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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
16/20

本当に死ぬまでに『しなければならないこと』

今日の母親は朝から上機嫌だった。

溜まっていた洗濯をし、部屋を掃除する。

午前中に買い物へ行き、久しぶりに昼食を作っていた。


こんな元気に動き回る母親は久しぶりに見たような気がする。

ぼくが生きていた時は、当たり前過ぎて気に留めていなかったのだと気がついた。


夕方になり、玄関がガチャと開くと

「おばちゃん、おるー?」

いつものようにサヤカが家にやって来た。


母親が返事をする前にパタパタとリビングに上がりこんできた。

「あらあらサヤカちゃん、どうしたん?」

母親はキッチンから手を拭きながら出てくる。


息を弾ませながらサヤカは話し出した。

「おばちゃん聞いて!サヤカな、夢でサトルと話してん!でも、何を話したか覚えてないんよねぇ」

サヤカは肩を落とし、『ガッカリ』を全身で表していた。


「サヤカちゃんも?おばちゃんも昨日、サトルが来てくれたんよ」

母親もニコニコしながら話している。


2人は昨日のぼくの事で盛り上がっていた。

故人が夢枕に立って、何か話をする。

これだけで遺族はこんなにも生き生きと出来るんだと、ぼくは初めて知ることができた。


「ルイ、ありがとう」


「どういたしまして」

ルイはニッコリと笑った。


ぼくは2人を見て、もう自分の未練はなくなったのだろうか?と、自分の体を見るが、なにも変化はなかった。まだ、何か未練が残っているようだ…




ふと母親を見ると、不意に母親は黙り込み俯いていた。


「どうしたん?」

サヤカは母親の様子を伺っている。


母親は意を決したように口を開いた。

「サヤカちゃん、ちょっといい?」


「はい…」

サヤカも真剣な顔になり母親を見る。


母親は立ち上がり、サヤカの手を引いてリビングの隣りの和室に向かう。

和室には仏壇があり、ぼくの遺影があった。


母親は仏壇の前に座り、サヤカに座るように促す。

「本当はね、コレをサヤカちゃんに渡してはダメだとわかってるの…」

母親は仏壇の引き出しから小さな箱を取り出した。


小さな箱は赤黒くなっており、元の色が分からなくなっていた。


「アレは!」

ぼくはその見覚えのある小さな箱を見て声をあげてしまった。


急に目の前が広がるような感覚があった。

視界を遮っていた曇りガラスを一気に取り除かれたような、そんな感覚だった。


ぼくは思い出した。

ぼくが本当に死ぬまでに『しなければならないこと』を思い出したのだ。


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