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ぼくが死ぬまでに  作者: わたぼうし
12/20

再会と後悔

電車に乗った時と同じように、ぼくたちは新幹線を無賃乗車した。いくらぼくたちが霊体で、誰にも見えていなくても罪悪感がある…

改札口で「ごめんなさい、ありがとうございました」

と、駅員さんに声をかけるが、当然、駅員さんには届かない。仕方ないと割り切っていくとしよう。


一方、ルイはかなり新幹線が楽しいらしく、ずっと目を輝かせながら車窓からの景色を楽しんでいた。

ときおり、「うわ!速い!」とか、「すごっ!」とつぶやいていたが、ぼくはあえて聞こえないフリをしていた。


ちょうど夕食の時間帯に、ぼくが生まれ育った街に着いた。


駅から15分ほど歩くと、同じような家が立ち並ぶ住宅街に着く。

その中の一軒が母親が一人暮らししている『ぼくの家

』だ。名義的には母の家なのだが、ここはぼくが帰る場所だから『ぼくの家』なのだ。


なんとなく「ただいまー」と言いながら玄関をすり抜け屋内に入る。

玄関を入ると短い廊下があり、すぐにリビングに入る扉がある。

扉は開けっぱなしで、リビングの中央にあるテーブルには、読みかけの雑誌と冷めたお茶がある。

リビングの壁際にあるソファーには母親がぼんやりと座っていた。


「かあさん…」

母親の目は赤く腫れ、涙の跡が残っている。手は力なくソファーに放置され、生気のない表情をしていた。

ぼくは思わず母親の頬に触れようとするがすり抜けてしまう。


「かあさん、ごめんよ…」

どうすることもできず母親の前で膝をつき、ただ涙を流しながらあやまることしかできなかった。


ぼくは改めて『自分が死んだ』ことを実感し、心の底から悔やんでいた。

「ぼくは、とんでもない親不孝をしてしもた…」

無意識に発した言葉をルイはだまって横で聞いていた。


「ぼくはこれから結婚し、嫁と子供を連れてここに帰って来なあかんかったのに… 」


「かあさんはぼくや孫達と幸せに過ごし、そうして家族に囲まれて幸せなまま最後を迎えるはずやったのに…」


「ごめんなさい。かあさん…」


ルイはぼくの背中を優しくさすってくれている。

そのまま、静かな時間がしばらく続いた。


ぼくは少し落ち着いてから、リビングを見渡した。もう夕食の時間が過ぎているのに食事の準備どころか、何かを食べた形跡もない。


ルイも同じ事に気がついたらしく、リビングを見渡したあと声をかけてきた。


「お兄さん、お母さんは一人なの?お父さんは?」

母親の近くに誰かがついていれば、心の支えにもなるしキチンと食事もするだろうと考えたようだ。


「父さんは、ぼくが中学生の頃に女の人と出て行ってもた。それからはぼくとかあさんの二人暮らしやってん」

苦々しい思い出に奥歯をガリっと噛み締める。


「そう、悪い事聞いちゃった。ごめんね」

ルイは気まずそうに謝る。


「ううん、ええよ。終わった事やし。」


その時、玄関がガチャと開いた。

「おばちゃん、おるー?」

玄関が開いた瞬間に若い女性の声がリビングに響いた。


ソファーに座っていた母親は、のそりと立ち上がり玄関に向かう。

「あらぁ、サヤカちゃん」

少しだけ母親の顔に生気が戻る。


「こんばんは!おばちゃんご飯食べた?まだやったら一緒に食べようよ!」

サヤカはニコニコしながら明るくハキハキした声で、右手に持った買い物袋を持ち上げて見せた。


「あらあら、いつもありがとうねぇ」

母親は少し笑い、サヤカをリビングに迎え入れる。


「あー!また何も食べてなぁい!アカンやん!」

サヤカはリビングのテーブルを見て声をあげる。


「なんか、食べるのもしんどくてねぇ」

母親は申し訳なさそうに、悲しげな微笑みをした。


「ダメよ!ちゃんと食べなきゃ!サトルも心配するよ?」

サヤカはそう言いながら、さっさとキッチンに入り夕飯の支度を始める。


「そうやねぇ。しっかりしなきゃねぇ」

母親もキッチンに入り、夕食の準備を手伝いだした。


ルイは2人を見ながら

「お兄さん、あのサヤカさんは?」

「あぁ、ぼくの彼女だよ。んー、彼女だった…かな? ぼく死んじゃったし…」

「そうなんだぁ」


ぼくたちは、リビングから二人を見ていた。

母親が少し元気になったようで安心し、サヤカに感謝していた。


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