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1話 はじまりは3カ月前

 オレ、嵯峨崎 博人(さがさきひろと)が異世界に来て、今日でちょうど3カ月となる90日目。


「うおおおおおおおお!」


「よし、今だやれ! ヒロト!」

「何も考えんな、そのまま振り下ろせ!」

「やってしまってください!」


 オレの剣が、目の前にいる魔物の右肩に突き刺さる。

 同時に、魔物特有の血の匂いが鼻をつく。


 そのまま力の限り、相手を切り裂くまで!


 オレが想像しているよりも、はるかに長い時間、剣に力を込めている気がする。

 こう、もっとスッパリと斬れるもんだと思ってた、だってそれが『普通』のイメージだったから。

 魔物にだって骨はある、筋肉だってある。となれば、その部分は刃物が通りにくいのは必然なはずだ。


 だけど……!


「負けて……たまるかあああああ!」


 魔物が無事な左手を高く掲げ、オレに向けて振り下ろそうとして来た。

 それよりも早く仲間の矢がそれを射抜いて動きを抑制する。

 その間に、さらに両手に力を加えて、押し込むように斬り伏せた。


 右肩から斜めに左に切断された魔物はそのまま倒れ、オレは事前に言われてた通りに、大きく後ろに飛び下がり……バランスを崩して倒れた。

 皆がオレの前に出て、魔物が動き出さないかを警戒する。


 長い時間のようで、短い数秒の時を経て……リーダーであるサディエルは安堵のため息をついた。


「よしっ、起きてこないならもう大丈夫だ。全員お疲れさま! ヒロト、大戦果だな!」


「あっははは……魔物って、あんなに斬れないもんなんだね」

「そりゃな。骨もあるから、下手な場所を切ったら、剣が刃こぼれして脂肪も付着する。その結果、殺傷力が無くなるから、ただの鈍器だ鈍器」


「鈍器って……剣が鈍器……斬れなくなるって……あははは……あっはははは! ほんと、なんだよこれ、おっかしー!」


 オレにつられる様に、サディエルたちも笑い始めた。

 笑いながらも、サディエルはオレに手を伸ばしてくれる。

 安心して彼の手をつかんで立ち上がろうとするけれど、今頃になって恐怖感が戻ってきたみたいだ。

 立ち上がれなくて、つい眉を下げてしまう。


 仕方ない、初めてだったもんな、と3人は次々のオレの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、しばらく座っているように言ってくれる。


 サディエルは、他の2人に魔物の解体と、死臭を含めた匂い消し用のお香を焚くようにお願いし、自身は周囲を警戒する役目についた。

 そしてオレは、ゆっくりと空を見上げて、喜びを噛み締める。


 これは、異世界で出会った冒険者の仲間たち一緒に、自分に出来る事と、元の世界へ帰る方法を探す物語である。


========================


 さて、ここで3カ月前の話をしようと思う。


 始まりは単純なことだった。

 サディエルたちが、とあるダンジョン内で見つけた謎の魔法陣、そこを調べていた時のこと。

 魔法陣が何かの作用で発動して、オレがそこに召喚された。それだけ。

 そう、別に神様がとか、王様が魔王を倒すためとか、そんなことは一切合切なしでこれだ。


 いきなり死んで、とかじゃないだけマシだろうけど。


「……へ?」


 オレ自身は放課後の学校、誰もいない教室で本を読んで居た。

 そしたらいきなり魔法陣が出現して、異世界へ飛ばされた。ざっくりというとマジでそれだけだ。


「うおっ!? 人間!? えぇ……君、どこの国出身? 見た感じだと学生っぽいから王都とかの研究職候補か?」

「転移の魔術なんて存在したのか? マジで」

「……数百年前からそれ無理って結論付けられていますし、魔族では?」


 うわー……いきなりファンタジーな単語が羅列されてる。それが当時のオレの感想だった。


 王都とか、転移魔術とか、魔族とかもうほんとそれである。

 なんというか、普通ならもっとあれやこれやと喜ぶこととか、驚くこととかいろいろあったんだろうけど……というか、実際に異世界飛ばされたらひゃっほい! と喜ぶ前に混乱するよ。


 神経図太いよな、世の中の異世界行った人たち。


「えっと……どちら様、ですか」


 残念ながらオレの反応は至って面白みがないものだった。

 3人は互いの顔を見て、それからまずサディエルが右手を挙げて


「じゃ、俺から自己紹介か?」

「そーじゃね? 話は出来そうだし」

「ですね」


 と、軽い話し合いが行われて自己紹介ということになった。


「俺はサディエル。このパーティのリーダーだ、よろしく少年!」


 右手を挙げたサディエルは、茶髪に赤眼、漫画や小説でもよく見る冒険者って感じでロングブーツにズボン、胸当てにマントとショルダーガード、腰には剣を3本帯剣している。

 本当に、捻りようがないぐらい剣士である。

 年齢は……20歳は行ってるのかな、18前後でも不思議じゃない見た目けど。


「じゃあ次は僕で。アルムだ、アーチャーをやってる」


 次に声を掛けてきたのは、サディエルよりもさらに身軽そうな恰好をしているアルム。

 こちらは濃いめの青髪に翡翠の目、基本的なスタイルなのか、ロングブーツにズボンに胸当てまでは同じ。

 武器はアーチャーと宣言した通り、弓と弓矢を格納する弓筒を肩にかけ、腰には短剣がこちらも2~3本といういで立ち。


「最後は私ですね。こんにちわ少年くん、リレルと申します。ヒーラー兼ランサーです」


 そういいながら、自身の得物である槍を軽く掲げたのは、銀髪の長い髪を一纏めにした少女っぽい女性。

 恰好はやはりサディエルたちと大差がない恰好だ、トレンドなのか?

 槍以外は腰にやっぱり短剣がある。


 しかし……すごく、すごくふっつーのパーティだ。

 中衛がヒーラーなのが少し心配な気もするけど、ふっつーのパーティ。

 本当に、それ以上のコメントのしようもないぐらい普通すぎる。


「それで、君の名前は?」

「嵯峨崎博人、です」

「サガサキヒロト、長くて変わった名前だな!」


 苗字と名前の違いわからないタイプ!?

 ただ、貴方に言われたくない気がします、名前の長さに関しては!


「というのは冗談で、サガサキ君だな!」


 あ、違う。この人のジョークだった。

 って、ちょっと待て。この世界ってもしくは外国みたいに苗字と名前が逆だったりするのかな、ファンタジーだとよくあるパターンだけど。


 いや、もしかしたら苗字は王族とか有力者だけが持つ特殊な……


「ねぇサディエル。響きから"ヒロト"が名前じゃない?」

「いや、"サキヒロト"かもしれんぞ。苗字が"サガ"でさ」

「んー……どっちかっつーと、ヒロトの方が名前っぽいな」


 オレは思わずガクッ、とずっこけるような動作をしてしまう。

 苗字って概念はあるのか。それにしてもこの人たち、もしかして天然かアホかどっちなんだ?


 そんな混乱をしているオレを見て、3人は小さく笑って


「で、緊張はちょっとは解けた?」


 サディエルがそう問いかけてきた。

 その言葉に、オレはぽかんと、結構、間抜けた表情をしてしまったと思う。

 当時を思い返すと、になるけど。


「え?」

「お互いびっくりしてるけど、君だっていきなりこんな場所に来たら驚くだろ。見た感じ魔族っぽくもないから、人間だろうし」

「えっと……はい……」


 もっと言い方とか、いろいろ質問したいことはいっぱいあるけど、まじで混乱するもんだな。

 だから、本当に今にして思えばある意味トンチンカンで、ある意味で大正解の質問をオレは3人にすることになった。

 まぁ、この質問内容を特に疑問視せずに納得してしまう彼らに関しても、オレはツッコミ入れたくなるんだが……それは一旦脇に置くとしよう。


「あの……ここって、異世界ですか?」


「え?」

「は?」

「いせかい……?」


 これが、オレと、サディエルたち冒険者パーティとの出会いだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王道にて最高のプロローグ [一言] とにかく読みやすくテンポがいいプロローグ。 執筆の努力がよくわかる。 何度も推敲したのだろうと、執筆力が高い点が良い。 この先別の作品を出したとしても…
[一言] 情報量が凄まじい…
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