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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
14/20

母との別れ

声もかけることもできない…

そんな状態にぼくは手を握りしめて俯いていた。


せめて一言でも伝えることが出来れば…


涙が溢れそうになる…


ルイはそんなぼくを見て手を握ってくれていた。

ありがとうと言いたいのに、声が出ない。

ただ俯いて涙を堪えるしか出来なかった。


ルイは、少し息を吐き

「お兄さん、お母さんやサヤカさんと話がしたいのでしょ? ひとつだけ方法があるよ」


ぼくは勢いよくルイの方を見た。

「は… 話せるん?」


ルイは少しだけ沈黙してから、ぼくを見て話しだした。

「うん。本当はルイから教えるのはよくないのだけど、今回は特別ね。霊になった人は生きている人が眠っている時だけ話しかけることができるの」


ぼくは黙って聞いている。


「ただね、生きてる人は話した事を覚えてないことが多いの。たまに夢に出てきて話したとか言う人がいるけどね…」


「なるほど、夢枕に立つってやつか…」

よく故人が夢に出てきて、話をしたって言ってる人がいる。ぼくはあまり信じてなかったが、あえて否定する事もしなかった。

その人が会いたかった故人と会い、話しをしたと喜んでいるのだ。それを否定するなんてできない。


「しかし、あの話ってホンマやったんや…」

こんな所で真実を知るとは…

人生は不思議だ…

って、ぼくの人生はもう終わってるけど。


「どうする?話してみる?」

ルイは首を傾げてぼくを見ている。


「もちろん、ぜひお願いします」


ぼくたちは、母親が眠るのを待つことにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆


母親がベッドに入ると、すぐに寝息が聞こえてきた。

ベッドに入って3秒で寝ている。

寝付きがいいにもほどがあるだろ!と、感心しているような、呆れているような…


とりあえず起きないかしばらく様子を見るが、一向に起きる気配がない。

母親の特技を初めて知った気分だった。


母親が起きない事を確認して、ルイの方を見る。

ルイは無言で頷いて、話しかけても良いと合図した。


ぼくは母親の手を握ろうとするが、手がすり抜けてしまい握れないので母親の隣に跪く。


「かあさん。ぼくを産んでくれて、そして育ててくれてありがとう。」

ぼくはゆっくりと話し出した。


「子供の頃からぼくはひ弱で心配ばかりかけたね。働き出してからもいろいろ心配かけたと思う。 あ、ぼくな!会社でプロジェクトリーダーに抜擢されてん! もう少しでぼくが作った最高のゲームが流行る予定やったんやけど…」

はははと、乾いた笑いが出る。


「かあさん、ごめんな。本当はぼくがかあさんを見送らなきゃあかんのに。かあさんを悲しませてしまって… ほんとにごめん」


眠っている母親が、不意に涙を流し

「サトル…」

と、つぶやいた。


「かあさん…」


「かあさん、これからも元気で生きて下さい。そして、出来るなら幸せになって下さい。ぼくは見守るしかできないけど、かあさんの幸せを願っています…」

ぼくは深いため息をつき、立ち上がった。


「もう大丈夫?」

ルイが声をかけてきた。


「ありがとう。伝えたいこと、話したいことは尽きないけど… もう、大丈夫」

ぼくはルイに見えないように涙を拭った。


「そう。よかった…」


ぼくたちは、母親の寝室を出てサヤカの家に向かう事にした。

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