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18話 異世界の類似と差異

「いや、前もって言うけど、ヒロト君を助ける時の怪我じゃないからね!?」

「それは流石のオレでも分かってます! 風の魔術の後に着地音したんだから! 着地音の後に風の魔術だったら全力で疑ったけど!」


 オレはベッド近くに置いてある椅子に座る。

 入った直後こそびっくりしてしまったけど、冷静に考えたらスケルトン襲撃の際に彼が怪我するタイミングは無かった。


 少なくとも『オレと合流した後から』になるけど。


 じゃあ、どこでこの状況になったかというと……これに関しては、1か所だけ心当たりがあった。


『よっ! アルム、リレル。そっちの調子は?』

『お前のご希望通りだよ。あとでほんっっと覚えてろよ』


 そう、アルムたちと合流した直後の会話、これなのだ。


「……どうしたんですか、その怪我」

「えー……言わないとダメ? ほら、前衛の冒険者が怪我するなんて日常茶飯事なもんだよ?」

「宿にいぢけて引きこもってる設定で、アルムさんとリレルさんに部屋に押し込められてる人が何言ってるんだか」


 この怪我の感じと、妙にテンプレを綺麗に踏み抜くサディエルの性格。

 ここから導き出せる、今回みたいなパターンの王道展開は。


「あれですか、この街に戻ってくる途中とかで、スケルトン討伐を阻止しようとするかのように強敵が現れて、そいつ倒す時に怪我して」

「うっ」


「怪我の治療をしようとしたリレルさんや、ちょっとは安静にしてろって言うアルムさんの言葉を見事にスルーして、強硬突破で戻ってきて」

「うぅ!?」


「トドメに『ヒロト君を手分けして探そう! というわけで、俺はこっち!』ってダッシュで逃げた……って、あたりですか?」

「君は何!? 俺の行動ずっと監視でもしてた!?」

「いや。オレの世界で、こーいう物語の究極お人よしの自己犠牲精神たっぷり光属性主人公なら、あるあるな行動を言っただけです」


 と言うか、綺麗にオールビンゴっぽいんだけど、この反応。

 本当に何でここまで綺麗に踏み抜くのかなこの人……いや、もともと予兆はあったけど、今回で完全にボロでたっつーか。


 異世界の人間とかいっちゃう人間を、特に抵抗なくさらっと信じるとか。

 無駄にポジティブの塊でコミュ力高すぎるとか。

 ……これで鈍感属性もあったらもう確定だけど、この調子だと持ってそうだなぁ……鈍感属性。

 

 あ、もう1つそれっぽい属性あった。

 無駄に女の子にモテるハーレム要素が……


「…………」

「急に黙らないでくれるかな?」

「……いや、サディエルさんはハーレム形成系じゃなくて、いぢられ系かなって……」

「ヒロト君も結構混乱してるよね!? 現実に戻ってきてもいいんだよ!?」


 何だろう、今までオレの方が異世界生活と、異世界の個人的常識を綺麗に否定され続けてツッコミ入れてきたわけだけど、こう、他の人がツッコミまみれになって慌ててる光景を見ると、冷静になれるもんなんだな……

 あれか、他人が慌てている姿を見ると冷静になれるってやつかな。


「それで、実際どうしたんですか。見た目だけなら完全重症ですよね」

「いや、軽傷……じゃないけど、重症でもない、断じて! そりゃちょーっとあいつら大げさに引きずって、今日1日このまま部屋から出るな命令下されたけど、ぜんぜん!」


 人はそれを重症と言うのでは?

 と言うオレの心の中のツッコミは、どうやら間違いではなかったらしい。


「ほーら、腕も回るし、体だって余裕でひね……れ……」


 わかりやすいぐらい顔色が悪くなるサディエル。

 そして、その視線はオレの後ろに向いているわけで……この展開の場合、後ろに居る可能性は2名のどちらか、もしくは両方ってわけでして。


 いやぁ、本当にサディエル……ここに来ていきなりテンプレ踏みまくり始めてるんですけど。


 むしろ今までよく抑え込んでいたよな、とちょっと関心する。

 その最たる理由は、完全にオレが右も左もわけワカメだったから、それをフォローすることを優先してたってことだろうし。


 んで、オレも自分の後方に視線を向けると……あっ、うん、そりゃ顔色悪くなるな。


「まぁまぁまぁ……腕も回る? 体を余裕で捻れる? 何をのんきなこと言っていらっしゃるのかしら?」


 うーわー、リレルの笑顔が超怖い。めっちゃ怖い。

 下手な怒った顔なんかより、笑顔で凄まれる方が怖いという典型例がまさにこのことだ。


「リ、リレル……いや、リレル様……あの、顔が怖いんですけど」

「サディエルさん……いい人でした。今までありがとうございます」

「見捨てないでヒロト君ー! 俺を見捨てないでくれえええええ!!」


 頼むよ! と、オレを逃がそうとしないサディエル。

 前日までオレの中にあった、頼りになる優しいお兄さんサディエルは消え去った、間違いなく。


 そんなサディエルをよそに、ツカツカツカと近づいてくるリレル。


「なぜ今日1日、部屋に押し込んだのか忘れているのですか? "テェタナス"が発症しても助けませんよ、私。致死率がどれだけか教えましたよね?」

「わかってる! わかってるって! 俺だって死にたくないから素直に部屋に引きこもってるだろ!?」


 テェタナス? この世界特有の病気か何かかな。

 ……いやちょっとまて、聞いたことあるぞ、この単語。


 テェタナス……テェタナス……綴りはなんだろう。Tetanus……? Tetanus!?


「あああああああ!? 破傷風!?」

「うおっ!? いきなりどうしたんだよヒロト君、叫んで」


 思い出した! 破傷風だ!

 ちょ、それはさすがにシャレにならない!


「やばいじゃんそれ! オレの故郷ですら、死亡率高いやつだよ!?」

「薬などを含めた医学が進歩している、とお聞きしておりましたが……テェタナスはそちらにもあり、撲滅はされていないのですね」

「先進国だとワクチンを……えっと、仮に発症しても重症化を防ぐ予防薬のことなんだけど、それを小さい頃に接種して、発症した際の抵抗力を強めて対抗って感じなんです」


 といっても、その効果は10代前半まで。2回目を接種していたら20代前半までの話だ。

 ワクチンにも効果期間があるから、それ以降は生傷が絶えない仕事の人や、レジャーなんかする人たちは定期的に受けとかないとやばいことになるんだよね。

 オレの友達の1人が山登り大好き人間だから、少し前に『破傷風予防でワクチン打ったんだー』って言ってる時に、その話聞いたから覚えてたわけだけど。


「それでも、ワクチン効果が弱まった後だと、致死率は万全な国ですら10~20%って言われてるんです。異世界で医療技術がそこまでってなると、ガチでやばいのぐらいオレでもわかりますよ!?」


 たかが10~20%と侮るなかれ。

 先進国だからここまで数値が低くなってるだけで、ゲームでガチャSSRの排出率20%ってなったら、オレなら当たるってガチャって当てるのと同値ってことだからな。


「サディエル? ヒロト君ですらこのご意見なんです。安静にして頂けますか? ただでさえ、この街に戻るの優先して、応急処置の消毒その他もろもろをまともにさせてもらえず、勝手に止血だけして突っ走っていったわけですし」


 そりゃリレルも怒る以前に、やっぱビンゴなんだ、オレが言ったこういう行動したんだろーなってやつ。

 リレルはサディエルの所まで行くと、包帯を外して傷口を確認し、薬草を煎じたモノなのか何なのか、とりあえず傷に効くと言わんばかりの塗り薬を塗っていく。


 うわぁ……傷がひっどい。


「というか、相手誰だったんですか?」

「スケルトンを作り出した親玉ですよ。スケルトンはそもそも自然発生しないので、誰かが魔術で……今回は数が数だったので、100%魔族側が犯人なんですが、そいつを倒したときですね」


 ここで魔族の話題ー!

 ああああ、何でオレその場にいなかったんだよ、やっと異世界っぽい展開がそっちにあったなんて!


「魔族と?」

「正確には魔族が作り出した上級と分類される魔物ですね。デーモンとか」


 あー、本当に羨ましい。

 スケルトンに追われるぐらいなら、デーモン見たかったとか、今もう安全だからそんなこと思ってしまうよ。

 そんな会話をしている間に、リレルは包帯を巻き終わり最終確認をした後


「夕飯はもう食べました?」

「食べた」

「トイレは済ませましたね」

「済ませたよ」

「でしたら、大丈夫ですね。これから一晩ダウンして貰います。今のうちに連絡事項とかありますか?」


 一晩ダウン?

 え、今から治療じゃないの、傷塞ぐ方向の……いや、時間経過で今まともに治療してるってことは、破傷風の芽胞がすでに体中に回り切ってる可能性もあるのか。

 となると、今からすることって?


「んじゃ、そこのテーブルの上にある資料を2人で確認した後、ヒロト君に今後の予定説明頼む。薬はどれ飲めばいいんだ」

「そっちの赤いやつと、黒いやつです。どちらも、欠損する部分を後から増強させてくれます。副作用に関しては眠るので気にならないと思いますが、明日起きたらすごくだるいと思うので、無理にでも壁叩いてアルムを呼んでください」

「りょーかい。ってわけで、ヒロト君」

「あ、はい」


 一通り説明を聞き終えたサディエルは、オレに視線を向ける。

 右手には薬と、左手には水と、いつでも薬飲む準備万端である状況なことについては、何も言うまい。


「俺は明日まで起きないから、アルムたちの話を聞いて色々準備よろしく」

「えええ!? ちょ、オレの決定あれこれとかは聞かないんですか!?」


「顔を見れば分かるよ、結論が出てるってことぐらい。な? アルム、リレル」

「えぇ」

「そうだな」


 んんん!?

 オレは思わず後方から聞こえた声に振り替えると、呆れ顔で壁に寄りかかってるアルムの姿があった。い、いつの間に……!?

 サディエルは再び情けない表情でアルムを見て


「アルムも悪かった」

「謝るぐらいなら、次からはちゃんと治療受けてからにしてくれ。マジで」

「善処します……っていった瞬間に『おいてめぇそれまたやる言葉』って顔しないでくれ。不安な部分はあるけれど頑張りますって方だから!」

「はよ薬飲んで寝ろ」


 リレルが笑顔の圧なら、アルムは般若の怒りの圧だ。

 見下すようなジト目を見てか、サディエルは素早く薬を口の中に放り込んで、水をがぶ飲みする。


「……リレル、頼む」

「はい、それじゃあしっかりと歯を食いしばってくださいね。気絶するんですから。いきますよ……"破壊せよ"!」


 小さい悲鳴と共に、サディエルの体が魔力に包まれる。

 が、ちょっとまって、治療のはずなのに何で『破壊』!?


「病原菌を壊す術だからな」

「……アルムさんはエスパーですか、オレ一言も喋ってないんですけど」

「お前はサディエルと違って、顔に出まくるからな……こいつも顔に出やすけりゃいいんだが、っと」


 ベッドに近づいて、アルムは気絶して倒れたサディエルの体を支える。


「アルム、ゆっくり寝かせてあげてください」

「あいよ」


 すでに気絶してしまったのか、サディエルは……若干苦痛で顔を歪めている。

 相当痛かったんだな、今の術……


「今の術は、今回みたいに応急処置を後回しにしてしまった場合の対処方法です。ただ、これはテェタナス……ここはヒロト君の言葉に合わせましょう。破傷風などの悪い菌を殺す治療の魔術です。ですが万能ではありません、ある程度の判別こそ出来ますが、良い菌も一緒に殺してしまうのです」

「あー……オレの故郷の薬と同じですね。それだけを殺すってのは基本的に無理で、一緒に良いやつも殺すしかないんです」

「……薬であれば、ゆっくりと時間をかけてリスクも少なく、というのが可能でしょう」


 サディエルに毛布をかけながら、リレルは言葉を続ける。


「ですが、この世界ではそれが出来ません。この方法も、まだ若い年代の私たちだからこそ有効なのです。年を重ねると、今の術を使うだけで死んでしまいます」

「それをわかったうえで無茶したんだ。そのまま明日まで気絶させとこうぜ」

「はい、そうしましょう」


 立ち上がった2人はテーブルから資料を持ち、オレにも退室するように促す。

 ちらりとサディエルの様子を見てから、オレは2人に付いて行き、部屋を出る。


 そのまま向かうのは宿の食堂である。


「さーってと、夕飯食おうぜ! お腹すいたよさすがに」

「賛成です。お腹すきました、今日は何を食べましょうね。高いのを食べましょう、サディエルのへそくり、奪ってきましたので」


 そう言いながら、リレルはいつの間にか持っていた、じゃらりとお金がぶつかる音がする袋を持ち上げ、って!?


「ちょ、ええええええええええ!?」


 さらっと!? なんかさらっと、ひどい言葉と行動が!?

 オレが驚いているのをよそに、アルムは嬉しそうな表情でその袋を見る。


「マジか!? よーし、高い肉くーおうっと! これぐらいの迷惑料は当然だよなー」

「えぇ、えぇ。当然中の当然です! 私に至っては診察代と治療代も込々になります、何を食べましょう……メロンとかいいですね、高級メロン……パフェとか、そのあたりでも」

「ヒロト君も遠慮すんなよ。むしろ遠慮しない方がいい」

「………」


 オレは思わず立ち止まって、遠い目をしてしまう。


「あの……お2人とも……サディエルのこと……信頼してるんでした、よね……?」

「さぁ? どーだろなー、あんなどアホなんてー」

「どうでしょーねー、あんなおバカさんなんてー」


 今回ばかりはサディエルも悪い部分あるけど、なんつーか、やっぱいぢられ属性だわ。

 オレは無言で、合掌する。


 なお、これは後日の話になるのだが……この日使われた金額を後々気づいたサディエルが『……今度、このお金でパスタ食べようと思ってたのに』と、涙流してた。

 使われた理由が理由だったので、当然ながら口論負けしたのは言うまでもない。


 まぁ……その……どんまい、サディエル。

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