project MM
(株)OTSの扉をすり抜けると、フリースペースが広がっており、50人くらい入れそうなスペースを30人くらいでゆったり使っている。
スペースの奥にはガラス張りの個室があり、社長と副社長の2人が仕事をしている。
ぼくたち社員には決められた自席はなく、フリースペースの空いている机を使っている。
左手の壁には全社員の『本日の予定』が掲示してある。
ぼくはいつものクセで『本日の予定』を確認した。
そこには『カタヤマ』の欄があり、『13時からA会議室で会議』と書かれている。
「この字は…」
カタヤマの本日の予定を指でなぞる。
これを書いたのは『タケダ』だと、すぐに分かった。
タケダはぼくの2つ年下の後輩で、なんでも相談できる仕事仲間であり、ライバルであり、そして親友だ。
「あいつ…」
「いいお友達だね」
ルイは微笑んでぼくを見る。
「ほんま、アホなヤツやで…」
ぼくは悪態をつきながら、涙が溢れそうになるのを必死で堪えていた。
時計を見ると14時過ぎ。
そろそろ会議も終わる頃だと思いながら、A会議室に向かう。
A会議室の前に着くと、会議が終わったようで3名の男性が資料とPCを片手に出てきた。
会議室の中にはタケダが1人残り、少し疲れた様子で座っている。
会議室に設置しているホワイトボードには、『project MM』と書かれており、ゲームのコンセプトや、さまざまなアイデアが書かれていた。
「カタヤマ先輩… おれにはムリっす。こんなゲーム作れないっす…」
タケダは椅子に浅く座り、天井を見ながらため息をつく。
急にタケダは机を両手で叩き、
「なんなんすか!MMって!意味がわからないっす!」
タケダは叫んだ後、頭を抱えてふさぎ込んでしまった。
ぼくはタケダの肩を撫でようとするが、手がすり抜けてしまう。
ルイがぼくの服の裾をひっぱり、こちらを見ている。
「ん?どうしたん?」
「お兄さん、project MMってなに?」
ルイはそう言って首を傾げていた。
「あぁ、project MMはぼくが考案したスマホゲームやねん。muscle maniaでMM。このゲームを進めていくと誰もがボディービルダーのようなマッチョになれるのだ!」
ぼくは右手で天井を指差したあと、流れるようにルイを指差してからサムズアップ。
キランと光る歯も忘れない。
しばらくの沈黙のあと、
「はぁ…。お兄さん、意外とバカなんだね…」
ため息を吐きながら肩を落とすルイ。
会議室には冷たい風が吹き荒れていた…