驟雨沛然
夜。雨が来た。にわかに降り出したのを音が小さいから放っておこうとした矢先、とても耐えられないほどになって、手を伸ばす。
閉めたそばからやんでいく。驟雨。窓を開けてもう一度集中、草稿を考えるうち、ぽつりぽつり、と聞こえるまもなく、ザーザー降り。睨んだ。ぱらぱら。草稿はさっぱりで、髪に当たって、横を向く。糸は見えない。
今度こそキーボードを打とうと、思い半ばに目を返す折から、耳を打つのは、軒から落ちる、水と水とのはねる音。葉先をかすめる響も風の音に消されるうち雨足も強くなる。窓に手を掛けて、止まった。
レースのカーテンは夜に吸い込まれていく。ひらめくまもなく吸い込まれて。こんなことをしてちゃいけないのに、今はこのままで。雨には勝てない。
雨足も落ち着けば蟋蟀の歌う声。耳に手をかざすと、コロコロじゃなくて、ヒュヒュヒュヒュ。ヒュヒュヒュヒュー。仲間に入れてほしくて、唇をすぼめて真似っこする。だけれどにわかに驟雨沛然、歌はもう、聴こえない。
読んでいただきありがとうございました。