12話 ご相談はギルドにて
――滞在2日目
「さてと、初のギルドだ!」
オレは昨日、白い張り紙……おそらく『本日休業』が書かれていて、休業していたギルドの前に立っている。
今日は張り紙はなし。開いてる雰囲気もある。
つまり、営業中! よし!
異世界やファンタジーの王道ギルド、行くぞー!
オレは笑顔でギルドのドアを開ける。
冒険者たちがいっぱいいるんだろうな、依頼書があったり、パーティ探してたりとか、これぞファンタジー的な感じをやっと味わえるってわけだよな!
と、わくわくドキドキしていた、10秒前のオレの気持ち返して。
「……うわぁい?」
目の前に広がったギルドには人が全然いない。
昨日の訓練とかに居た冒険者さんたちはどちらに? その人たちぐらいはいる気がしたんだけど。
「………」
思わず無言になりながら、ギルドの中を歩く。
この街は中規模よりの小規模って言ってたっけ……それのせい? いやいやまさか。
街の人が使ったりとかそういうのさぁ……もっとこう、街で一番活気のある! 的なイメージは……?
「あら、そこの君! 昨日の避難所で息切れぎれだった子でしょ!」
「ん? あっ、昨日の東避難所で案内してた」
「はい! このギルドの職員です! こんにちわ!」
笑顔で挨拶してくれたのは、昨日の避難訓練先に居た女の人。
ギルドの人だったのか。
「君、もしかしなくてもサディエル君と一緒いる子だよね、そうだよね! 彼から聞いてるよー」
「はい、って……サディエルさん、オレのことをなんて……?」
「うん、もし来たらサポートしてあげてって言われてるわ。聞いたわよ、すでに滅んだ国の末裔で、最近まで隠れて暮らしてたんだってね!」
あー……なるほど。
実はこの『すでに滅んだ国の末裔』ってのは、サディエルの案なのだ。
『君が異世界人だと、馬鹿正直に話しても誰も信じないだろう。不審がられるのがオチだな』
『の、割には3人はさらっと信じてたような……』
『俺らはいいの! んで、不審がられちゃ色々不便だから、ヒロト君は"数百年前に魔族によって滅ぼされた国の末裔"ってことにすればいい。そうすれば、外界との交流が少なかったとかで、言葉が変だったりしても不思議がられない』
その世界にあった設定ってわけだ。
馬鹿正直に『異世界の人間です!』っていうやつはいない……え? オレ? うん、居ましたここに。
ついでに、そんなオレを馬鹿正直に信じた一般通過冒険者ご一行もいました。
心の中で綺麗にブーメランが刺さったところで、オレはギルドの職員さんに対して頷く。
「はい。ちょっと色々あってサディエルさんたちに助けてもらってこの街に……それで、相談なんですけど」
「うんうん、何でも聞いて!」
「住む場所と仕事の紹介というか、候補を見繕ってもらえませんか?」
「おや、この街に永住希望?」
「悩んでいるが正解です。オレの知りたいことの為に、エルフェル・ブルグへ行くのか、この街でサディエルさんたちが情報持ち帰ってくれるのを待つか」
ふむふむと頷きながら、ギルドの職員さんは紙の山を取り出す。
「行かない可能性を考慮してるってことは……昨日息切れしていることからして、道中が不安ってわけね」
「はっきりと……いえ、そうです」
否定出来ないというか実際そうだからな……
くっそ、何でオレには都合よく困難を突破出来る力がないんだ。
あればさくっと『じゃあ行きます!』って言えるのに。
受験のこと考えたら1日すら時間が本来は惜しい状況だしさ。
「知りたいことの重要度次第かなー? 急ぎじゃないなら街で待っていればいいわけだし。急ぎだったら素直に行ってさくっと見た方が絶対にいいと思う」
普通そうだよな。うん。
「けど、体力無いと徒歩だと……うーん、そうだな。道中しっかりと歩く体力が身について安全なルートを進めば半年ってところかな」
「危険なルートなら短くなるんですか?」
「なるけど……死にたいならどうぞって感じ? この街の人たちですら絶対に通りたくないルートだから」
……この街の人……オレよりも圧倒的に体力があって、避難所に逃げる程度じゃ全然息が上がってないような、この街の人たちですら……
ダメだ。絶対にそれ、行ったら死ぬルートだ。オレが!
「さてと、住む場所とお仕事だったね。えーっと、こっちが住居情報、んでこっちが現在の求人分」
「ありがとうございます」
渡された紙を見ると、うん、やっぱ読めねぇ。
というか、読めない紙読んでも仕方ないよな……これも受け取るだけ受け取って、街に残ることにしたら、サディエルたちに読んでもらう方向かな。
しかし、本当にどうしようかな……旅に出るか……街に残るか。
「さて、これ以外にご用事またはご質問のほどは?」
「あっ、じゃあ1つ……昨日、武器屋に行ったんですけど、普通っぽい剣がめっちゃ高かったんです。あれって、何でですか?」
「ふむ? あぁなるほど、そっか、知らないのか!」
うわぁい、便利な設定だな、"すでに滅んだ国の末裔"設定。
疑問に思われてないって素晴らしい。
「結論言っちゃうと、鉄不足なの」
「鉄不足!?」
「うん。採掘された8割ぐらいがエルフェル・ブルグに納品されているの。ほら、あそこ、魔族や魔物との最前線都市ってのは聞いてるよね」
「はい、それは」
うん、確かそう言ってた。
対魔族及び魔物への対抗手段を研究する最前線の城塞都市であり、この世界の知識や情報は全部そこにあるから、困ったらそこ行っとけってやつだな。
「魔族や魔物に対抗する手段を常に模索する関係で、それに必要な素材は全てエルフェル・ブルグに最優先で運び込まれるの。型落ちした武器とかは、そのうち市場に出回るんだけど」
あっ、なるほど。
だから武器屋の前で話してた冒険者たちが『早く型落ちが流通しないもんか』って愚痴ってたのか。
無駄にバカ高かった理由もつまりは、鉄不足故か……
こればっかりは最前線で研究してもらうことを優先だから、仕方ないのか。
余計にサディエルたちが、戦闘回避を選んだのがよくわかる……入手もきついし、値段もバカ高い、そりゃそんじょそこらの高級アイテムとか装備なんかと比べたら……え? ってことは防具系もつまり。
鉄使った防具系も壊滅してるってことか!?
アルムとリレルもあまり鉄使われていない、いざとなれば石で代用できそうな武器使ってるのってつまりそういうこと!?
「ちなみに、戦う力を付けたかったら、剣以外の武器をお勧めしますよ。これは武器の値段だけじゃなくて、効率的にもだけど」
「効率で?」
「うん、剣だとあまり倒せないからね。槍か弓が一番戦果出しやすいわ」
んー? 剣じゃなくて槍か弓?
あれちょっと待てよ、槍や弓の方が戦果いいってどこかで見たような……なんだったけ。
確か戦国時代あたりで剣より槍や弓が多いのが、そのあたりに由来していたはずなんだけど。
うーん、思い出せない。なんだったっけか……まぁ、どこかで思い出すか。
「あれ、魔術は?」
「魔術はなんというか補助だからね、正直」
魔術が補助とはこれいかに。
普通、ファンタジーでは魔術は剣と並んで花形なイメージがあるのに、何でそれらの評価が低いのか。
おかしくないかな……オレが逆張りしてるはずじゃないんだけど、どうしてこう……!
「……補助って……なんで、魔術って……」
「何でショック受けているかわからないけど、魔術なんて10年20年したらどんどん上位版出るから、積極的に覚えるのって、それこそエルフェル・ブルグの研究員ぐらいよ?」
本当に……オレの中の異世界とかファンタジーの要素どこだとね。
いやもう、今更かもしれないけど……
「落ち込んでるけど、他にご質問は?」
「……気力戻るまでちょっとないです」
「うん、わかりました。そこの椅子で休憩して行ってくださいな」
「ありがとうございます」
初ギルドの感想
誰かオレの知ってる異世界に連れてって。