鬼畜眼鏡王子は婚約者を溺愛する
久しぶりに友達に会うのが目的だったはずなのに・・
@短編その57
「あんたたちっ!!ジールになにしてんの!!」
「わー、鬼バラが来たーー!!」
ガキ共数人が散っていくと、人だかりだった所の真ん中に、一人の子供が蹲っていた。
だが『鬼バラ』はその子をほったらかして、散ったガキ共を追い、片っ端からぶっ叩いた。
全員成敗し、まだ蹲る子供に側に寄って、ペシ、と頭を叩いた。
「ジール。行くわよ」
「バーバラ・・・」
「こら、しっかりしなさいっ!」
泣きべその彼に手を貸して立たせ、二人は家に戻っていく。
少年はジール、10歳。
療養のために、バーバラの家に来た男の子だ。
父の親友の子だそうで、バーバラより2つ年上だったが、病弱な所為かバーバラよりも小柄だった。
しかも黒縁の眼鏡を掛けていて、近所のガキ共の格好の的となってしまっていた。
バーバラは8歳だが、ジールやガキ共よりも大柄で、ジールの用心棒をしていた。
父親が、彼を守ってやれと言ったからだ。
(いや言われなくてもやるけど)
細めの木刀を手に、バーバラはふんすと鼻息荒くジールの前に立ちます。
不細工な太いフレームの黒眼鏡を取ると、定番の超絶美少年。守りたくもなるってもんです。
そのうち彼は元気になり、一緒に勉強をしたり、剣の稽古や魔法の稽古をするようになりました。
もうすぐバーバラの身長を超すほど身長も伸び始めた頃・・・
3年間ジールはこの家で療養生活をして、元気になって家族の元に帰っていった。
あれから4年が過ぎ・・・
15歳になったバーバラは、王子様のお妃候補選抜のために、王都に行くことになった。
この国では、王子が17歳になると婚約者を国の貴族令嬢から選び出す慣しで、公爵、侯爵、名誉伯の妙齢の令嬢達が王都に集まるのだ。
王都にはジールがいる。
出来れば会いたいなぁ・・と思っていた。
どうせ王子様の妃になる事などない。王都に行く目的は、懐かしいジールに会うことがメインだった。
そして、選抜のために王城の大ホールで、彼女は大いに驚いたのだ。
「静粛に!ジールハルト王子殿下のご登場です」
緞帳から現れた人物は、壇上に登る。
(あれ?この人・・王子だよね?)
壇上に立つ一人の青年は、金細工のフレームの眼鏡を掛けていて。
綺麗なプラチナブロンド、透き通るようなエメラルドカラーの瞳。
(うそ。ジール?4年ほど離れている間に、ジール・・・大きくなったなーー。
しかも、美少年になった。17歳だっけ。あのブサイクなメガネよりも、金縁、かっこいい!
なんだ。ジールって王子様だったのか・・・って!
あのガキ共、よく殺されなかったわね。今思うと、とんでもないガキ共だったわよ)
バーバラは感慨ひとしお・・ふと、王子と目が合った。
(やー、久しぶり!元気だった?)
バーバラは手を小さく振ってニコッと笑った、が。
彼はすいっと目を逸らした。
(あれ?気付かなかったのかな?)
今からお茶会となる。王子と直でお話が出来るのだ。体のいい面接というワケだ。
バーバラは名誉伯である宮中伯だが伯爵家なので、順番が来るまでは別席で待つ事となった。
彼と世間話をするわけにもいかない感じなのは分かっているが、折角会えたのだ。
会えて嬉しいというべきか・・・
まさか王子とは、彼女も思わなかった。父の友人というのだから、精々どこかの貴族の子供と考えていた。
でも、まあ・・・自分は妃候補にはなれないのだから・・・御転婆令嬢と有名であった。
(・・ジールとは友人だもんね)
と、思ったら何故か胸がチリッと痛んだ。
令嬢達が王子とお茶の相手に3〜4人で一組、次々呼ばれていく。
だが彼女の番は、なかなか訪れない。自分の家よりも格下の令嬢が、先に呼ばれていくのを見て、少し動揺した。
結局彼女の番は、一番最後、しかもひとりだ。
待ちくたびれてウトウトと眠っている彼女を、誰かが肩を揺らす。
「起きなさい」
「・・・はっ!いけない、寝ちゃった」
「・・ふふっ。相変わらずだな・・鬼バラ」
目の前にいるのは、ジールだった。眼鏡を掛けている所為か、知的な雰囲気だ。金縁がよく似合っていて、イケメンだなとバーバラはちょっと見惚れてしまう。
「コラ、鬼バラ言うなーー」
「久しぶりだな、バーバラ」
「さっき手を振ったの、気付かなかった?」
「気付いたけど、返事をするわけにもいかないだろう?あんな壇上で」
彼女は手を振った。壇上にいる彼が、返事だからと手を振るわけにはいかない。確かに。
「そーだね。でも気付いていたならよかった!久しぶり!でも大っきくなったねーー!」
「182センチ」
「うわ!伸びたーー。ガリガリのおちびだったのに!元気になって良かったね!」
「君のうちの御蔭だよ。あの地は空気も良かったし、水も綺麗で、バーバラの家の食事は本当に美味しかった」
「侍女の苦い薬も、ね」
「あれを飲むのは毎日苦痛だった!」
そして二人は笑った。
ジールの本名を今知ったと言うと、にっこり微笑んだ。王子であることは伏せて療養していたそうだ。
それに王城では権力争いで命を狙われていたので、父王の親友の家に療養ついでに匿ってもらっていたと言うのが真相だった。どうやら知らないうちに毒を飲まされ続けていた所為で、体の成長も遅かったのだと。
薬を飲み続け、毒素を体外に排出して、ようやく普通の体に戻れたそうだ。
「バーバラの家には、恩義がある。楽しい子供時代も過ごすことが出来た」
「それはないよね?あのガキ共に虐められていたでしょう?」
「・・・ヤキモチを焼かれていただけだよ。僕が君の傍にいることが気に入らなかったんだ」
「ヤキモチ?それはないない!」
バーバラは、ハハハと笑い飛ばしたが、王子は苦笑するばかりだ。
「君、覚えている?夜になると、僕のベッドに潜り込んでしがみついて寝ていた事」
「・・だって、怖い事言うんだもん」
いつだったか、古い家には怪談というものが、どこの家でも一つ二つあるものだ。
その一つを、父親が話してくれた。なかなかに話上手な父が、怖い雰囲気で語って・・彼女を本気で怖がらせ、泣かせたのだった。彼が帰るまで、彼女が彼のベッドで寝る習慣は続いた。
「13歳の男と11歳の君との同衾のせいで、僕は王都に戻ることになったんだけど」
「え?そうだったの?」
「覚えてなくて良かった。ついその気になって、君の寝巻きを剥がしたところで、『魔侍女』に見つかった」
魔侍女とは、あの苦い薬を調合した侍女だ。
ジールは笑って言うけれど、冷静に考えると・・不届きでふしだらだ。
「え・・・そんなことあったの?」
「若気の至りというか」
「・・・・突然帰っちゃうから、心配したのに!」
そうだったのーー?
というか、王子様との会話とは思えないね。あ、そっか。私達は友人だもんね。
権力争いまで起こる王城で、気が許せるのは私くらいだから、気安く話してくれるのね。
本当に久しぶりで、近況とか昔の思い出話とか、長々とお喋りしたかったのかな?
だから順番、最後にしたのね。
さて、そろそろお暇・・・と思っていると、王子は微笑んで手を取った。
「バーバラはここに泊まればいい」
「え?でも」
「もう君のご両親には連絡を入れているから大丈夫だよ。夕食も一緒に取ろう」
「・・分かったわ」
正直彼とはまだ一緒にいたいと思っていたので、お呼ばれにも素直に応じた。
夕食まで部屋で休もうとすると、城のハウスメイド達が彼女を取り囲む。いじめか?と身構えるが、
「さあ、綺麗に磨きあげて差し上げます!」
女五人がかりで、彼女を風呂に入れ、マッサージ、化粧、髪結、イブニングドレスに着替え・・・
「まあ、とてもお美しいです!」
五人の女達は褒めそやす。バーバラはちょっと顔が引きつった。
確かに美しくなった自分が鏡に写っている。バーバラは心の中で呟いた。
(それはあなた方の技術の賜物ですよ!)
女性達は生暖かい視線でバーバラを見ている。
「王子様も、バーバラ様にメロメロになること請け合いです!」
「い?」
・・・どういう事なの?メロメロって・・
私の姿を見て、メロメロ、ですか。ちょっと楽しいかも。なるかなー、メロメロ。
「だって、婚約者が自分のために美しくなるのは、喜ばしいですものね」
待て今何を言った。
「バーバラ、支度は出来たかい?・・ああ、とても綺麗だよ、バーバラ」
あ。ジールだ。
あなたの方が綺麗だよ・・メガネがキラキラって、うん。凄くかっこいい。
いやそれよりも・・
「さあ、おいで。僕の婚約者」
なんか今さらっと言ったーーーー!!さらっとーーーー!!!
それいつ決まったーーー??
バーバラの愕然として呆けた顔を見て、王子がおでこにキスをした。
「僕が13歳の時にはもう決まっていたよ。責任を取れって、君の父上が言うから」
「ではなんで婚約者選抜など」
「とりあえず婚約している事実を黙っていたからね。しないと面倒だったから。選んだという体裁を整えておこうと」
「ほう」
「世間にも、君にも婚約者のいる事を教えなかったのは、ほら。ここは権力争いが絶えないって言っただろう?君に被害が及ぶのを防ぐためだったワケ。御免ね」
「大変だね・・ジール。私はあなたの味方だからね」
「うん、それは知っている。バーバラは僕の一番信頼出来る人だから」
「そう言ってもらえると、うれしいな」
「それに、そう簡単死ななそうな君だし」
「なんだとぅ」
「一緒にいられるように、君には剣も魔法も習わせた。そう簡単には死なないように、自身が守れるように」
女なのに剣や魔法を何故習うのかと思っていたら、それが理由だったと彼女は知った。
てことは何か。もう知らないうちに、ジールとは婚約してたって事か。
で、自分の身は自分で守らないといけないワケか。
「恐いな」
「もちろん、僕が守るのは当然。君は僕をずっと守ってくれたんだ」
小さい頃、ジールはか細くて、小柄で、へなちょこだった。
今は私を守ると言ってる!!成長したねぇ!!近所の子供の成長を喜ぶ我が母の気持ちがわかったよ!
あのガキ大将、今はうちの領地の文官になっているんだよ。あの乱暴者が、事務職だよ。
母上ったら、『すごいわねー。あの子、勉強頑張っていたものねー』って感動してたわ。
(私を、守る。
・・・・・・・・・・・・
いやあ、照れますなぁ〜〜〜、たはぁ〜〜〜)
「・・・魔法と剣、そして勉学は大した成績を収めているようだね」
(ん?ジールの雰囲気が、なんか・・変わった?)
彼を見ると・・・にっこり笑っている。
笑っているんだけど、どこか・・恐い?
「明日からお妃教育に励んでもらおうか・・・言葉使いやマナー・・・なっていないね」
「え?ええ?ジール?」
「母上は早くに崩御したから、僕が教えるからね。覚悟して」
「ぎゃーーーー」
「そういう声!『きゃーーー』だろう?年頃の娘が、『ぎゃーー』は無かろう!!」
「え、あ、うん。そうだねぇ」
「『そうだねぇ』じゃないっ!!そうですわね、だ!!」
「細かいぃ・・」
「僕の妻、妃になるんだから。外国語を教えるレベルになるぞ、これ」
優しいジールが、鬼畜眼鏡王子に変身しました。
鬼畜眼鏡王子、爆誕!!
さっきまで『にこっ』と笑ったら甘い笑顔に見えたのに、今は『ニヤリ』と笑うとゲス顔に見えます。
どこも変わっていないのに、何故ーーー!!!
翌日登城した父親と話をするが、
「婚約の件は、内緒にしていてすまん。殿下にも都合があるし、お前の身も守るためだ。そうそう、お妃教育という名の、マナー講座はしっかりと教えてもらえ。お前は本当、マナー教育を嫌がって手を焼いていたんだ。ジール殿下直々教わるんだ、粗相がないようにな」
『やれめでたしめでたし』な顔をして、仕事に行ってしまった。
「さあ、バーバラ。行きましょうか」
ジールがゲス顔でこちらを見ます。笑っているんでしょうかねぇ・・笑っているんでしょうねぇ・・・
重い足取りの私の手を、嬉々として繋いで先を行くジール。
教育用の部屋の中に入ると、広い部屋・・の片隅には何故か寝台がありました。
思わず彼をガン見したら、これまた麗しいゲス顔で微笑みます。
「お妃教育にはね、夫となる相手との夜伽も含まれているんだよ」
「ひえっ」
王子殿下、それはそれは熱心に、お妃教育を施したことは言うまでもありません。
国内はもちろん、誰もが褒め称える王子ですが、たった一人だけは『鬼畜眼鏡』呼ばわりです。
「なに?君、僕に不満でもあるのかい?」
「・・・・好きぃ」
「宜しい」
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。
連載もあります〜。