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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
15/20

…しってる

サヤカの家はぼくの家の3軒隣りだ。


「ちかっ!!」

ルイは思わず叫んだ。


「いや。まぁ、ご近所さんの幼馴染みやし…」

はははと、乾いた笑いでごまかす。


今は深夜2時。もうサヤカも眠っているだろう。

「おじゃましまーす…」

誰にも見えてないし聞こえないのだか、なんとなく小声でつぶやき玄関をすり抜ける。


サヤカの家もぼくの家と同時期に建てられた団地の一軒なので、間取りはほぼ同じだ。

ぼくは何度も来ていたこともあり、迷わずにサヤカの部屋に到着した。


サヤカの部屋は扉が閉まっていた。

中からは何も聞こえない。やはり眠っているようだ。


そおっと扉から顔だけをすり抜けさせ、部屋の中を確認する。

部屋の中は淡いピンクを基調とした家具が並んでおり、花の香りがしている。机の上にはポプリが置いてあり、壁にはドライフラワーが飾ってある。

ベッドやタンスの上には、たくさんのクマのぬいぐるみが並んでいた。いつ来ても可愛い部屋だ。


「お兄さん、だらしない顔してるよ…」

ルイの冷たい視線が突き刺さる。


部屋の中央には小さなテーブルがあり、サヤカがテーブルに伏せていた。


ドキっとして、恐る恐るサヤカを見ると眠っているようだった。ドキっとする心臓は止まってるのに…

少し自分が面白かった。


部屋に入りサヤカの顔を覗き込む。


「……っ」

泣いていた。サヤカは泣いたまま眠っていた。

ぼくは声が出なかった。


サヤカは右手に写真を持っていた。

それは去年一緒に動物園に行き、クマをバックに撮った写真だった。ぼくとサヤカは楽しそうに笑っていた。


サヤカはクマが好きだった。

ある時、いつも行く動物園のクマを見ながら言い出した。

「サヤカな、将来クマ飼いたい!クマとシャケ捕まえるねん!」


「いや、そりゃムリやろ…」

さすがのぼくも呆れて言うと


「もう!サトルは夢がないなぁ!」

と、言いながら「あははははは」と笑っていた。


少し天然で、いつもパタパタ動き回り、大きな声で笑っているのでどこにいてもすぐにわかる。

誰とでも仲良くしてるかと思えば、急に拗ねてみたり…

そんなサヤカがぼくは好きだった。


ぼくはルイを見る。

ルイは静かに頷いていた。


テーブルに伏せているサヤカの顔を、愛おしく見るぼくがいた。

おでこにかかる前髪に触れようとするが、やはり触れることができない。


「やっぱり、もう触れる事もできないんやな…」

涙が溢れそうになる。


眠っているサヤカの横に座り、ゆっくりと話し出した。

「サヤカ、かあさんの事ありがとう…」


次の言葉が出てこない。

何か大切な事を伝えなきゃダメなのに…

何も言葉が出てこなかった。

ぼくはサヤカの寝顔を黙って見ていた。


「やっぱり、寝顔もかわいいなぁ」

ぽつりとつぶやいた。


「…しってる」

サヤカは少し笑って、つぶやいた。


「ええ?!」

ルイは目を丸くして驚いて、声が出たのを隠そうと両手で自分の口を隠している。


「サヤカはね、ぼくが褒めるといつもこうやねん」

あははははと、笑いながらルイに説明した。


「びっくりしたぁ。あまりそんな事言う人いないよねぇ」

ルイは笑っていた。


「そやなぁ」


サヤカの部屋に、誰も聞こえない笑い声が響いていた。

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