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15話 襲撃【後編】

「2人とも、芝すべりはやったことあるか?」

「芝すべり?」

「なーにそれ」

「わかんないなら、しっかりオレに捕まっていろよ」


 麻布のシートを二重にした状態で坂道に置き、オレの前に幼い兄妹を乗せる。

 段ボールとか、ソリじゃないのがちょっと不安だけど仕方ない。

 両腕で2人が左右どちらかに吹っ飛ばされないようにしつつ、オレの腕をしっかりと握ってもらう。


 よし、覚悟決めて行きますか!


「せーの!」

「うあああああ!?」

「きゃー! はやーい! すごーい!」


 魔物の襲撃目の前だってのに、幼い兄妹は楽しそうな表情しながら、芝すべりに目を輝かせている。

 単純だけど面白いからな、これ。まぁ、逃げるために使ってるから、もう1回! って言えない状況なのだけが残念だけど。

 芝がいい感じに生えてるおかげで、思ったよりも安全に滑り降りれている。


「あ、ヒロト兄ちゃん! もうちょい右! 右に寄った方が近いよ!」

「いや、これ真っ直ぐだけだから、ずれるのは難しい……うわっ!?」


 こっち! と言わんばかりにカイン君がオレの右手をぐいっと外側に押す。

 その関係で左側の布が持ち上がり、大きくバランスが崩れてしまう。

 やばいと思い、必死に左に体重を掛けようとするけど、うまくいかない!?


 オレは咄嗟に右足地面につけて、スピードを殺してバランスを取り直す。


 がががっ、と地面が僅かに抉れつつも、何とか修正に成功する。

 そのまま右足を麻布のシートに戻して、ぐいっと前方に体重を掛けて滑り降りる速度を上げる。


「ご、ごめん兄ちゃん……」

「気にしなくていいよ。ほら、もう着くぞ!」


 少し先が平坦な芝になっている。

 ザザッ、と平坦な場所までやってきたオレたちは自然にスピードが落ち切るのを待つ。

 そして、止まったのを確認して2人を立たせる。


「さてっと……」


 オレもゆっくり立ち上がり、2人を見る。


「カイン君、ミリィちゃん、先に行きな」

「え!?」

「ヒロトお兄ちゃん何で? 一緒に行こうよ!」

「いや、オレの走る速度に合わせてたら、2人も到着が遅れるだろ?」


 右手を無理無理と振りながら、オレは2人に答える。

 実際に3日前の避難訓練では余裕で負けてたわけだし。


「大丈夫。今回は避難よりも10分避難時間が長い。ちゃんと追い付くから、先に行ってな」

「……でも」

「お父さんやお母さんも心配してるんだから。な?」


 まだ納得してない顔をしているけど、オレはパンッ、と両手を叩いて


「先に避難所に着いた方に、後で好きなお菓子をプレゼントだ! よーい……!」

「え!? ええ!?」

「ドン!!」


 そういうと、2人は思わずと言った感じで走り出す。

 だけど、少し走ったらオレの方を向いて


「ちゃんと来いよ、ヒロト兄ちゃん!」

「待ってるからね!!」

「はいはい、コケるなよー」


 ひらひらと手を振って、オレは幼い兄妹を見送る。

 2人の姿が見えなくなってから、深くため息を吐いた。


「はー……普通さぁ、ピンチになるのって魔物が来てからじゃねーの? 魔物が予想以上に早く来ましたー! 攻撃受けて動けなくなりましたーってさ」


 ふらりとバランスを崩して、オレは地面に倒れこむ。

 右足がじくじくと痛む。間違いなく、先ほどバランスを取るために無理やり地面を蹴った時が原因だ。


「坂道降りるより近道だし、時間短縮だし、体力温存出来る。と思った結果がこれってなー……ついてない」


 とはいえ、愚痴ってる暇がないのは事実。

 もう一度何とか立ち上がり、麻布のシートを回収してから、オレはひょこひょこと右足をかばいながら歩き出す。

 捻ったばかりのせいで、痛みが全然引いていない。けど、動かないと死ぬことは確定だ。


 サディエルたちが間に合うことは絶対にない。だって、徒歩で3日先の隣街に居るんだ。


 仮に車がこの世界にあったとして、高速道路並みに吹っ飛ばしても1時間弱の距離……間に合うわけがない。

 ただ、今のペースだと東避難所は100%間に合わない……となると、次に向かうのは中央になる。

 大問題は、魔物たちと激突することがほぼ確定しているであろう激戦区へ行くわけで、道中高確率で魔物と鉢合わせしそうということだ。


「その前に、防衛に入ってる人たちと合流しないと……」


 何とか建物近くまで来たお陰で、右手を壁に沿わせて松葉づえのように歩けるようになった。

 よし、これなら少しはマシだろう。

 焦る気持ちを抑えつつも、静まり返った街を必死に歩く。

 とにかく1歩でも先に、1歩進むたびに助かる可能性が高くなるんだ……!


========================


 もくもくと歩き続けて……どれぐらい時間が経った?


 体感としてはそこまで経過した感じはないけど、こういう状況の場合は意外と時間が経ってるから、さすがに20分経ってそうだ。

 普通に走れていたら、そろそろ東避難所に到着できたのにな……と、落ち込みかけた時、再び街にけたたましい鐘の音が鳴り響く。


【防衛に出る全冒険者に告ぐ! 要件は2点! 1点目は、現時点で1名の非戦闘員の旅行者が避難完了していない! 見つけ次第保護及び中央避難所へ護衛! 繰り返す、非戦闘員の旅行者1名が避難完了していない、見つけ次第保護及び護衛を!】


 流れてきた放送に、思わず苦笑いしてしまう。

 おもいっきりオレのことおおおお!? というか、把握されてて良かった!


【2点目、今回の襲撃対象の魔物が確定しました! 対象となる魔物はスケルトン! 各個撃破は非推奨! 誘導作戦を実施します! 繰り返す! 対象の魔物はスケルトン、各個撃破は非推奨!】


 スケルトン?

 ん? スケルトンって骸骨戦士とかのあれだよな?

 各個撃破非推奨ってどういう……って、それをご丁寧に教えてくれる人がいねぇ!

 

 サディエルかアルムかリレルの誰か、帰ってきてくれー! オレにちょっと意味教えてくれー!


 オレの葛藤に呼応するかのように、後方で何かが破壊された音がした。

 それと同時に、ガチャガチャと何かが行進するような音……その方角にオレはゆっくりと視線を向けると。


「うわぁ……本物……」


 骸骨兵士、亡霊の騎士、骸骨に霊が憑依したモノ。

 古くは中世ヨーロッパの古戦場で馬にのって現れた白骨の剣士とも言われる、ファンタジー系の王道モンスターの1つ。

 右手に剣、左手に盾と……いやはや、やっと異世界とか、ファンタジーにふさわしいものを見ることが……って、言ってる場合じゃない!


「くっそー! せめて聖水とかそういう、一発解決アイテムとかないのこの世界!? なさそうですねそうですね! この異世界、全然、異世界っぽくないし!」


 やけくそ気味に1人ツッコミ入れながら、オレも必死に移動速度を上げる。

 しかし、ガチャガチャと骨を鳴らしながらスケルトンたちが走り出してきた。

 いやこれ完全に間に合わない!?


「………嘘だろ……!」


 スケルトンたちが少しづつ距離を詰めてくる。

 距離が詰まるほど、その動きがゆっくりとスローペースになっているように見える。


 ……なんだよ、よくある死にそうになった時の走馬灯のような、時間間隔が遅くなるとかそんなやつ!


 そんなところだけ、異世界っぽくしなくたっていいのに……!


 何が怖いって、普通の魔物とは違う。静かに、無言に、こちらに剣を向けてくる。

 威嚇されても怖いけど、ただただ無言でというのはもっと怖い。


 走りたくても走れない、距離を取りたくても取れない。


 多くのスケルトンたちがオレを取り囲む。


 少し後ろから、何か声が響いてきたが……オレはそっちを見る余裕がない。

 たぶん、この街の防衛に入ってる冒険者たちかもしれないけど、声の大きさからはたぶん……


「………っ!」


 オレはぎゅっと目をつむる。

 せめて、次に来る衝撃に少しでも耐えれるように、体を固くしてその瞬間を待つだけだ。


 だけど、嫌だ……! 死にたくなんて……



「風よ、切り裂けぇええ!!」


 突然、暴風と呼んでも差し支えない程の風が……いや、嵐が吹き荒れる。

 え? ちょっとまってこの声。


「よっと!」


 何かがオレの前に着地した音がする。

 いやいや、何してんのこの人!? 王道すぎてさすがにオレもビビるよ!?


「間に合った間に合った! というわけで、ただいまヒロト君!」

「サディエルウウウウウ!?」


 目を開けて確認すると、そこには隣街に居るはずのサディエルが居た。


「何でこういう所だけテンプレ!?」

「てんぷれ……って、何かわかんないけど、ざっくり言うと『防衛』の為に隣街……正確にはその中間地点に行ってただけだよ、俺ら! んで、ギルドから連絡あったから即戻ってきただけ!」


 そういうと、サディエルは俺を脇の下に抱え込む。

 なるほど、3日かかる隣街じゃなくてその中間、1.5日ぐらいの場所かな? そこにいたから、あとは馬なりなんなり使えば間に合うって、そうじゃねぇ!


 さっきまでのちょっとシリアスで絶望的だったオレの気持ち返して! いや、死にたくなかったけど、釈然としない!


「さーて! 逃げるぞ!」

「そしてやっぱり逃げるのかよ!」

「あったりまえだろ! 普通にやったら面倒な相手だし、剣で切ってもこっちの刀身の方が先に欠けて鈍器になる! 風よ、切り裂け!」


 再び風の魔術でスケルトンたちのバランスを崩し、一気に駆け抜ける。

 そのまま、目的地である中央避難所へ。


「あ、あのさ! その各個撃破非推奨ってどういうことだよ! スケルトンだろ!? 光の魔術とか!」

「おもいっきりお昼時で太陽がさんさん照ってるのに平然と動けるって時点で、光の魔術って無意味だな!」


「聖水とかは!? 教会とか、聖職者たちが持ってそうな!」

「そこらの水しか存在しないし、せいぜい信仰心の為にこれ飲めば元気になりますよって栄養剤的なモノならあるぞ!」


「回復とか治癒系の魔術はー!? アンデットならそれで倒せるでしょー!」

「普通に骨が修復されて回復されるだけ、何で相手のパワーアップ手伝うんだよ!」


 あー言えばこういう!

 誰かファンタジーの一般的な定義を彼らに教えてあげて!


「ハンマーで叩くとか! 格闘家さんにちょっと小突いてもらうとか!」

「エルフェル・ブルグの研究結果によると、一般的な人間の骨の耐久力は健康な人で600キロだそうだ! スケルトンはその性質上、魔力やらで強化してるから想定される耐久力は1500キロオーバー。一般男性の平均的なパンチでの負荷は40~70キロで、格闘術のトップに補助術ばりばり掛けたら800キロ超えるかなって内容だけど、やってみるかい!」


「具体的な数字で反論しないでっつーか、まじでファンタジーの常識どこいったー!!」

「あっはははは! だから、異世界とふぁんたじー? に夢見すぎなんだって、ヒロト君の故郷が!」


 というか、これ倒す方法あるの!?

 聞いてる限りだと対抗手段ゼロっぽいんですけど!

 本当にさっきまでのシリアス返して!


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