上に重ねる。


「頑張るぞ!」

「「「おー!!」」」


 一度、下げてから大きく天に向けて手を上げる。

 そして、オレたちは荷馬車に乗りこんだ。

 

 こうして、オレの異世界での冒険者……見習いとして、元の世界に戻るための旅が始まったのである。



『何ですか!? オレにお願い事って!』

『それは……敬語をやめて、呼び捨てにすること』


『……はい!?』


『いつまでも他人行儀って悲しいですしね。なにより、これから一緒に旅するわけです。良いところだけじゃなく、悪いところだっていっぱい見せますし、見せられますもの』

『そういうこと。というわけで、まずは呼び捨てからだ。はい、ヒロト』

『ヒロト』


『……うえぇぇ……えっと、アルム……に、リレル?』


『合格。あとは明日、起き抜けのサディエルもついでに呼んでやればいいさ』



―――第1章 冒険者はじめます【サディエル編】 完

第1章完結になります。

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