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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
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会社への旅路

ルイは旅先が決まり、ワンピースの裾をはたきながら身嗜みを整えている。


ぼくは自分探しの旅先が会社かと、少し凹みながらルイに聞いた。

「ルイ、会社にはどうやって行くん?死神の能力的なやつで瞬間移動とかするん?」

ゲームクリエイターであるぼくは、そんな特殊能力に憧れていた。


「え?そんなのムリだけど?」

なにを当たり前なこと言ってるの?って言いたげな顔でルイはこちらを見ている。


「え?死神だから空飛ぶとか、瞬間移動とか、なんか魔法的なこと出来ないん?」


「は?そんなことできるわけないじゃん。ルイは霊界からお迎えに行く人のところには直接行けるけど、それ以外は基本徒歩か電車で移動だよ?」

ルイはやれやれと肩をすくめている。


「マジっすか!」

軽くショックを受ける。きっと霊体なら空も飛べるはず!って信じてたのに…

実際、飛ぼうとしてみてもジャンプしかできない。

せいぜい扉や壁をすり抜けるくらいしか出来ないようだ。


そんなぼくを無視してルイは質問してきた。

「ところで、会社ってどこなの?」


軽いショックを引きずりながらも、気を取り直して現実を受け止める。

「会社はここから電車で1時間くらいだよ」


「そう。それじゃ、電車で行きましょ」

ルイは当たり前のように駅に向かって歩き出した。


ぼくは慌ててルイを追いかけて駅へ向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


いつも通勤で利用していた最寄り駅に着いた。

今はお昼を少し過ぎたくらいの時間のため、駅の利用客は少ない。


ルイは駅に着くと、振り向きながら聞いてきた。

「お兄さん、どの電車に乗ればいいの?」


「あぁ、1番ホームの普通電車だよ。あと、10分くらいでくるよ」

ぼくは定期券も財布も持ってないことに気が付き、どうしようかと考える。

家はもう空き部屋だし、ポケットに小銭も入ってない。


ルイは、ふーんと言いながら改札口へ進む。


「ちょ、ちょっと!切符は?」

ぼくは慌ててルイを呼び止めた。


「え?切符?」

ルイはキョトンとしてこちらを見る。


「電車に乗るのに切符がいるやろ。今までどうやって電車に乗ってたん?」

ぼくは不思議そうな顔をしているルイに詰め寄る。


「え?だって、ルイは誰にも見えないよ?」

ほらっと言いながら、駅員さんの目の前で手を振る。

駅員さんは退屈そうにあくびをしながら改札機付近をぼんやり見ていた。


「そうか。誰もルイのことも、ぼくのことも見えないんやった…」

少し寂しく感じながら納得し、ルイに続いて改札口を通過する。

駅員さんの前を通る時は、少し悪い事をしているようでドキドキした。心臓は止まってるのに…


改札口を通過し1番ホームへ向かい、しばらくすると電車が到着した。

目の前の扉が開き、車内へ入る。

車内には10人くらいしかお客さんは乗っていなかった。

とりあえず、近くの座席にルイと並んで座る。


「ルイ、ぼくたちは誰にも見えないんだよね?」

窓から外を見て少し上機嫌なルイに話しかけた。


「そうだよ」

ルイはふんふん♪と鼻歌を歌いながら返事をする。


「だとしたらやで?ぼくたちが座ってる座席に誰かが座ってくるとかある?」

ぼくが座ってる膝の上に、おっさんが座ってきたらどうしよう…

と、不安になる。


「たまにあるけど、たぶん大丈夫よ。みんなルイを見えないけど、なんとなく避けてくれるからさ」

ルイは「ふふふ」と笑っている。


ちょうど座席を探してる40代くらいのサラリーマンがやってきた。

ぼくたちの座席付近を見ると、ふと違う座席を選んで座り、ふぃーと息を吐いていた。


「ね?大丈夫でしょ?」

ルイはニコニコして、また窓からの景色を楽しんでいる。


プルルルル

発車のベルが鳴り、扉が閉まる。

電車はゆっくりと動きだした。

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