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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
最終章 冒険者5~6か月目
110/132

105話 最終決戦【1】

「寒さは大丈夫か、ヒロト」

「大丈夫。ガーネットウールの毛で作られたこの服、山越えをしてようやく分かったんだけど、本当に保温性が優秀なんだね。平地だと全然気にならなかったのに、今は凄い助かってる」


 足元に注意しながら、オレとサディエルは岩山から少し進んだ先にある、周囲よりも小高くなっている丘までやって来た。

 移動している間に雨も小降りになり、まもなく雨が上がりそうな雰囲気になっている。

 木陰に荷物を降ろし、武器と必要なモノの最終確認を行う。


 剣、良し。ナイフも……良し。

 事前にサディエルから受け取った閃光弾も、良し。

 麻布のシートも、折りたたんで入れてある。


 後は……ここからの襲撃に備えた下準備っと。

 じゃららっ、と小石が擦れる音がする袋を所定の位置に置く。

 岩山での休憩中に、コツコツ拾っておいた小石たちだ。これも役立てる。


「サディエルの方は? 薬の効き具合もだけど」

「だいぶいい調子だ。やっぱり、注射後は体が軽……いっつ!?」


 言い終わるよりも先に、サディエルは顔をしかめて首元を抑える。

 首元って……まさか!


「サディエル!? もしかして、痣が?」

「あぁ。こっちがこんな場所に移動したのを確認して、ガランドの奴が苛立っているんだろうな。盗賊団がこの状態で動くのは危険すぎるって反発して、それにキレでもしたんだろ。魔族には天気も足元も関係ないからな」


 彼の首元を見ると、見慣れた痣が僅かに赤黒く光っている。

 僅かに光る都度、痛みが走るらしく何度かサディエルの眉が跳ねた。


 少しすると、ようやく光がおさまって、お互い安堵のため息を吐く。


「こうなると、そろそろ来るな。ヒロト、準備を始めよう」

「分かった。小石は問題なし、あとは?」


「盗賊連中の襲撃警戒だな。ウルフと死人は真っ直ぐ来るだろうが、あいつらは流石に迂回して攻めてくる」


 馬鹿正直に真っ直ぐ来るわけが無いよな。

 と言うか、そんなことするような盗賊団が、この山で活動出来るとは思えないわけだし。


 オレは周囲を見渡す。


 小高い丘のようなこの場所は、程よい広さを確保出来る絶好の戦闘スペース状態だ。

 その反面、オレたちが警戒している方向以外からも容易に登ることが出来るわけで、ウルフや死人を囮にしている間に背後を取られる可能性は十分ある。


 最も、こっちがその可能性を見落とすわけが無いんだけどね。


「となると、オレが逃げる時はこの下り坂が最適ルートになるってわけか。で、移動開始と同時に閃光弾でアルムたちに連絡して、合流」

「あぁ。山道へ向かえば、アルムたちと合流出来るはずだ」


 内容再確認。まず最初に来るであろう、ウルフ系の魔物と、死人の襲撃を退ける。

 そこから盗賊団、そしてガランドとの戦闘という流れでの4連戦。


 とにもかくにも、こちらの消耗を最小限に。これが重要になる。


 ガランドとの決戦で重要な『武器に付与された力』の解放タイミング、これも忘れてはいけない。

 早い段階でこれを見せてしまうと、ガランドが警戒して攻撃を当てることが出来なくなる可能性が高い。

 使うならば、致命傷を与えるチャンス1回きり。


 そのチャンスを見逃さない為にも、アルムやリレルとの合流は必須。

 目まぐるしい戦いになるけど、やるしかない。


 何よりも、今回だけは失敗出来ない。

 失敗すれば最低でもサディエルが死ぬし、最悪オレたちの命も危ない。


「ヒロトの予想では、ガランドは盗賊連中が全滅する……もしくは、特定条件が揃わない間は出てこないんだよな?」

「うん。サディエルを疲弊させる、あわよくばダメージを与えることが目的だからね。唯一警戒すべきは、オレやアルム、リレルが人質に取られる場合ではあるけど……こっちの策にハマってくれれば、少なくともその心配はなくなる」


「あんな理由でガランドの奴がそんな事するのか、ってのがいまいち分からんが、ここはお前の所のファンタジーを信じるのが一番だ」


 一件、くだらないような理由ではある。


 だけど、魔族の特徴は常に余裕綽々、人間は取るに足らない存在と舐め腐っている上に自信過剰で、プライドだけは無駄に高い。

 おまけに、ガランドは結果的とは言え、散々サディエルに煮え湯を飲まされ続けている。

 自分の手でこれまでの恨み辛みを晴らさないと気が済まないからこそ、こんな回りくどいことをしているわけだし。


 盗賊たちにサディエルを殺させるんじゃなく、捕まえさせようとしているってのが何よりの証拠だ。


「とにかく、サディエルは盗賊が来たら頑張って!」

「あっははは……頑張るよ。さて、そろそろ警戒だ」

「了解」


 オレは小石を手に取り準備をする。

 ウルフと死人は、氷の魔術で凍らせていくわけだけど……サディエル1人だけだから、絶対に途中から攻撃が間に合わなくなってしまう。


 そこでオレの出番だ。


 少しではあるけど、小石を使って動きを止める。

 地味ではあるが、弓も使えないし、魔術も使えないわけだから、これが一番手っ取り早い。


 仮に魔術が使えたとしても、使える属性がだいぶ制限されているしな。

 雨のせいであちこちが濡れているわけだから、雷はまず厳禁。

 森林の中だから、山火事に直結する火もアウトだし、地も目の前の地面を使っての攻撃になるわけで、下手に抉ったら地滑りが起きかねない。


 つまり、こちらが取れるのは風と水の2種類。

 ……気軽に使えないのが本当につらいよな。ここは魔族と一緒でファンタジーパワーで問題なしにして欲しかった。


「ヒロト、来たぞ」


 雨も止み、雲の影から太陽の光が漏れだす。

 それと同時に、ザザザッ、と草を掻き分ける音がした。


「作戦開始だ。まずは右側から凍らせる」

「オッケー、こっちは左側に!」


 サディエルが魔力を練り上げて、駆け上がって来るウルフたちを次々に凍らせる。

 その隣で、オレは集めておいた小石を次々と投擲し、少しでも時間を稼いで行く。

 凍ったやつも、自重で滑り落ちて後から駆け上がって来る連中の進路妨害をしてくれて、なかなかいい調子だ。


「ヒロト、交代だ! 俺が左、ヒロトは右!」

「その前に、第二陣が来たみたいだよ!」


 視線を少し先に向けると、昨日凍らせたはずの死人たちがゆっくりと近づいてきている。

 ウルフたちとは違って、こちらはスローペース。

 オレの小石投擲が無くても問題がないわけだから……


「椀飯振舞だ! 残りの小石を食らえ!」


 小石が入った袋をひっつかみ、残り全てを一気にウルフ目掛けてまき散らす。

 散弾の如く降って来た小石にウルフたちがひるみ、その瞬間にサディエルが一気に凍らせた。


「次、後方警戒頼む!」

「わかった!」


 オレは剣を抜き放ち、サディエルの背中を守る位置に待機する。

 ふと、風がオレの頬を撫でた。


「これでよし、矢が飛んできても風の魔術で逸れる、安心して警戒してくれ」

「サンキュー、サディエル。助かるよ!」


 周囲にある少し疎らな森林を必死に警戒する。

 今のところは大丈夫か? と、気を緩めようとした時、僅かに人影が見えた。


「来た、盗賊団!」

「こっちは死人を全部凍らせ切った! これで盗賊たちに集中出来る!」


 汗を拭いながら、サディエルも自身の剣を抜き放ち、姿を現したフェアツヴァイ盗賊団を睨む。


「なかなか手際の良い対応、お見事。ガランドさんが警戒するわけだ」


 トントンと鞘に収まった剣で自身の肩を叩きながら、あの盗賊団のリーダーと思われる人物が前に出てくる。

 こちらを見下すように、挑発するように、品定めするかのような視線が気持ち悪い。


 そのまま鞘を持ち、ゆっくりと剣を抜き放つ。


「お前ら! そっちの茶髪のにーちゃんを捕まえろ! 黒髪のガキも生かしていいが、抵抗するなら殺せ!」

「「「おう!」」」


 リーダーの言葉に、盗賊団の連中が雄たけびを上げる。

 よし、次のフェイズに移行だ。


「サディエル、行ってくる」

「あぁ、アルムやリレルによろしく」


 素早く閃光弾を準備して、空中に向けて放つ。

 ボンッ、と言う破裂音と共に強い光が発せられ、まだ薄暗い空を彩った。


 同時に剣を鞘に納め、事前に準備しておいた麻布のシートを広げて座り、一気に坂を滑り降りる。


 あの時のように、うっかり足首をくじかないように注意しながら、スピードが落ち切るまで滑り降りる。

 地面が平行になると同時にスピードも落ちたのを確認し、両足でしっかりと停止。

 すぐに麻布のシートから立ち上がって、そのまま山道の方向へと走り出す。


「"光れ"! マジーア・ペンタグラム!」


 首元からマジーア・ペンタグラムを取り出し、オレは言葉を唱える。

 すると、はめ込まれた宝石のうち、"4つ"が光り輝く。

 4つのうち、2つの光具合はオレらとほぼ同じぐらい……ってことは!


「アルムー! リレルー!!」


 マジーア・ペンタグラムに "消えろ" と命じてから、大きく息を吸い込み、2人の名前を叫ぶ。

 すると、少し先で僅かに何かが光った。


 もしかして……!


 オレは光の方向へと全力でダッシュする。

 草を掻き分け、進行方向を妨害する木々をよけ、ようやく山道が見え……その先には……


「ヒロト!」

「ご無事でしたか!?」


「アルム! リレル!」


 サディエルの予想通り、2人は近くまで戻ってきていた。

 アルムやリレルのことだから、オレらが逃げる場所に関してある程度目星をつけて、そこから山道との距離を確認し、最も合流しやすい場所で待機しているだろう、っていう考察だったけど、流石である。


 山道に飛び出し、オレは2人に抱き着く。


「良かった! そっちも無事だった!」


「当たり前だ」

「当然です。ヒロト、怪我はちゃんと消毒しましたか?」


「した! それよりも、急ごう! 今、サディエルは盗賊団と交戦中。そう間を置かずに、ガランドも襲ってくる!」


 2人が頷いたのを確認し、オレはすぐさまUターンして元来た道を走り出す。


「ウルフと死人たちはどうされました?」

「なんとかしたよ! ここから先に少し小高い丘があって、そこで高所の利点を生かして片っ端から凍らせた!」

「お前らな、やっぱり変な作戦を思いついていたのか」


「変って失礼じゃない!? で、ここからなんだけど、サディエルが上手く立ち回れば、オレらが到着したタイミングで、盗賊団が壊滅目前か壊滅まで行っているはずだ!」


 オレの言葉を聞いて、アルムとリレルは首を傾げる。

 そう言う反応になるよね、作戦の元がオレの世界のファンタジー基準なわけだし。


「どういうことだ?」

「ガランドが嫌がっていることを、やってやるんだよ。あっちが嫌味返しして来たなら、こっちもやり返すまでだ!」

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