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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
13/20

サヤカ

サヤカは母親と夕飯を食べ、他愛のない話しを1時間ほどしていた。

「あ、もうこんな時間!」

サヤカは時計を見て立ち上がる。

時計は22時を少し過ぎていた。


「おばちゃん、そろそろ帰るね。ちゃんとご飯食べて元気出さなきゃダメなんだよ」

パタパタと帰り支度をしながらサヤカは母親に話しかける。


「サヤカちゃん、いつもありがとうね」

母親はお見送りのため、立ち上がる。


「それじゃ、またくるね!」

ニコニコしながら、サヤカは母親の手を握る。


「ありがとう。大丈夫」

握られた手を少し見て、顔を上げ微笑む母親は少し寂しげだった。


サヤカは少しだけ目を伏せたあと、パッと明るい表情で

「またね!」

と、手を振って玄関を出て行った。


母親はしばらく閉まった玄関を見つめたあと、ふぅと息を吐き

「ダメね!元気出さなきゃ!」

と、言うとリビングに帰っていった。


ぼくはただ2人を見ているしかできなかった…

なにもできない、声をかけることすらできない自分がたまらなく悔しかった…


それから数日、ぼくはリビングで母親を見守っていた。と、言うより見ることしか出来なかった。

そんなぼくの気持ちを慰めてくれるように、毎日サヤカはやって来て母親と一緒に居てくれていた。


「サヤカさん、いい人だね」

ルイはつぶやいた。


「うん、ぼくには勿体ないくらい良い子だよ…」


◇◆◇◆◇◆◇◆


サヤカとぼくは幼なじみだった。

小さい頃から活発なサヤカは一年中日焼けしていた。

子供の頃のサヤカはショートカットで、少し切れ長の目と筋の通った鼻、薄い唇で、どちらかと言うと男の子っぽい女の子だった。

対してぼくは色白で、ひ弱な子供でよく年上の男の子にからかわれていた。

その度にサヤカはぼくを助けてくれて、ひ弱なぼくを引っ張って遊んでくれていた。

いつも一緒にいたぼくは自然とサヤカに恋心を抱くようになっていた。


中学の頃、父親が女の人と家を出て行った。

母親は泣き崩れ、父親を引き止めようとしたがダメだった。

中学生のぼくは母親を抱きしめるしかできなかった。

そして、そんな父親の血が自分にも入っている事を嫌悪すると共に、いつか自分も同じ事をするかもと恐れてしまった。

その時から、サヤカへの恋心を封印し『だれも好きになってはいけない』と思うようなった。


そのまま中学を卒業し、サヤカとも会わなくなり数年が過ぎた。

大学生になったぼくは買い物に出かけていた。

たまたま、そこでサヤカと再会した。サヤカは相変わらず日焼けしてショートカットのままだった。


ばったり会ったサヤカと喫茶店に入り、思い出話しに花を咲かせていた。

それから何度か連絡を取り合い話しをしていた。

サヤカと居ると、何もなくても楽しく幸せな気分になる自分がいる事に気がついた。


ある日、ぼくは意を決して告白する事にした。

実は子供の頃から好きだったこと、サヤカと居ると幸せな気持ちになること…

ぼくは耳まで真っ赤になりながら告白した。


サヤカは、少し赤くなり俯いていたが

「サトル、サヤカもずっと好きだったんだよ… 気がつかなかったの?」

と、言ったあと笑っていた。切れ長の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


ぼくたちはこうして付き合うようになった。

あれから12年、週末はいつも一緒に過ごし、お互いの家族とも仲良くしていた。


サヤカは、ぼくの母親も自分の母親のように慕ってくれていたのだった…


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